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元人間の人食い箱  作者: 水 百十
第1章
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第15話 事件と混乱

 通りへ出ると、町はパニックを引き起こしていた。人々は逃げ惑い、丁度近くで離陸を始めたばかりの魔翔機は推進力を失ったことによって町の防壁の向こうへと消えていった。

 逃げる人の波を遡り、出てきた店から1ブロック先に見える煙の柱に向かう。レックスとイザベラもそっちに向かったはずだ。




 人の波を抜けると、入り口が損壊した店の前に3人の影が見えた。1人はレックス、もう一人はイザベラ、そして最後は……誰?


「レックス! イザベラ!」


 俺はサムを連れて近寄る。


「大丈夫?」


 イザベラが隣の人物に声を掛ける。


「あ、あぁ大丈夫だ……だが俺の店の金が……」


 どうやら残りの一人は壊された店の主人らしい。


「何があった?」


 レックスが店主に訊ねる。


「顔を隠した怪しい奴らが入って来て、いきなり俺に向かって銃を向けてきたんだ。俺は少しだが魔法が使えるから応戦しようとしたんだが……魔法が出せなかったんだ」

「あぁ、それは俺も分かった。犯人が飛竜に乗って逃げていくのを見て飛ぼうと思ったが、飛べなかったんだ。だが、奴らの武器も使えなくならなかったのか?」


 レックスが相槌を打ち、質問を続ける。


「奴らが持っていたのは魔力銃じゃない。旧式の火薬を使う銃と爆弾だ」


 魔力銃が開発されていた時点で予想ができていたが、地球にもあった魔力を必要としない銃もこの世界に存在しているらしい。


「そいつで俺を脅している間に別の仲間が俺の金庫を爆弾でぶっ壊して店の売り上げを全部持ち出されちまった」

「そうか……捕まえることが出来なくてすまなかった」


 レックスが店主に謝罪をする。


「仕方ないさ、魔法が使えなくなるなんてありえない事だからな。命があっただけありがたいさ」

「今は使えるようになったみたいね」


 レックスと店主の話を聞きながら先ほどのように手のひらの上に炎を出しながらそう言うイザベラ。


「奴らの特徴は俺も少しだけだが覚えている。もし奴らを退治したときは、金は必ず取り戻す」


 そう約束するレックス。


「そう言ってくれるだけありがたいよ。壊れた店に関してはギルドの保険に入っていたから何とかなるが、それ以外に関してはまた1から頑張るしかないさ。今度は旧式の武器も用意しとかなきゃな!」


 そう笑い飛ばす店主。売り上げを盗まれたというのに逞しいな。だが、店主は知らないので仕方ないが、レックスは勇者なので、いつか取り戻すという約束の信頼性に関しては恐らくこの世界で一番だろう。

 俺ももし機会があるならレックスと一緒に強盗犯を懲らしめてやりたい。

 後に門番の人に聞いた話によると今回の事件で町は混乱したが、幸い大事故が起きることは無く、墜落していた魔翔機も近くの川へ不時着したことによって大きな怪我人は出なかったそうだ。






 宿に戻ってきた俺たちは、4人全員で部屋に来ていた。

 俺の部屋のドアの横には、レックスが昼間買ってきた道具の入ったバッグの横に、騒動の後イザベラに買わされた俺用の下着の入った袋が立てかけてある。


「それで、一体あいつらは何だったんだ?」


 レックスが話を切り出した。


「リリィさんの言っていた噂話の強盗でしょうか?」

「恐らくそうでしょうね。それと、魔法を封じる魔道具の噂も嘘とは言えなくなってきたわ……」

「そうなれば、サムの言っていた噂との関連も否定できなくなってくるな」


 レックスが渋い顔で言う。まだそうとは決まったわけではないが、自分の放置していたことが原因で町の人に被害が出てしまったことに罪悪感を感じているのだろうか。


「それに、もし本当に魔法を封じる魔道具が完成しているとなれば、国家レベルの大事件だわ」

「そんなに大変な事なのか?」


 俺が訊ねる。


「魔法は日々の生活にも戦闘にも必要不可欠です。そんなものが突然使われたりしたら、規模によっては世界中での大混乱、戦時中なら戦局がひっくり返ってしまう恐れすらありますね」


 サムがそう答えた。


「だが、本当に完成しているとするなら強盗などをする必要はないはずだ。恐らく町で強盗を繰り返すのは魔道具の実験だろう。盗まれた金は研究費として使われているのかもしれない」

「でも、実際に私やレックスの魔法も使えなくなっていたわ。あれで完成されていると思うけど」

「そうなれば、量産できないとか別の理由があるんだろう。いづれにせよ、奴らは早くどうにかしなきゃいけないな」

「でも、追いかけるにも手掛かりが無いですよ?」

「噂からすれば、奴らはこの町のあちこちで何度も強盗を繰り返している。そして今回も金を奪ったということは、次で奴らの研究が完成したとしても、あと一回はこの町で実験をするだろう。そこを狙うんだ」

「ほかの町に逃げる可能性は?」

「噂が広まるほど話題になっているのに奴らは一度も失敗していないんだ。奴らにも自信が付いている。急に場所を変えることは無い……と思いたい」


 そうレックスが結論を出す。


「まあ、強盗のことは大変だが、今日はもう休まないか?」


 議論が白熱しているところで俺が提案する。


「確かにそうだな、奴らがすぐに現れるとは思えない。今日は本当に色々あって疲れたしな」

「それもそうですね。マティスさんと出会ったのが昨日だなんて信じられない感じがしてます」

「私も疲れたわ。確かに強盗以外にも驚きもあったし……」


 そう言ってこちらを見てくるイザベラ。


「俺は部屋に戻って夕食まで休むことにするぞ」

「私も同じくだわ」


 レックスとイザベラが隣の部屋へ移動していった。


「僕はエドワードさんの所に行って夕刊を取ってきますね」


 サムもロビーへと向かっていった。


 《なぁ》


 部屋に一人になったところでもう一人の俺が話しかけてきた。


 《さっきの魔法を封じる魔道具とかいうやつ、あれは確実に魔王軍の技術が使われてるぞ》

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