第10話 互いの正体
ギルドでの身分証明の発行はスムーズに終わった。酒場が併設されていたので定番のトラブル的なのも期待したが、流石に朝っぱらから飲んでいる奴はいなかったようだ。
だが、その最中俺ははずっとレックスの言葉が頭に残っていてあまり集中できなかった。ギルドを出ると、レックスがイザベラとサムに時間をつぶすように言い、俺とレックスは通りから離れた人気のない路地で向かいあっていた。
「レックス……どうしたんだ?なんか俺に話さなきゃいけないことがあるのか?」
「お前は地球という星を知って……いや、単刀直入に聞く。地球人か?」
「えっ……」
なぜレックスがそんなことを突然聞いてきたのか分からない。正確に言えば俺は今ミミックだが、そんなことを聞いているわけではないだろう。
「あ、あぁそうだ。俺は地球の日本人の男だった。名前も覚えていないが……」
「やっぱりか、それに男か。お前が人間に友好的なのも、その口調もそれで納得がいく。日本人ってとこまで同じとは予想外だが」
何故レックスが地球や日本を知っているのか……レックスは日本人ということだろうか?そう考えると今までのレックスの反応からして一つ予想が出てきた。
「こっちから1つ聞いていいか?」
俺が問いにレックスが首を縦に振った。
「レックス、お前勇者じゃないのか?」
「何故っ!? そ、れを……」
「いやなんかありがちな感じがしたから」
「ありがち!? そんな理由で……」
「もちろん根拠が全くなかったわけではないぞ。勇者の話になるとなんかごまかすようにしてたし、ギルドの張り紙に俺みたいな魔王軍の残党は出会ったらすぐ勇者に報告しなければいけないとあったのに、俺と戦おうとしてたしな。まあ勇者=日本人っていう発想はありがちっぽかったからだけどな」
「さりげなく俺が日本人ということも気づいてるし!?」
「いやそれはさっきの質問を俺にすれば分かるだろ」
なんか重大な秘密を知った気がするがあっけないな。
《おい! もっと食いつけよ! 魔王様の仇だぞ!? こいつ殺せよ!?》
あぁ~……コイツのこと忘れてた。この話聞いたら面倒くさくなるよなぁ~
《おい面倒くさいとは何だ!?》
うん。無視しよう。俺は魔王に対して特に思い入れはないんだよ。コイツのこともレックスには後々話しておこう。
「まあ、お前がただの気まぐれな魔物だというより元日本人だと知れたのは気持ち的にも楽ができる。王国まで戻ったら勇者からの推薦として王に進言してやるさ。そうすればお前も自由に動けるようになるだろ」
なんだかんだでやっぱり日本人だけあって優しい奴だな。サムはこっちの人間なのにレックスより優しいが。
「話はここまでってことで! 行こうぜレックス」
「そうだな、イザベラたちを待たせるのも悪い」
「あと一つ聞いておきたいんだが、サムは何も知らないようだが、イザベラはお前のことはどこまで知ってるんだ?」
「イザベラは俺の勇者時代からの相棒だ。だが、俺が転生者だということはお前以外話してない。サムは最近知り合ったばかりで、俺達のことを唯の冒険者の先輩だと思ってるようだな」
「それは隠していることなのか?」
「それはいつか俺の口から話したいんだ。それまでは……黙っていてもらえるか?」
「もちろんだ。俺のこともその時一緒に話すさ」
「ありがとう。マティス」
「レックス!マティスさんと何話してたの?」
「あぁ……大したことじゃないさ」
「えぇー! マティスさん!」
「悪いな。俺からも言えることはない」
「そうですか……まぁ無理に聞くのはよくないですよね!」
うん、やっぱサムは空気が読めるな~
「レックス、さっきの様子からして少しは重要な事のはずよ。何かあったの?」
レックスの耳元でイザベラがサムに聞こえないよう再度レックスに問う。俺には聞こえたが。
「今はサムが居る……」
そうレックスが小声で返すとイザベラは察したのかそれ以上追及はしなかった。俺に勇者だということがバレたことは恐らく後で伝わるが、転生の話は出さないだろう。
「マティスは服を買うんだったか?」
話を切り替えるように俺に訊ねてくるレックス。
「あぁ……その予定だったんだが、今は朝食を食べた後だから創造魔法を使って服を作ってしまおうかと思ってる」
「創造魔法!? なんだそれ? 聞いたことないぞ?」
勇者であるレックスでも知らない魔法なのか。
《まぁ創造魔法は一部の魔物しか使えないし、人間では扱えない魔力量を消費するから知らなくても無理はない。ふん、所詮勇者なんて知識不足で力だけの馬鹿だ》
知りたい情報は教えてくれるのに一言余計だな。というかそんなとんでもない魔力の消費量の魔法を使って俺は大丈夫なのか?
《俺達の魔力は魔王様の半分くらいはある。さっきの魔翔機とやらもお前なら燃料積まずに飛ばせると思うぞ》
え!? 俺そんなあんの!? 凄っ!
《まあ、あの勇者とやらの魔力は魔王様並みたいだがな……ちっ》
レックスの方がさらにヤバかった。というかよく1撃耐えたな俺。魔力銃の数億倍と言うのも間違いではないのだろう。
《前も言ったがあんなの全然大丈夫だ。お前が痛みに耐性が無いだけだろ》
切られたときはめちゃくちゃ痛かったが、割と俺の体は丈夫らしい。
「というかレックス、いつの間にマティスさんを名前で呼ぶように?」
「レックスぅ? 本当に何もなかったのよね?」
「……え? あ、いやいやいやさっきの話は本当に……」
秘密を共有したことによってレックスの警戒はだいぶ解けたが……レックスはあらぬ疑いをかけられた。




