第12話 創造魔法
宿の部屋で1人になった俺はまだ使っていなかった魔法を試すことにした。
それで、創造魔法はどうやれば使えるんだ?
《うるさいな。俺はあの勇者が気に入らないんだよ。同郷だか何だか知らないがさっさと別れろ》
おい、お前が魔王が大好きだったのはわかるが今は魔法の使い方を教えてくれよ。
《お、俺がま、魔王様が好きだとっ!?そ、そんな事……畏れ多いわっ!》
……え? お前もしかしてそういう方向で魔王のこと見てたのかよ……
《いやっ! 違うっ!? そんな不敬な……》
というかお前はどちらかと言うと男じゃなかったのかよ。それなのに魔王に……
《お前何を邪推している……魔王様はお前みたいな中途半端とは違い、れっきとした雌だぞ》
はぁ!? 魔王って女だったの!? でもお前その情報をいまぶっ込んできたってことはやっぱりお前魔……
《……法のことだったな!あーそうだった!創造魔法も発動の仕方は基本的には擬態魔法と同じだ。創りたいものを頭の中で思い浮かべればいい。自分で1から頭で考えても出来るが、1度見た物の方が簡単に創れる》
コイツ……流れるように解説役に回りやがった。さっきまであんなにやりたがらなかった癖に……
とはいっても使い方は分かったので、気を取り直して創造魔法を使ってみる。
今欲しいものは服だ。だが今、重大な事実に気づいてしまった。俺、どんな服を着たらいいんだ。
この世界の普通な服と言われても分からないし、地球の世界でもオシャレに興味が無かったのか、服の記憶が殆どない。かと言ってさっきまで着ていたレックスの服と丸々同じものを創るのも芸が無い。
仕方なく記憶にある地球の服を創り出す。目の前に光が現れ、それが収まると俺の前にTシャツとジーンズとパーカー、それに登山用のブーツが出てきた。取り敢えず俺も人に擬態する。魔法を二つも使うと、さっき満腹になるまで食べたのに一気に腹が減る。
《魔法を使うことに慣れていけば、魔力の消費量も抑えられる。とにかく今は沢山食って沢山魔法を使うことだな》
ところでこれ、着ても大丈夫なのだろうか。パーカーとかがっつりポリエステルってタグに書いてあるが。明らかに未来側に時代錯誤な感じなんだが。
うん。まあ知らない人から見たらちょっと変わった服程度に見えるだけだろう……多分。
今日はまだ出かける予定があるので直ぐに箱に戻ろう。この服はどうしようか。
《口の中に放り込んどけばいいんじゃないか?》
そんなことできるのか?
《箱の状態なら見た目分はちゃんと箱として使えるぞ》
それって俺の生き物としての内臓の部分とかどうなってるんだ? 食べたものは何処に行ってる? 深く考えたら負けなのだろうか……
創った服に着替えた状態で擬態を解くと中身がなくなった服ははらりと落ちる。俺はその真下で宝箱の口を全開にして待つ。少し牙に引っかかったが、舌で押し込んだ。
服は確保できたが、まだ昼までは時間がある。腹は少し減っているが、せっかくなので他の魔法も使ってみよう。
《この部屋で大体の攻撃魔法を使えば部屋がボロボロになるぞ》
あ。じ、じゃあ、あんまり直接的な影響がない奴を……
《それなら空間魔法か即死魔法だな》
その物凄く物騒な名前の後者の方は……
《人間どもが死の魔法と呼んでるやつだな。ミミックが唯一詠唱を必要とする魔法だ》
覚えてないと思ったら覚えてたよ。うん、これは封印だな。
《即死魔法も使えるようになっておいて損はないぞ?勇者も殺せるし》
何か言ったか?魔王様のことが大好きなもう一人の俺。
《分かったからその呼び方はやめろ》
呼び方と言えば、コイツとかお前とかもう一人の俺とか呼び方が定まらないから、もう一人の俺の名前も考えておこう。
で、消去法で残ったのは空間魔法か。
《まあ得意な魔法だし、練習にはちょうどいいんじゃねぇか?》
念動力のようなものと言ってもどの様に使えば良いのか分からない。
《見えない手をイメージしてみろ。そこにあるちっさい瓶を人間の時の手で持ち上げてみる様子を頭に思い浮かべるんだ》
俺の今の状態はいつもの箱だが、手があると思い込んで酒瓶を見つめる。それをを両手で包み込むように持ち上げて……
「おぉ!?」
その瞬間、瓶が少し浮かび上がった……ように見えた。驚きで集中が切れてしまったようだ。
《今のは確実に使えてたぞ。最初にしては良い方だろう。空間魔法は、擬態魔法や創造魔法に比べれば魔力の消費量は少ない。これからも暇があればなんか浮かせられるように小石でも何でもいいから練習続けとけ》
言われて気付いたが、確かに腹が減る感覚があまりなかった。空間魔法は今までと違って自分で使っている感覚が強い魔法だ。精度や使う魔力は俺の力量にかかっているんだろう。
これくらいの訓練ならレックスと旅をしながらでも続けられそうだ。
丁度その時、部屋の外から足音がした。
「ようマティス。こっちも買い物終わったし、昼飯を食べに行こう」
ドアが開くとレックスが声を掛けてきた。
「ああ分かった」
「荷物はここに置いとくな」
レックスは買ってきた食材や道具が入ったカバンをドアの脇に置いた。リュックサック1個分ほどだ。
「ずいぶん少ないな」
「このカバンはイザベラが空間魔法をかけてくれているから、見た目以上に物が入るのさ」
空間魔法はそんな使い方も出来るのか。
《ミミックも空間魔法の応用をして口の中に見た目以上の物が入るようにしてる奴もいるらしいな。まあ基礎は物を浮かせることからだから、その段階に辿り着くのはずっと先だな》
イザベラもレックスとともに冒険したことがあるだけあって、魔法には詳しい様だ。今度教えてもらおうか。
《俺が使える魔法については俺が一番よく知ってる!》
何か言ってるが、今度イザベラに教えてもらおう。教えるの上手そうだし。
《おいっ!? 俺はヘタクソだってのか!?》
「2人も外で待ってるから、早く着替えて来いよ。鍵はここに置いとくから忘れずにな」
そう言って部屋中央に置かれた丸机の上に鍵を置いて出ていくレックス。
さっき創った服を舌で器用に取り出し、人に擬態する。……あ、下着を創って無かった。
と、とりあえずまだイザベラのを借りとこう……




