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元人間の人食い箱  作者: 水 百十
第1章
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第23話 勇者

「時間切れだ勇者レックス! すぐに『雷剣』が落ちてくる! お前ら、魔方陣を維持したまま退避しろ!」


 レックスは掛けられた声とともに周りの気配が遠のいていくのを感じた。

 その時、遥か上空に輝くものが現れる。男――3番が叫ぶ。


「来た! 来た!」


 レックスはそれを視界に入れるとゆっくりと目を瞑った。


 そして確信を持ったように言葉を発する。



「――ナイスだ。マティス、エディ」



 そのまま右手を上に高く掲げるレックス。


「勇者の腕が動いている! お前ら! 魔方陣の制御が甘いぞ!」

「そんなんじゃないさ」


 その瞬間、轟音とともにとてつもない衝撃波が発生し、突風が吹く。

 余りにも強い風に思わず顔を覆う3番。風によって草原にもかかわらず土煙が舞う。


 少し時間が経ち、土煙が晴れてくる。


「やったか?」


 しかし、3番は目の前の光景に言葉を失う。視線の先には地面に突き刺さった『雷剣』に貫かれた無残な勇者の姿が……無かった。


「まさか…………ありえない!」


「……いや~危なかった」


 そこには先程と変わらず右手を上に掲げた勇者の姿があった。唯一の違いはその掲げられて右手に恐ろしく巨大な『雷剣』の切先を掴んでいることだけだった。


「これは邪魔だな」


 レックスはそう言い放ち、30m程ある『雷剣』を軽々と放り投げる。投げられた刀身はくるっと半回転し、切先が上になるように持ち直した。


「お返しするか」


 レックスの眼が10数㎞離れた魔翔爆撃機を捉える。そのまま右手を振り、『雷剣』をぶん投げる。そのまま雷剣は落ちてきた速度より早く飛んでいった。


「ば、化け物……」


 3番はそう呟くしかなかった。


「安心しろ。お前ら全員逮捕してやる。それと俺はアイツと違ってれっきとした人間だぞ」






 なんか皮肉を言われている気がする……ってそんなことはどうでもいい。


「サム、大丈夫か?」

「僕は大丈夫です。それよりもさっきの外の大きな衝撃は……」


 店を襲った3人は既にイザベラとエディが拘束していた。


「魔道具は破壊したから、後はレックスが上手くやってくれるさ」

「……? レックスと何の関係があるんですか?」


 あ、しまった。サムはレックスが勇者ということを知らなかったんだった。


「あ~……詳しいことは後でレックスに聞いてくれ……」

「えーまたですか……」


 その時もう一度大きな衝撃が来た。


「またですね……行ってみましょうか」

「こっちはなんとかなったし……そうするか」


 レックスがその場にいたら言い逃れは出来ないだろうが、逆に正体をばらすいい機会かもしれない。本人から話したいと言っていたしな。


 パン屋を出ると2度の衝撃があった方を見る。


「どうやら町の外で起きていたみたいですね」

「みたいだな」


 壁の外で土煙が舞っているのが見えた。

 町に大きな被害が出ていないか心配だったが、少なくとも建物などに被害は無い様だ。




 サムとともに町の門を出て土煙が舞う中心に向かう。そこには……


「うわっ……! なんか人が大量に縛られてますよ!?」


 両手両足を縛られ、猿轡をはめられて無造作に放置されている数十人の男達がいた。そのすぐ横には、ひび割れたクレーターの様なものが残っていた。


「あっ! 他にも何か落ちてます!」


 サムが拾い上げたのは角の部分にバッジの刺さった羊皮紙だった。


「何か書いてありますよ。えーと…………ここ最近町で魔道具を使って強盗を繰り返していた集団を捕らえた。これを見たらこの手紙を持って町の衛兵を連れてきて欲しい。王国軍将軍――勇者……勇者様!?」


 これは……レックスのものでいいってことだろうか。もしかしなくても絶対そうだな。

 だが、肝心のレックス本人は何処に行ったんだ?


「これ……本物ですよ! この手紙に付いている記章、勇者様の物です! 実物は初めて見ましたけど……マティスさん! すぐに届けましょう!」


 レックスの行方も気になるが、この手紙がある以上無事なのだろう。俺達は下手な行動せずに、サムの言う通り手紙の指示に従った方がいいかもしれない。






 ――アクチェスの町、上空5000m。魔翔爆撃機(右翼全損)機内。


「まずいまずいまずい……」

「急激に高度が落ちている! もうおしまいだ!」

「何か助かる方法は……」


 落としたはずの『雷剣』が飛んで戻って来るというありえない事態が起こった機内はパニックに陥っていた。


勇者(化け物)に喧嘩を売ること自体間違ってたんだ! ただの試験ならコソコソとやっておけばよかったものを!」

「今の状況で誰かを責めても何にもならないだろ! 何か助かる手段を……」

「助かる方法なんてない! 俺達はここで終わりなんだよ!」

「脱出用のパラシュートも、右翼が破壊されたことによって起きた火災で保管庫ごと燃え尽きていた……墜落より先に炎で焼け死ぬかもな」


 この場にいる全員が生き延びることを諦めていた時、機内に大きな炸裂音が響く。音のした方向の出入口に向けて気圧差によって空気が吹き抜けていく。

 そのまま出入口は奥からやって来た炎によって燃え上がり、退路を塞ぐ。


「もう火の手がここまで……!」

「あぁ……あは、あはははは……」


 狂気から精神を保つことができなくなる者も現れる。


 その時――


「よう! 全員生きてるな! 投降するなら助けてやるぞ!」


 燃え盛る炎の中から現れた勇者がそう言った。

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