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元人間の人食い箱  作者: 水 百十
第2章
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第26話 魔法と魔力

 5日程歩き続け、前々から見えていた山の麓までやってきた。

 歩き続けてと言ったが、俺が行動できるのは擬態魔法の関係で1日で約6~7時間。それに、途中で現れる魔物の対応に追われていたため普通に歩き続けるのに比べてかなり遅い。

 本来の意味でで歩き続けられれば2日程で着く距離だろう。ゼラノスが言うには擬態魔法は使い続けるほど魔力の消費を抑えられるようになって擬態出来る時間が伸びるそうだ。事実、初日の時よりも1時間ほど長くできるようになってきている。

 ゆくゆくは使い続けられるようにしていきたいが……何より今は目の前にそびえる山を超えることを考えなくてはいけない。今までに比べても、高低差なども相まってさらに大変そうだ。


「本当にこれ登るのかぁ……?」

「仕方ないだろ、タヴォカハ周辺の山脈を迂回したら王国まで何日かかると思ってるんだ」

「そうは言ってもさぁ……」


 その山は富士山のように高く、しかも周りも少し低いとはいえ、同じような高さの山で山脈になっている。

 王国へ行くための近道とはいえ、越えるのは骨が折れそうだ。

 服装も登山ブーツを履いてはいるが、それ以外はTシャツにジーンズ、それにフード付きのロングコートだ。まあ、体はミミックだから服装なんて意味ないかもしれんが。

 ん? もしかして人間に擬態しているだけのミミックなら身体能力とかも違って登山も楽勝なのでは……?


 《擬態魔法で変化した体は変化先の物の性質や構造に準ずるぞ。ミミックの状態では目が無くても周りを見ることができるが、他の生物に擬態している時に目を潰されれば当然目は見えなくなる、って具合でな。まぁ、擬態を解いても目が見えないままになるわけではないが》


 ってことは……


 《身体機能は人間のそれと同じだ。頑張れ》


 聞きたくない情報だった……更に登山が嫌になる。


 《とはいえ、冒険者ギルドとやらの時もそうだが戦闘力は変わらない。人間の中では強い方ではあるだろうから、辛くは無いはずだぞ》


 フォローを入れてくるゼラノス。確かにスコットとの腕相撲は圧勝だった。


「僕も頑張りますから、マティスさんも頑張りましょう!」


 サムも俺のことを励ましてくれている。4人の中で体力的に一番大変なのはサムだ。俺が嫌と言うわけにはいかない。ここまで来るのですら俺のせいでかなり時間がかかっているのだ。迂回などしたら途方もない。


「わかった、行こう!」






「はぁ……はぁ……」


 4時間後、疲れによって荒い息を上げているのは…………サムだった。


「はぁ……マティスさん……全然疲れてないじゃないですか……」

「うん、そうだったわ」

「えぇ……ごほっ……」


 なんだかんだで俺はレックスの次に体力があるらしい。それでも、冒険者であるだけあってサムのペースに合わせても山の中腹程まで辿り着いていた。


「そろそろ擬態が切れそうだ……」


 腹の減り具合から何となく自分の体内に残っている魔力の量が分かるようになってきた。


「もう少し登ったところに山小屋がある。そこまで行けそうか? ダメそうなら俺が背負っていくが」


 レックスが俺の呟きにそう訊ねる。


「こんな山道で俺を背負わせるわけにはいかないだろ。俺、重いんだし。ただ、少し食料を喰わしてくれ」


 そういえば、今の俺の人食い箱(ミミック)としての体重は恐らく200㎏程ある。ギルドで筆記試験の後に体重を量った時は、空間魔法を使って自分の体重を軽くしていたにもかかわらず針が振りきってしまい、体重計の故障だと思われた。

 それで分かったが、少なくとも俺が人食い箱(ミミック)より軽いものに擬態したときの体重は擬態対象と同じにならない。体の密度とかどうなってるのか気になるが、気にしたら負けだ。擬態したものに対して体重が変われば鳥にでも擬態して飛んで楽して進もうと思ったのだが……上手くいかないものだ。

 元の体重より重いものに擬態した場合はどうなるかも気になったが、そこはゼラノスも知らないらしい。今度検証してみよう。

 ところで、今の俺の体重だと空間魔法を使わずに建物の2階に上ったら建材によっては床が抜ける可能性もあるな…………その重さの俺を肩に乗っけたり、小脇に抱えて軽々と運べるレックスも異常だが、あまり迷惑は掛けたくないので今は自分で歩きたい。


「分かった。サム、出せるか?」

「大丈夫。時間が迫っているけど、少しだけ休憩しましょう!」


 サムがレックスの言葉に答えながら背負っていた鞄を下ろして、その中の食料を探る。


 実は正直なところ、今の魔力の消費効率が悪い擬態魔法でも食べ物を喰いまくっていれば擬態し続けられる。だが、そんなことをしていては食費がいくらあっても足りないだろう。なにより、今は食料が限られている。店でいつでも食べ物が買える状態ですらないのだ。

 何故食べ物を食べることで魔力が回復するのか。それについては、そもそも魔力とは何かという話になってくる。俺の元居た世界(地球)では無い概念であり、分からないことだらけだ。そんな訳でこの5日間でゼラノスから色々と魔力に付いて知識を伝えてもらっていた。


 魔力はこの世界の空間全体に満たされるように存在し、物体の構成にも関わる元素の様な物で、動物、植物、魔物等の生物全てが吸収し、扱うことが出来る。魔力を蓄えることのできる量は生物1個体ずつで異なるが、魔力を吸収する手段は生物の種類によって決まっている。

 植物やまだこの世界では技術的に発見されていない微生物は、空間に満ちる魔力をそのまま自然に吸収することができるが、植物などが魔法を行使してくるようなことは無い。稀に植物が過剰に蓄えた魔力によって突然変異を起こし、魔物へと変化することがあるようだが……この話は置いておこう。

 それに対して動物や魔物は、基本的に食物連鎖の中で植物や他の動物などの食べた物から魔力を吸収する。人間を始めとするその他の動物は、食べた物から魔力以外の栄養も色々と吸収するが、魔物は食べた物を全て魔力に変換し、吸収する。

 要するに、動物よりも魔物の方が生物として魔力に依存している。故に人間は魔力を消費しても空腹感を覚えることは無いのに、俺が魔法を行使すると腹が減る感覚がするのはそのためだそうだ。

 だからといって魔物が動物に劣っているというわけではない。食べたものを全て魔力に変換できるということは、動物と魔物が同じものを食べても魔物の方が多くの魔力を得られるのだ。


 なぜ動物や魔物は植物などと違って空間から魔力を吸収する事が出来ないのか、と言われてもそういう風に出来ているのだから仕方ないと答えるほかない。人間が光合成出来たらいいなぁと思うぐらい無謀な事なのだ。

 まぁとんでもない魔力の容量を持っていて、その不可能なはずの魔力の自然回復を当たり前のようにしている勇者(レックス)という存在が目の前にいるんだが……こいつが例外過ぎるだけなので今は考えなくていい。


 俺は今、レックス達とともに1日3食食べている。その量から吸収した魔力で擬態出来る時間が6~7時間という数字だ。

 本来、魔王の半分にも匹敵する俺の魔力容量いっぱいに魔力がある状態なら食事なしで丸1年ほど擬態することも容易なのだが、ダンジョンに年単位で何も食べずにいた間に死にかけるギリギリまで俺の魔力は減ってしまった。

 魔法を使わず食べ物を食べ続けていれば自然と俺の魔力は蓄えられていくのだが、毎日擬態魔法を使い続けている現状それは出来ない。擬態魔法の練度が上がり、1日3食で得られる魔力量で24時間以上擬態出来るようになれば、余った魔力は自然と俺に蓄えられるようになるはずだが、まだまだその域に辿り着くまでには時間がかかりそうだった。

 それでも、いつもより少しでも多めに食事を摂れば擬態出来る時間は伸びる。それでなんとか山小屋までは辿り着こうと俺はサムが取り出してくれた食べ物に口を付ける……ってこれ


あの店のパン(ハンバーガー)じゃねぇか!」

「そうです! リリィさんが出発するときに助けてくれたお礼として、沢山分けてくれたんです」


 ここまでの旅路で1度も出てこなかったので驚いた。

 結局あの時は俺だけじゃ何もできなかったし、エディがいてくれたおかげなんだが……


「ちなみに、エドワードさんはこの2倍ぐらい貰ってました」


 うん、まあそうだよね。リリィ、明らかにエディの事好きみたいだったし。ところで……


「これ、だいぶ時間経ってると思うんだが……」

「レックスがこの鞄に時間を止める魔法を掛けてくれたんです」


 時間に干渉するとかチートじゃねぇか。本当に勇者何でもアリだな。使い方はなんかしょぼいけど……


「アクチェスでは結局2日連続で食べてしまいましたからね。そろそろ口も飽きが無くなってきたころかと思って」


 確かに丁度いいタイミングだ。


「私も貰っていいかしら?」


 イザベラが隣から声を掛けてくる。


「もちろんですよ。リリィさんもイザベラさんにもって言っていました」


 サムが鞄からもう1つ取りだしてイザベラに渡した。


「私なんて早々に敵の罠に嵌まって、マティスとエディが居なかったら何もできなかったのに……」

「でも、魔力が復活してからのイザベラはとても強くて凄かったじゃないですか!」


 サムがテンションの低いイザベラにそう声を掛ける。


「そんな事無いわよ……」


 と言いつつも、サムの言葉が効いたのかイザベラのハンバーガーにかぶりつく表情は嬉しそうだった。

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