第13話 噂
服を着てロビーに降りると、3人が居た。エディは相変わらずカウンターの奥で新聞を読んでいた。葉巻は新しいのを買ってきたようだが。
レックスがこちらを向くと少しギョッとした顔をする。
「お前それ……」
「いや、知ってる服があんまりなくて……」
「マティスさんの服変わってますね!」
「あ、ああ。そうだな……」
明らかにこの世界ではありえない恰好なのでレックスが少し困惑していたようだが、サムがそこまで疑問を持たなかったので、過剰に反応するのはやめたようだった。
「じゃ、じゃあ行くか。サム、どこか行きたいことがあるか?」
「うーん。そうですね……」
「エドワードさん!」
サムが考えている所、宿に入ってくる人物がいた。
「やぁリリィ」
エディが彼の名前を呼んだ少女に挨拶をする。
「この人は?」
俺がレックスに問う。
「朝寄ったパン屋の娘さんだよ」
朝のハンバーガーのとこかよ! ……ってことはあのおばちゃんの娘か。
「パン届けに来ました! ……って誰ですかこの人達は?」
「ウチのお客さんだよ」
「ここってお客さん入るんですね……」
リリィと呼ばれた少女が困惑するようにそう言った。店主の前で割とズバッと言う子だな。
「いや~辛辣だ」
言われたエディも苦笑するだけでそこまで気にしてはいないようだ。
「そうそう、最近魔道具を持った集団が強盗を働いてるって噂があるみたいですよ!
エドワードさん、今は強そうなお兄さんお姉さんが泊まってるみたいだからいいけど、普段は1人なんだから気を付けたほうがいいですよ!」
「ウチみたいなところを襲っても盗むものなんて何もないさ」
「そういう話じゃないですよ! 私はエドワードさんが心配でっ……ぁ」
「こんなおじさんを心配してくれるのか。いやぁ嬉しい」
少しからかうようにエディがそう言う。
「そっそんなわけないじゃないですかっ!」
リリィが慌てるようにそう言うが、顔が真っ赤だ。……なんかイザベラを思い出す。
「でも、気を付けたほうがいいって話なら君の店も最近繁盛してるみたいじゃないか。なんでも元勇者様が誉めてたって話で」
エディがレックスちらと見つつそんなことを言う。
「私の心配をしてくれるのは嬉しいですけど……そ、そうじゃなくて! ……もっもう帰りますっ!」
そう言って真っ赤な顔で俯いたまま宿を出ていってしまったリリィ。
「若い子は元気があって大変だ」
エディがそう呟いた。
「なぁ……あのパン屋って出前なんてやって無いんじゃなかったか?」
レックスがエディにそう問いかける。
「ああそうだ。リリィは店とは関係なしに自分でここに届けてくれてるんだ。なんでも、俺に恩があるとか言ってね」
「エディ……リリィがお前のことどう思ってるのか気づいてるんだろ?」
レックスが再度問う。
「だから言ったろ?若い子は元気があって大変だって」
力ないような表情でそう言うエディ。レックスもそれ以上追求しなかった。
……ちょっとしんみりした雰囲気だけどいい?レックスはなんでリリィのことは気づけるのにイザベラのこと気づけないんだよっ!
宿を出た俺たちは町の通りを歩いていた。
「そういえば、噂話と勇者様と言えば、勇者様が戦った魔王軍と王国の戦場の跡地から壊れた魔道具を回収して闇市に流している奴らが居るって話があるみたいですよ?」
サムがそんな話をする。
「そんな奴らが居るのか」
レックスがそう言う。
「レックスは知らなかったのか?」
俺がサムに聞こえないよう小声で問いかける。
「いや、知ってたさ。だが俺は魔王軍の残党を狩るのが優先だ。そっちの方は王国に任せている」
レックスも小声でそう返す。
「あと、こっちは信憑性が低い噂なんですけど、回収した中でも魔王軍が使っていた特殊な魔道具を買い取って新しい魔装具を開発している奴らが居るらしいです」
「へぇ~……こっちは知ってたか?」
後半は小声でレックスに問う。
「いや、そんな話は聞いていない。多分作り話だろう」
レックスはそう答えた。
「あら、でも魔法を封じる魔道具を作ろうとしている集団がいるって話を最近聞いたわ」
小声で話していたにもかかわらず盗み聞きをしていたらしいイザベラがそんなことを言う。
「そんな魔道具があったらあっという間に王国が落とされてもおかしくないぞ?技術的にもありえないだろ」
「あるかもしれないじゃない。魔王軍の不思議技術的なアレで」
「アレってなんだよ」
レックスは失笑しながらそう言っていたが、サムとイザベラの話は少し俺の記憶に残った。
そんなことを話していたら、昼食を食べる予定の店が見えてきた。ここは、俺がレックスに米を食べられるとこが無いかと聞いて出てきた店だ。
米は最近まであまり食べられるものでもなかったが、魔翔機が開発されてから輸送技術が発展して気軽に食べられるようになったらしい。
あの店のハンバーガーも旨かったが、やはり米を食べるのはかなり久しぶりなので楽しみだ。




