第19話 酔っ払いと”計画”
サムに連れられてもう一度やって来た冒険者ギルド。
昨日はレックスの話が気になってよく見れなかったからな。と思ったところで酒場スペースに中年の冒険者団体が座っていた。全員顔は赤く、酒瓶がカウンターに多数転がっていた。
朝から飲んでる奴いたわ。昨日はたまたまいなかっただけかよ。
「おお? ネーちゃんでっかいなぁ!」
そーっと受付のカウンターに向かおうとしたが、声を掛けられてしまった。まあ確かに、今の見た目は身長的に目立つ。
「ちょっと話していかねーかい?」
「僕たちは急いでるんで……」
「おおーいいぜー」
「ちょっ……マティスさん?」
サムが誘いを断ろうとするが、俺が乗った。酔っぱらいの言葉を断ろうとすると余計に話がこじれかねないので、軽く話を合わせたほうがいい。
「ネーちゃんノリいいなぁ! なんか飲むか? 奢るぜぇ?」
「いいなぁ! でも俺今から冒険者の登録に行くとこなんだわ。それ終わったら一杯くれるか?」
「冒険者やるんかいネーちゃん!? まぁ確かに悪くない体格してるが……危険だぞ?」
「大丈夫大丈夫。心強い味方もいるしな!」
そう言って俺はサムの肩に手を置く。
「ぼ、僕ですか?」
「レックスとイザベラも心強いけど、このパーティの核はサムだろ?」
確かに戦闘面は他2人が軸だが、鍵開け、荷物の運搬、食事の用意……戦闘のサポートをこなしているサムが居なかったらパーティとして機能しないだろう。勇者として戦っていた時はどうしていたのか気になるほどだ。
「いやいやいや! 僕は何もしてないですよ!」
「サム、さっきも似たようなこと言ったが謙遜し過ぎだって。レックスが選んだ仲間なんだぞ? 少しは胸を張れ?」
サムは知らないが、勇者であるレックスが直接仲間に選んだのだから何もしてないなんてことはありえない。1日しか見ていない俺からでもサムが頑張っているのは分かる。
「わ、わかりました……」
サムが俺の言葉に押されてそう言う。
「あんたんとこのパーティが頼もしいのは分かったが……ネーちゃん自身も多少なりとも強くないといけないが大丈夫なのか?」
面倒臭い酔っぱらいかと思ったが意外と親切なおっさんみたいだ。
「おう! 力には自信があんだ! なんなら腕相撲でもしてみるか? 俺が勝ったらもう1杯追加で奢ってくれよ! 負けたら俺が奢るぜ?」
「ちょっ! マティスさんお金ないのにそんな勝負……」
「おいおい。いくらガタイの良いネーちゃんでもこっちは十数年冒険者やってんだぞ? ハンデとしておめーさんが負けた時は何もなしでいい。勝ったら一番いいヤツを奢るさ」
「おっしゃあ!」
俺はそう言ってローブを腕まくりをし、縦に置かれた酒樽に肘を置く。
「いつでもいいぜネーちゃん!」
「いくぞー!」
――アクチェスの町のとある酒場。
秘密の地下室には2人の人影があった。
「7番。いくら急いでいるとはいえ昨日の今日は早すぎないか?」
「だからこそ裏を突く。騒ぎを起こした直後は警戒が高まるかもしれないが、まさか連続で起こるとは思ってないだろう」
「だが、お前がビビっていた勇者もまだこの町を出ていないぞ? お前はそれでいいのか?」
「あいつが居る時点でどんな用心をしても何の意味もない。ある程度賭けの要素が強くなるのは仕方ないことだ」
2番にそう告げる7番。
「だが、どうする? 計画は立ててあるのか?」
「もちろんだ。1番とともに昨日の会議後、計画を立てた。標的側は7選人のうち1番と俺、そしてお前だ。残りの3から6番と会員総員は町の外に配置し、勇者の陽動に使う」
「本気か? 俺らの戦力のほとんどを本来の目的以外に使うつもりだと?」
「切り札も全て惜しみなく切る。試用試験のついでに逃走資金を稼いだら、7選人だけが逃走できる予定で計画は立てられている」
「ほかの会員は? 見捨てるのか!?」
その言葉を聞いた7番は、少し黙った後、仕方がないという顔でこう返す。
「勇者と敵対するとはそういうもんなんだ。魔法を無効化することも計算して行動してくるだろう。一応、『雷剣』を魔翔機で運用しての勇者の討伐も予定している」
「人間1人に対して『雷剣』を使うだと!?」
2番が驚きの表情を見せる。
「いいか? あいつを人間と考えてはいけない」
「わ、わかったよ。俺がそっち側の仕事任されなくてよかったぜ……」
「それじゃ俺たちがやることも合わせて計画の全容を詳しく説明していくぞ――」
この男たちの立てた計画は、勇者に対して最大限の警戒を払い、完璧にこなせば勇者を殺すこともできるものだった。だが、この計画には致命的な欠陥が残されている。
それは、この計画に考慮していない規格外の存在が”2人”いることだった……




