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元人間の人食い箱  作者: 水 百十
第1章
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第11話 エドワードの宿

「それで、創造魔法ってのはどんなもんなんだ?」


 2人をなんとか説得したレックスは少し疲れた表情をしながら俺に訊ねてきた。


「性能の高いものを創ろうとすると劣化品になってしまみたいだが、珍しいものでなければ大体何でも創れるらしい」

「そうなのか、だが今ここで使うなよ。擬態の時みたいに予想外の事態が起きかねない」

「それもそうだな。じゃあ先に今日泊まる宿を探さないか?」

「宿? まだ昼前だぞ?」

「部屋の中で魔法を使いたいってのと、俺は夜までずっと擬態し続けることはできないからな。どのみち俺は昼飯まで宿で待機になるだろう」

「そういえばマティスさんの魔法は時間に制限があるんでしたね」

「そうだったのか。それなら取り敢えず宿を探すことにするか」

「それならいい宿を知ってるわ。そこの店主は大体どの時間でも店番してるから今から行っても大丈夫なはずよ」

「あぁ、あそこか……まぁ確かにこの町で時間も身元も気にせず入れるのはあそこくらいだな」






 イザベラの案内で辿り着いた宿は、そこまで規模の大きいものではなかったが、手入れは怠っていないようで小綺麗な外観をしていた。


「いらっしゃい」


 受付のカウンターから声が聞こえ、そちらの方を向いてみると、ロングコートを羽織り、葉巻を吸っているおっさんが新聞を読みながらロッキングチェアに腰掛けていた。

 白髪が歳の割に少なく渋い感じでカッコイイおっさんだな。将来はあんな風になってみたい……が、今は女になってるので無理か。


「エディ。元気にしてたか?」


 レックスが気さくな様子で声を掛けると、新聞から目を離しこちらを見た。


「まあぼちぼちだ。昨晩賭けで大損したのを除けば」


 若干地雷を踏んでいるような気がするが……怒っている様子はない。


「まだ、賭けなんて続けてたのか。葉巻もそれが最後か?」

「あぁ、そうだな。ツキが無かった」


 その言葉を聞いたレックスは、懐から取り出した金色のコインを親指ではじいて飛ばし、それをエディと呼ばれたおっさんが片手でキャッチすると細目の目を少し見開くようにレックスの方を見た。


「珍しいな、お前が俺に無条件に金を恵むなんて」


 どうやら金色のコインはお金だったらしい。


「勘違いするな、宿代だ。俺とイザベラとあと2人分、2部屋を1泊開けといてくれ。釣りは要らん」

「釣りのほうが多いくらいだ。毎度あり。夕食と朝食はサービスする」

「当たり前だ」


にやりと笑ったおっさんはカウンターの後ろの壁に掛かっていた鍵を2つ取り、レックスに投げる。


「それじゃ、まあゆっくりしてけ」


おっさんはそれだけ言うとまた新聞に目を落とした。




鍵に書かれた部屋番号のあるドアの前まで来ると、レックスが片方の鍵をサムに渡す。


「部屋割りは俺とイザベラ、サムとマティスでいいか?」

「え?いや、いつもみたいに僕とレックスで分けた方が……イザベラとマティスさんは女性同士ですし……」

「それもそうか、じゃあ――」

「サムはマティスと仲がよさそうにしてたし、そのままでいいんじゃない?」

「ちょ、イザベラ!? いや、僕は今まで通りで――」

「そのままでいいんじゃない?」

「え、あ……はい」


 イザベラ、俺が加わったことによる部屋割りの再編成でレックスと同じ部屋になることを狙ってたのか。最初のレックスの提案は無意識だったみたいだが、サムが変えようとしたのに丸め込まれたな。

 とは言え、この様子を一部始終見ていたレックスはやはりと言うべきか、イザベラの気持ちに全く気付いてないようだが……典型的鈍感主人公か。




 部屋に入った俺は擬態を解除する。来ていた服は口(箱)の中に入れられそうだったので仕舞った。部屋割りはしたものの、今俺とサムの部屋には4人全員が居た。


「じゃあこれから俺達は明日から必要な道具を買ってくるから、昼飯までここにいてくれ」


 レックスがそう言ってくる。


「俺は1人で大丈夫なのか?」

「まあここなら安心だし、万が一のことがあってもエディが居るから大丈夫だ」

「あのおっさんのことは信用してるのか?」

「あぁ、エディ――エドワードは俺の勇……昔からの知り合いだからな」


 なるほど、勇者時代からの知り合いなのか。というかレックスは今までよくこの調子でサムにボロが出なかったな。


「ねぇレックス、さっき金貨を渡してたけど良かったの? いくらレックスが優しいからと言ってあんな大金……」

「あれはアイツが金に困ってたから釣りを渡したわけじゃない。ある種の口止め料だ。だからマティスをここに置いていける」


 あのおっさん――エディにはもしばれても噂を広められる心配はないってことか。


「逆に金を渡さなかったら、客から知った有益な情報はすぐに売り飛ばすからな、アイツ」

「なぁ、俺はいまいちさっき渡したコインの価値が分かってないんだが……」


 俺が素朴な疑問を口にする。


「俺が渡したリーヴ金貨は銀貨100枚、銅貨1万枚分だ」


 いまだに価値が分からないが、なんか凄そうだ。


「銅貨1枚でどんなものが買えるんだ?」

「リンゴ1個くらいだな」


 リンゴ1個か……確か日本ではリンゴを店で買おうとするなら大体100円くらいだったか。おそらくこの世界だと流通の手段が限られたり、作物も品種改良で育てやすくなっていることなんてないだろうから、リンゴ1個の価値も違うのだろうが。

 細かいことは置いといて、大雑把な計算をするとさっきレックスがおっさんに渡したコインの価値は約100万円ということになる。明らかに4人が1泊する料金じゃないな。それをポンと渡せるレックスもさすが元勇者という感じだが。


「まぁとりあえず話はここまでして、マティスは留守番頼むぞ」

「店主が居るのに宿で留守番ってのも変だろ」

「まぁ良くも悪くもエディだからな。昼飯までには戻ってくる」


 そう言ってレックスとイザベラとサムの3人は部屋から出ていった。

 そんじゃあ創造魔法、試してみるとするか。

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