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元人間の人食い箱  作者: 水 百十
第2章
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第27話 謎の少女

 翌日。山小屋を出発し、5時間ほど歩き続けてようやく山頂が近づいてきた。

 昨日の反省を活かし、俺がサムに空間魔法を掛けつつ登ってきたためサムは息切れを起こしていない。だが昨日よりも勾配が厳しくなっているために、このペースでも山頂までまだもう少しかかりそうだ。着いたらまた宿探しが先決か……




「昨日も話したが、タヴォカハ山の山頂から連なる尾根にアクチェス程ではないが規模のそこそこ大きい町がある。到着したら食料や道具を調達できる。あと少しだ」


 しばらく歩き続けた時にレックスがそう声を掛けてきた。


「思ったんだが、山の尾根に町があるって生活するには不便じゃないのか?」

「住人が生活や商売するための物資の調達などは大変らしいが、俺達みたいなこの山を越える人達にとっては丁度いい場所だ。人が多く泊まっていく分需要も高い」


 確かにここに来るまで冒険者だけでなく多くの旅人とすれ違った。その全てが尾根を越えて反対側に向かうわけだから稼ぐにはよさそうだ。


 その時、山頂側の山道から降りてくる人影が見えた。


「珍しいな……」


 レックスがその人物を見ながらそう言った。

 下りてきたのは見たところサムかそれ以下、15~16歳ぐらいの少女だった。その点に限れば別に珍しくは無い。現にサムも今登っている。

 レックスが珍しいと言ったのは、降りてくるのがその少女一人だけだったからだ。俺達の様にパーティを組んでいるようでも、誰かに護衛されているようでもない。

 それに、1人でいるにしても山で過ごすための道具や荷物、魔物と戦う武器も持っている様子もない。服装も山を歩くには軽装過ぎるような恰好だ。例えるなら、古代ギリシャと言われて思い浮かぶようなあの布1枚で出来てるようなヤツだ。

 え? 俺もローブの下はTシャツとジーンズだけじゃないかって? 俺は薄着でも怪我する心配が無いからいいんだよ。


 《お前は誰と話しているんだ……?》


 ……なによりこの少女がこの山を無事に下山できるとも、山頂まで戻る事が出来るとも思えない。大方山頂の町から少し周辺の散策をするために出てきて迷ってしまったとかだろうか。


「おーい、そこの君! ここは山頂の町から結構離れているけど、大丈夫か?」


 レックスが声を掛ける。ここで放っておけないのがレックスの勇者らしいところだろう。


「ぇ? ……ゎ、私ですか?」


 おどおどしたような小声で自分を指差しながらそう言った少女に対し、レックスが続ける。


「そう、君だ。君は山頂の町から来たんだろう? 戻れなくなっているようなら送っていこうか?」

「ぅ、ぃゃ、ぁ……そ、そうなんです! お願いします!」


 一瞬戸惑うような素振りを見せたが、ついてくるようだ。


 《おいおい、いいのかよ?》


 レックスじゃないが、困っている子が居たら助けなきゃダメだろ。お前、少しは人間に情が移ったんじゃないのかよ?


 《俺は人間に情なんて移ってねぇよ! そうじゃなくてな――》


 あ、ヤバ。


 ゼラノスが何か言いかけていたが、魔力が減ってきたことによってゼラノスの声が途切れてしまった。

 サムに魔法を使っていたせいで昨日までの感覚より早く魔力を消費してしまったようだ。擬態魔法はなんとか解けていないが時間の問題だ。


「サム! 何か食べ物を……」


 そう言いかけて立ち眩みが襲って来たのでサムの両肩を正面から掴むようにして寄りかかる。


「えぇ!? マティスさんどうしたんですか!? ……!」


 突然抱き着く様に倒れ込んできた俺に驚くサムだが、俺の魔力が枯渇してしていることに気付いてすぐに鞄からパンを取り出す。


「あぁ……ありがとうサム」

 《おいおい、魔力管理はしっかりしてくれよ?》


 サムの取り出したパンを食べたおかげでなんとか魔力が回復する。


「だ、大丈夫ですか……?」


 少女が心配そうに声を掛けてくる。

 昨日までなら、ゼラノスの声が聞こえなくなるほど擬態魔法を無理して使い続ける必要はなかったのだが、今はこの少女がいる。俺が魔物なのがバレるのは色々とまずい。


「少し空腹で倒れそうになっただけだよ。問題ない」

「そ、そうなんですか……」


 かなり、苦しい言い訳な気もするが、これで乗り切るしかない。


「そういえば、名前を聞いてなかったな? なんて言うんだ? ちなみ俺はマティスだ」


 話題を逸らすためにも話を続ける。


「え!? 名前……ですか?」


 驚いたような、何かを思い出したような表情をする少女。


「あれ? なんかダメな質問だった? それとも名前言えない理由とかある?」


 この世界に詳しくないので、名前を聞くのは何かいけない常識とかマナー違反の様なものだったのかと思いレックスの方を見るが、分からないと言った表情をしている。


「ぃゃ、そ、そうじゃないんですけど……えぇと……」

「俺の事なんか警戒してる? 確かにちょっと変な行動とっちゃったけど……」

「そんな! ち、違います……あの……」


 少女が口ごもっていると、町の入り口が見えてきた。やはり町の外周は壁に覆われているようだが、アクチェスの町のそれ程高くないようだった。


「あ、町に着きましたよ!」


 サムが声を上げる。


「マティス、大丈夫? この子の事は私達でなんとかしておくから、サムと一緒に宿を探してきていいわよ」


 イザベラが俺に心配するように声を掛ける。俺も擬態できる時間もあと少しなので気遣ってくれているようだ。




 門番の所まで付くと、俺とサムは一足先に入口での検査を受けて中に入る。後ろを見るとレックスとイザベラが少女を連れて門番と話をしているのが見えた。

 結局名前を聞けなかったな~……と思いながらその様子を見ていると、少女と目が合った。


「あの! 私の名前ラミって言います!」


 なんとさっきまでの小声が嘘のようにはっきりと透る声でそう叫んだ少女――ラミ。

 俺に対して距離があるのかと思っていたが、どうやら思い違いだったようだ。

 だとしたらなんで名前を言うのをためらっていたのだろうか……その理由が気になったが、今は宿を探さないとな。

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