第21話 動きだす計画
サムとともにパン屋へ向かうと昨日と違って人が沢山いた。昼時なのもあるだろうが、やはり昨日の事件でやっている飲食店が少なくなったからだろう。
「みんな考えることは一緒みたいですね」
サムがそう呟く。
「そうだな……お? あれエディじゃないか?」
「そうですね。あっ! イザベラもいますよ!」
サムの言うとおり、4人席に向かい合うようにイザベラとエディが座っていた。
昨日と同じく適当にパンを選び、2人の下へ向かう。
「よー隣いいか?」
丁度4人席だったので2人分開いていた。
「あらサム、マティス。あなたたちも来てたのね」
「ここくらいしか思いつかなかったです」
席に座りつつイザベラにサムが答えた。
「レックスはどうしたんだ?」
「もう少し見回りをしてからくるって言ってたわ」
「そうなのか。エディはリリィに挨拶したか?」
「さっきしてきたよ」
俺の質問にエディとイザベラが答えた。
「じゃあ食べようか」
「そうですね」
昨日も食べたがやはり味は良い。やっぱり見た目も味も完全にハンバーガーだけど。
食べているうちに昼時の時間が過ぎ、店内も人が少なくなってきた。
隣の席の客も立ち上がって飲食スペースを出ていく。
「あの、荷物忘れてますよ」
隣に座っていたイザベラが先程立ち上がった客の置いて行った鞄を手に声を掛ける。
客の男が振り向いた瞬間、イザベラの手にしていた鞄が変形し、手枷となって両腕を拘束した。
――10分前。アクチェスの町郊外。
「確かにこっちに行ったはずなんだが……こっちは町の外だぞ?」
レックスは昨日の事件現場付近で怪しい動きをする男を見かけたので追いかけていた。町に外に出てしばらく歩いたが、見失ってしまった。
「あ~腹減ったな……」
元々根拠のないただの疑惑なので、諦めて昼飯を食べに戻ることにした時、異変に気付いた。
「魔法が……使えない」
昨日と同じ感覚。レックスの先程の予感は当たっていた。
咄嗟に踵を返そうとしたが、体が動かない。
「これは……設置魔法か」
設置魔法自体は簡単な魔法で、本来ならレックスが反魔法を発動すればすぐに解除できるのだが、今の状況だとそれすらできなかった。しかし同時に、彼に疑問が浮かんだ。
「その通りだ。その顔はなぜ設置魔法が使えているのかという顔だな」
その言葉とともに現れたのは先程までレックスが追っていた男。レックスが注意を凝らすと、彼の周りには数十の人の気配があった。
「教えてやろう。確かにアレはアクチェスの町全域よりも広い効果範囲を持ち、勇者であるお前が魔法を使えなくなるほどの強烈な効果を持っている。だが、抜け穴があるのさ」
アレというのは恐らく魔法を封じる魔道具の事だろうとレックスは予想する。
「アレは体や魔石から魔力の放出を完全に止め、魔法の発動を封じる。だから設置魔法をあらかじめ発動し、設置しておけば、アレを発動させた後でも魔方陣の制御さえしていれば魔法は残る。そして一度かかった後は反魔法を発動することは出来ない」
「聞いてもいないのに重要な情報をわざわざ話してくれるなんてご丁寧なこった」
「そんな態度を取れるのも今のうちだぞ。お前を殺す計画はもう始まっている。これから死ぬ相手に何を話そうとなんの意味もないだろう?」
「は~俺を殺す……ねぇ」
レックスは恐れるどころか、上から目線の姿勢を崩さない。
「このっ……!」
余裕を崩さないレックスに対して怒りを露にする男。だが、冷静さを取り戻し言葉を続ける。
「!……言い忘れていた。知っているか?…………勇者レックスの相棒イザベラ。主な攻撃手段は魔法。今は身分を隠し、冒険者レックスのパーティメンバーとして所属」
「……!」
男が提示した情報にレックスの余裕が少し失われる。
「サミュエル。最近冒険者レックスのパーティに参加。戦闘は不得手で戦闘は魔力銃頼り……こいつは警戒する必要すらないな」
「まさか……!」
にやけながら男が告げる。
「お前の仲間も調査済み、そして既に拘束済みだ。助けは来ないぞ、勇者レックス」
「……それだけか?」
「何?」
そう問いかけたレックスの顔からは再び焦りが消えていた。
「勇者の癖に状況が分かっていないようだな! お前の仲間は既に……」
確信を持った表情になったレックスが言う。
「こっちからも1つ教えとこう。重要な情報を仕入れる時は少なくとも金貨1枚は払っとくべきだぞ」
「何!? 意味の分からないことを……」
「そのままの意味だ」
「は、はったりだ! 大体お前は今の状況を忘れてるんじゃないのか? あと数分たてば『雷剣』が来る! そうすればお前は終わりだ!」
『雷剣』とは、とある魔物を討伐するために大昔に開発された空対地兵器の通称で、現在では大型で堅い装甲を持つ魔物に対して使用される。
その実態は刃渡り30m近い超特大の剣であり、超高高度から投下することによって通常の空爆が通じない装甲をその圧倒的な質量で物理的に切り裂くものだ。
雲の間から光を反射して輝きながら凄まじい速度で落ちてくるその姿は、まさしく人工の雷のように見える。しかし重すぎるが故、大型の魔翔爆撃機でも1度に1つしか搭載できない。
当たり前だが、本来人間1人に対して運用する兵器ではない。いくら規格外の力と耐久を持つ勇者でも、魔法が使えない状態で喰らえばひとたまりもないだろう。
レックスは誰にも聞こえないような声で呟く。
「そっちは頼んだぞマティス、そして――」




