第14話 火魔法と異変
目的のため店の前まで到着した。
「へぇ~結構大きいんだな」
「米は最近食べられるようになったが、割と人気が高いらしいぞ」
俺の感想にレックスがそう説明した。
「なんたってあの”勇者様”が好んで食べてたって話だからね。人気も出るわよ」
イザベラがレックスをからかうようにそう言う。
「え、マジ? 米も俺が原因……!?」
レックスが小声でそう呟いていたが……多分こういう事が他にもたくさんあるんだろう。勇者もいろんな意味で大変だな……
中に入ると4人座れるテーブルが10個ほどあり、その半分以上が埋まっていた。人気があるというのは本当の様だ。その時客のいくらかがこちらを……というより俺を見ていることに気付いた。
「え……? 俺なんで見られてるの?」
魔物だということはバレるとは思えないが……
「いや、お前その体格でその服装だったら目立つに決まってるだろ……」
レックスがそう言う。確かにそうか、ただでさえこんなに背の高い女も珍しいのに、見たこともない服を着ていたらそれは目立つか。やっぱりこっちでありそうな服を創らなきゃダメか……
視線が少し気になるが、4人で席に着く。厨房が見えるカウンターの上にメニューが書いてある。勿論初めて見る文字だが読める。
肉料理が食べたいので適当に頼む。正直言葉の意味は分かってもどれが何の肉かまでは分からない、鶏や豚や牛が食べられるのは期待しないほうがいいだろう。
料理を待つまでの間、隣に座っているイザベラに話しかける。
「そういえばさっきから空間魔法の練習しているんだけど、コツとかある?」
移動中も物を浮かせる訓練をずっとしていたため、短時間でスプーンを浮かせられるぐらいになっていた。
「これ、あなたがやってるの?」
イザベラが浮遊しているスプーンを見ながら言う。
「そ、そうだけど」
「初めて空間魔法を使ったのは?」
「だからさっきからって……」
「最近忘れてたけど、この魔王軍のデタラメ感、久々に感じたわ……私でもこれくらいになるまで1か月はかかったのに……」
このスプーンを浮かせる状態までイザベラは1か月かかったらしい。魔王に創られたこの体のスペックは結構高いのか……
《当たり前だ、すぐ戦えるようにならなきゃ魔王軍の一員として意味ないからな。お前も少しは魔王様に感謝しろよ?》
少し魔王がありがたく感じたが、複雑な気持ちだ。魔王はレックスによって倒されているわけだし。
それと、この体の凄さも分かったが、俺みたいなデタラメな奴らと戦いまくっていたイザベラとレックスの凄さが分かった気がする。
「空間魔法は今のまま続ければ特に問題は無さそうだけど……」
「それ以外の魔法についても教えて欲しいんだ」
まだ試してない魔法がいくつかあったよな?
《火、水、土、風、雷の5大魔法も一応使えるが、やっぱり適性があるのは即死――》
……それはいい。取り敢えずその5大魔法ってのを見せてもらうか。というかここでも大丈夫なのだろうか?
「5大魔法ってのについて教えてもらえるか?」
「前提として5大魔法の内でも1つしか使えないのが普通なのだけれど……まあそこについてはもう気にしないで話すわ。取り敢えず火からね。いくわ……〈灯火〉」
そう言って手のひらの上に小さな炎を出すイザベラ
「おぉ……!」
なんか魔法らしい魔法をこの世界で初めて見た気がする。いや、確かに今使ってる擬態魔法も空間魔法も魔法っぽいとは思うが。
「これくらいならあなたでも出来るはずよ。手の上に魔力を集めて、魔力を火種にして発火させるの。詠唱は着火の合図よ」
魔力銃や魔翔機から何となく予想はついていたが、魔力は燃料の様に使えるのか。手のひらの上に魔力を集めて着火する……こんな感じか?
「〈灯火〉……うわっ!」
目の前で小さな爆発が起きた。
「魔力を込め過ぎよ……障壁を張っておいてよかったわ……」
そういえば俺の魔力は普通とは違ってバカみたいに多いんだった……
大きな音に驚いた店の客が全員こちらを向く。ただでさえ、目立ってたのにさらに目立ってしまった。
「あの~お客さん? 店の中でそういう事は……」
「あ、すみません……」
丁度料理を持ってきたウエイトレスのお姉さんに注意されてしまった。
「イザベラ……またあとで教えてくれ」
「今度は人が居ないとこでやりましょう……」
イザベラにもそう返されてしまった。
食事が終わり、店内で少し休憩をしていた。食べ終わっても何の肉なのかはわからなかったが、やっぱり肉と米を一緒に食べるのは旨かった。
「イザベラ、俺はもうやらないから、もう一度さっきの見せてくれないか?」
俺が実践するとまたさっきみたいなことになりかねないので、取り敢えずイザベラのお手本を見て後で自分で練習できるようにしておこうと思い、そう訊ねる。
「まあそれくらいならいくらでも見せてあげるけど……」
そう言って手のひらを上に向けるイザベラ。……だが、さっきの様に炎は出ていない。
「〈灯火〉……あれ?おかしいわね……」
その時、さっきの俺のものとは比べ物にならない大きさの爆発音がした。
「!?」
「サムを頼むわ!」
まさかイザベラが失敗したのかと思ったが、どうやら店の外から聞こえてきたようだ。レックスとイザベラがすぐさま席を立ち、爆発音のした方へ向かうため店を出ていった。
俺は驚きで椅子ごと後ろに倒れたサムを起こし、そのまま腕を引いて2人の後を追って店を出た。




