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元人間の人食い箱  作者: 水 百十
第1章
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第16話 考察と約束

 強盗が使っていたのは本当に魔王軍の技術が使われた魔道具なのか?何を根拠に?


 《恐らくサムとかいう人間の聞いた噂は本当だろう。お前、理由がわかってないのか?》


 さっきの会話で分かることがあったのか?


 《違う。お前はさっきまでどうやって歩いてたんだ?》


 そう問われてようやく意味が分かった。俺よりも絶対に強いはずのイザベラや魔王と戦ったレックスですら魔法が使えなくなっていたのに、俺の擬態魔法は解けなかった。だが……なぜ?


 《そこまでわかって何故分からないんだよ。魔王軍が使っていた魔道具は人間どもを倒すため魔王様が創ったものだ。それを転用して作った魔道具だから魔物には効かないんだろ》


 そういうことか。確かにそれなら噂が本当である可能性が高いな。


 《恐らく次にあれが使われたときに魔法が使えるのはお前だけだ。それまでにまともな魔法が使えるように練習しとけ》


 お前、人間嫌いじゃなかったのか? なんか協力的だな。


 《俺が嫌なのは魔王様の創った魔道具が人間にくだらない使われ方をしていることだ。もし見つけたらぶっ壊せ》


 いや、ぶっ壊すかどうかはレックス達によると思うが……


 《どうせあいつの属している王国もあの魔道具も手にしたら大事に保管しておくなんてこともしないだろう》


 ……まぁその時なったらレックスに相談してみるぐらいはしてやるさ。





 しばらくして、ロビーへ行っていたサムが戻ってきた。


「マティスさん。何してたんですか?」

「あぁ、空間魔法の練習をね」

「さっきもお店でやってましたね。上達しました?」

「今はそこの椅子くらいなら持ち上げられるようになった」


 そう言って俺は部屋にあったスツールを浮かせる。


「えぇ!? さっきまでスプーンだったのに!?」

「2個同時もいけるぞ」


 そのままもう1つあるスツールも浮かせる。

「凄い……! 魔力の消費は大丈夫なんですか?」

「意外と大丈夫みたいだ。そういえば……一つ話があるんだが」

「な、なんですか?」

「なぁ、もし俺に双子の弟がいたとしたらサムはどんな名前を付ける?」

「いるんですか!?」

「もし、の話だよ」

「そうですね……」


 《またコイツに名付けられるのか?》


 まあ、俺の今の仲間の中では勇者とは関係が無いから一番マシじゃないか?


「ゼラノス……なんてどうですかね?」

「それも、花言葉?」

「そうですね。ゼラニウムから取りました。”予期せぬ出会い”って意味です」


 サムが言っているのはもし俺に弟が居たらと言う意味で付けたのだろう。

 だが、もう一人の俺のことも俺が5年以上も一緒にいて気づけなかったという意味では意外とピッタリかもしれないな。どうだ?


 《もともと名前なんて無いからこだわりは無い。好きに呼べ》


 なんて言って、結構サムのことは悪く思ってないんだろ?


 《……その人間には恨みは無いからな》


 そういう事にしとくさ。まぁ改めてよろしくな、ゼラノス。


「ありがとうサム」

「でも……なんでそんな事を?」

「あー……大したことじゃないさ」

「……あの、僕はマティスさんのことを悪い人――魔物だとは思ってません。でも、マティスさんが何か隠していることは僕でもわかります。ここからは僕の個人的な願いです。今すぐでなくてもいいです、いつか……それについて話してもらえますか?」


 やっぱりサムは優しい。俺を受け入れてくれたというだけで、教えてくれと命令してもいい権利くらいあるはずなのに。それに、俺の事について話すのは元からそのつもりだ。返事は決まっている。


「約束するさ。必ず話す」


 俺は人に擬態してサムの手を握り、しっかりと目を見てそう言った。

 その時部屋の外から足音が響き、ドアが開いた。


「おいサム、マティス。そろそろ夕飯――」


 俺達の部屋に入って来た時にレックスが見たのは、サムの手を擬態した直後で裸の俺が握っていたところだった。


「マティスお前、いくらサムが女々しいからって……いや、でも今の性別なら別に問題ないのか……?」

「そんなんじゃないですっ! というかマティスさんはホイホイ人前で人間に擬態しないでくださいっ!」

「いや、知らない人の前ではしないぞ?」

「知ってる人に対しても同じですっ!」


 混乱するレックスと俺に対しての真っ赤になったサムの叫びは宿中に響いたという。




 夕飯の支度が終わったエドワードは、エプロンを外していつもの定位置であるカウンター奥のロッキングチェアで葉巻を吸っていた。


「人間に擬態、か……」


 そんなエドワードの呟きは、誰もいない静まり返ったロビーに消えていった。

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