表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元人間の人食い箱  作者: 水 百十
第1章
3/58

第2話 遭遇

 俺の前に現れたのはボーイスカウトの様な服装をした少年、兜以外の全身鎧を着た青年、赤黒い色のドレスを着て杖を持った女性だった。


「じゃあサム、頼む」

「了解だレックス!」


 サムと呼ばれた少年がレックスと呼ばれた青年に返事をし、俺の前に来る。

 どうやら俺についている鍵を開けようとしているようだ。サムは鍵師か何かだろうか。


「あれ~? 鍵は開いてると思うんだけど、開かないな~」


 それもそうだ。ミミックの見た目についている鍵はダミーであり、開くか開かないかはこっち側のさじ加減だ。

 今はひたすらこじ開けようとしているサムに顎の力で耐えながらどうするか考えていた。

 ミミックとしてはこのままガブッと噛みつくのが正しいのだろうが、やはり気持ち的にできない。

 だが、空腹なのも事実だ。このままこの3人が諦めて、その後誰も訪ねてこなかったら恐らく俺は餓死してしまうだろう。

 一か八か、対話を試みてみるしかない。口の力を緩める。

 宝箱が開き、分かりやすく喜びが出たサムの表情はすぐに一変した。


「あ、あぁまさか……!」

「サム! 下がれ!」


 レックスが腰に差していた鞘から剣を抜き、後ろを警戒していた女性が杖をこちらに向ける。だが、サムは腰が抜けたらしく俺の前で立ち竦む。

 というかレックスの剣凄いな、なんか光ってる……ってそんなことより、やっぱり怖がられている。声を掛けてみよう。


「あ、あの~……」


 3人が驚いたような表情をすると、レックスと杖を持った女性が更に警戒を強めた。

 驚いていたサムも立ち直り、2人の後ろに隠れる。


「こんな初級ダンジョンに喋るミミック!? そんな事って……!」


 杖を持った女性がそう言う。


「大丈夫だイザベラ。僕たちなら落ち着いて対処できる。しかし喋るミミックは死の魔法を詠唱される。普通のミミックとは比べ物にならない程厄介のはずだ」


 杖を持った女性――イザベラに対してレックスが答えた。

 ミミックってこの世界でもやっぱり覚える魔法はそんな感じなのか。でも、俺は喋れるからと言ってそんな呪文は覚えたつもりは無い。喋れる普通のミミックだ。


「あの、話を聞いてはもらえませ……」

「詠唱が完成する前に攻撃しないと!」


 イザベラが俺の言葉を遮ってそう言う。


「はぁっ!」


 レックスがイザベラの言葉を聞き斬りかかってきた。


「うわわっ!」


 とっさに後ろにずれて避ける...がもう体力が限界だ。


「やはり普通のミミックと違って俊敏よ!気を付けて!」


 いや、もう動けません。ギリギリです。


「ていやぁ!」

「がはぁ! ぐうぅ……」


 2撃目には普通に切られる。やっぱり木箱部分を切られても痛みを感じるんだな~…とかどうでもいいことを考えそうになるが絶体絶命だ。


「どうして……何もしてないのに……」


 思わず声が漏れる。動かずに無害を主張してみるしかない。


「チャンスよ!」


 痛みもあるが、それ以上に言葉が通じているはずなのに、まったく相手にされなかったことが悲しくなってくる。


「なんで…襲うつもりなんてないのに……放っておいていても勝手に死ぬのに……」


 俺の言葉を聞いたレックスが一寸攻撃を躊躇する。


「魔物のいう事なんて真に受けないで!」


 イザベラがそう言う。

 魔物……それも人間を主食とするミミックの言う事なんて信用されなくて当然だ。しかし、このまま斬り殺されるとわかっていても言葉を止められなかった。


「お願いだ……君たちを食べたりしないから…なにか食べ物を……」


 その時。


「あっ!」


 イザベラの声が聞こえたかと思うとさっきまで2人の後ろに隠れていたサムがレックスと俺の間に入っていた。


「やめてあげて!」


 サムがそう言った時、ただ俺は嬉しかった。

 誰にも信用されないと思っていたのに、この少年は俺の言葉を信じてくれた。それだけで本当に嬉しかった。


「サムッ!? 危ない! 早く距離を取って!」

「そうだ! こいつは魔王軍の残党なんだぞ!」

「嫌だ! そんなに危ない魔物だったら、開けた瞬間に殺されてたっ!」

「だがっ……!」

「何より! この魔物……泣いてる……」


 サムが涙目になりながらがそう言って初めて自分も涙を流していることに気付いた。

 ミミックに目は無い。だから俺自身泣くことなど無いと思っていた。

 だが俺の蓋の真ん中あたりの木の隙間から水が流れていた。

 ただでさえ少ない水分がどんどん失われていくのがわかる。しかし、俺はその涙を自分で止めることが出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ