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元人間の人食い箱  作者: 水 百十
第1章
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第20話 冒険者試験

「――やっちまった」


 今、俺の前には砕けた酒樽、静まり返ったギルド内の観衆、そして……床板に開いた”人の形の穴”があった。

 力に自信のありそうなおっさんと腕相撲しようとしたが、まさかここまで俺の体が力持ちだと思わなかったのだ。完全に周りに引かれている……と思っていたところで周りの酔っぱらいから声が上がった。


「おおおおお!」

「ネーちゃんすげぇな!」

「文句なしで冒険者になれるぜ!」


「……へ?」


「いや~ネーちゃん強ぇなあ!」


 そう言いながら俺と腕相撲をしたおっさんがギルドの床の穴から這い出てきた。派手にぶっ飛んだが、意外と平気なようだ。


「ここまで一方的に負けたら文句も言えねぇ! 俺が奢るのはもちろんだが、実技試験なしで冒険者になれるように俺がギルドの方に口を利いてやろう」


 そう言っておっさんは酒場から受付の方へ歩いて行く。ギルドに口を利けるということはあのおっさん、本当に結構強かったらしい。


「寄り道になりましたけど、結果的には良かったですね!」


 サムがそう声を掛けてくる。確かに予定外ではあったが、冒険者の登録が楽になったのは事実だ。


「あぁ……筆記試験って方は難しくないのか?」

「簡単な常識問題と計算問題だけですから大丈夫だと思いますよ? つまずくとしたら計算問題ですかね?」

「いや、俺魔物だから常識問題危ういかも……」


 と俺が小声で言うとサムがあ……という声を漏らす。


「ま、まあ計算は得意な自信はあるから……」

「マティスさん――少し僕からお教えしましょうか……?」

「お願いします」


 俺はフードが目までかかるほど勢いよく頭を下げた。





「いや~なんとかなったぁ~」

「なんで僕の時より良い点取ってるんですか……」

「計算は得意って言っただろ?」

「それにしても計算問題の欄満点って……」


 そう、筆記試験は案外どうにかなった。というか計算問題が楽だった。出題されたのは日本の中学校レベルの問題だったのだ。

 地球で言うところの中世風な世界にしても、この世界には魔翔機や銃もあるのでどんな問題が出るか分からなかったが、頭がいいのは一部の学者の様な研究を専門にしている人間だけで、識字率すらそこまで高くないらしい。

 常識問題はサムに教えてもらったおかげで半分以上正解だった。


「えーっとぉ……マティス様はスコット様の推薦によって実技試験は免除、筆記試験の結果を合わせて3等級への配属になります」


 ギルドの受付のお姉さんからそう言われる。

 あのおっさんスコットっていうのか……そういえば名前を聞かずに話が進んでたな。


「3等級!?」


 隣にいたサムが声を上げる。


「等級って何なんだ?」

「冒険者としての戦闘力、問題解決能力、判断力等を総合的に考慮した冒険者の格付けです。1等級から数えて5等級まであります」


 受付のお姉さんが俺の疑問に答えた。


「僕は最近1等級から2等級に上がったばかりなのに……」


 とサムが嘆いていた。確かに最初から3等級だった俺に対しては複雑な心境になるだろう。


「なんか……ごめんな」

「マティスさんは悪くないですよ……」


 サムはいつも通りそう言うがやはり少し元気が無かった。後でレックスからのお小遣いで何か奢ってあげようか。


「まぁマティス様が先程片手でぶん投げたスコット様は4等級でしたからね。ここからバッチリ見えてましたし……妥当かと」


 受付のお姉さんがフォローしているようでできていないようなことを言う。というかさっきからちょくちょく口調が崩れてるな……素の喋り方じゃないんだろう。


「レックス達は何等級なんだ?」

「レックスとイザベラはどちらも5等級ですよ」


 少し元気を取り戻したサムがそう答えた。まぁ勇者として戦っていたなら当然か。だが、逆にレックスとイザベラが同じぐらい強いのだろうか。


「勇者は冒険者をやってなかったのか?」

「勇者様は既存の等級に当てはまらない強さをお持ちなので特等級という特別枠に属しています」


 お姉さんが教えてくれた。身分を隠している以上、レックスは今は5等級ということになっているのだろう。


「いろいろ教えてくれてありがとう。それじゃあそろそろお腹も減って来たし、行こうかサム」

「そうですね」


 受付のお姉さんに礼を言い、もう一度酒場による。

 そこには腕相撲のおっさん改めスコットが座って飲み直していた。


「お! 受かったみてぇだな!」

「なんとかな。確かに腹は減ってるが、さすがに今から飲むのは早いから、奢るのは後でいいぞ」

「まぁ俺は大体いつもここにいるからな! 今夜にでももう一度会おうか?」

「あぁ……今夜は少し用事があるんだ。明日でもいいか?」

「そうなのか。まぁいつでもいいぜ!」


 特に夜に用事があるというわけではないが、今日はギルドに来たことによって夜には擬態出来る時間が足りなくなってしまうだろう。


「ありがとな。じゃあまた今度会おうぜ!」

「おう!」


 スコットに礼を言いサムとともにギルドを出た。


「サム、何か食べたいものあるか?」

「いや~僕もレックスについて行ってばかりでこの町についてそこまで詳しくないんですよね……」


 テンションが下がっていたサムの好きな物を食べに行こうかと思っていたが、サムもあまり店に詳しくないらしい。


「昨日のパン屋にでも行くか……」


 昨日昼食を食べた飯屋街は事件のせいで近寄れなくなっていると聞いた。


「僕も代案が思いつかないんで良いですよ。あの店は種類が豊富ですから2日連続でも飽ないですしね」

「じゃあ行こうか」


 ということで俺達は昨日も訪れたパン屋――ハンバーガー屋に行くことになった。

〔2020/1/13 冒険者の等級制度について変更〕

「等」も「級」も数字が少ない方が位が上な事が多いのと思うのですが、「等級」になると一般的に数字が大きい方が上なんですね……何気なく調べてびっくりして慌てて修正しました。

マティスの3等級は真ん中なので変更なしですが、レックス達が1→5等級、サムが4→2等級という風に設定し直しました。

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