ドクロ探偵は未だ眠らない。
「…はぁ…はぁ…」
ひたすら庭で土を掘っていた中年男性のシューセンは、額にかいた汗を首元のタオルで軽く拭った。辺りには数か所にわたって掘った跡と掘られた土によって小さな連峰ができており、屋敷の壁際には包まれた青いビニールシートが置いてある。彼が休もうとした矢先にチャイム音が聞こえた。
「あの~、すみません!」
遠くから男性の声をあげている…どうやら玄関側にいるようだ。シューセンはスコップを持ったまま玄関の方へ周って向かうと、そこには一人の男性が立っていた。
「はい?」
「急に申し訳ございません。農作業中に尋ねてしまって…」
「…いえ大丈夫ですよ、で何用ですかな?」
「この場所までの道を教えて頂きたいのです…」
「ほう、バーツェル教会か? ここからだとこの道を真っ直ぐ行った所の…」
男性は年齢で言うと30代前半の紳士で、黒いシャツの上に灰色のベストを着ている。身長は170cm程ではあるが、スラっとした痩せ型なためそれ以上に大きいようにも見えた。屋敷の前の道には男性のものらしき丸いフォルムの白い自動車が道端に駐められていた。
「ああ成程ぉ…有り難うございます」
「…式の下見、ですか?」
この屋敷は人里からかなり離れているが、近くにバーツェル教会という教会が山奥にある。規模的には大きくはないが、教会から絶景見られるという噂が広まり結婚式場として注目されている場所でもある。最近は式の下見をする為に来る男性を見受けるため、男性もその一人かと思ったのだ。
「はい、再来月に教会の方で」
「それはそれは、おめでとうございます」
老人は被っていたキャップ帽を手に取りお辞儀をする。
「ありがとうございます。にしても立派なお屋敷ですねぇ…」
シューセンたちのいる屋敷はかなり古くに建てられたものらしく、蔦に覆われている部分はあるが立派なものだった。周囲には家が一つも存在せず、あるのは閑静な森林と山々のみ…窓から見える景色も悪くないだろう。しかし老人は充実しているわけではなさそうな表情をしていた。
「ああ、だが随分とぼろ臭くなってしまっているだろう? 男一人で住むには少し大きすぎる…」
「お一人? 無礼な質問で申し訳ございませんが…ご結婚は?」
その時偶然にも少し強めの風が吹いた…だがその風は気味が悪い程に生ぬるく、まるで不都合な質問に対して咳き込んでいるかのようにも感じた。
しかし、数秒後老人はため息交じりで口を開いた。
「いや、できなかった。 婚約相手は居たんだがねぇ…式を挙げる前日に行方を晦ましてしまってね」
「…誠にお悔み申し上げます」
「良いんだ…もう五年も昔のこと。起きてしまった過去の悲しみは、乗り越えたつもりさ…」
「そうなのですか…」
「近いうちにこの屋敷を売るつもりです。もし貴方が良ければ、すぐにでもお売り致しますが…」
「いえいえお気持ちだけで…それでは失礼致します。道を教えて頂きありがとうございました」
「良い結婚式を挙げられることをお祈りします」
シューセンはキャップを大きく振りながらの別れの挨拶に応えるかのように、青年も手を振った後に車の方に向かった…両者が背を向けてそれぞれの方向へ戻っていった…が、
「余計なお世話かと思われますが…夜の農作業は控えた方がよろしいですよ?」
老人は後ろからのその一言に一瞬焦った表情をして後ろを振り向くが、青年は車に歩み寄っていた。何かの気のせいだと感じた老人は手にしていたキャップをもう一度被り直した。
「あ、ああ…気をつけるよ…」
~~~
肌を裂いてしまうかのような寒気にみまわれている夜の最中、先程の老人は何故か庭に残っていた。何やら穴の中から何かを見つけてそれをブルーシートの上に置いた。手のひらに収まるサイズから両手で抱える程の物まで置いてある。
「これは…『右足』の方で、あれが『左』の先端…っと」
質問の時とはうって変わって一仕事終えたような表情をした老人は屈んでいた姿勢から立ち上がる。
ブルーシートの上にある複数の「モノ」の中からカランという音を鳴らした…その音はやけに軽い。
「いやぁ…にしても、先程の人は実に紳士だったなぁ。 少々奇抜な格好ではあったが…物腰柔らかく、理知的な印象もある…お前もそう思わんか―――
――アイシス……………!!」
包まれたブルーシートから出てきたのは人間の頭蓋骨だった。
ブルーシートは夜風によってなびき、中から人骨のパーツがチラリと見える。背骨・肋骨・指の関節・肩甲骨、更にはその骨が着ていたであろう女性服まで…無造作に置かれた人骨の集合体からはやや強い臭気が漂っており、老人は持っている懐中電灯で照らして人骨をチェックしている。
「よしッ、骨は全部回収した。後は茂みの奥の方を掘れば…」
~~~
屋敷を囲む山林の中、老人は息を切らしながらもシャベルで穴を掘っていた。老人は無我夢中で猛スピードで長時間掘り続けているせいで、シャベルを持っていた手は土まみれになっていた。穴の近くの樹には分かりやすく×印が刻まれている。するとやっと目当てのものを発見したと感じた直後から今度は手で土を掻き分けてゆく。
「ハァ…ハァハァ…ようやく、これ‥っで…ッッ?!」
土の中から出てきたのはクシャクシャになった新聞紙。しかし―――、
「何もないだと!? そんなっ、確かに私はここに…!!」
目当てのものはどうやらその中にあるらしいが、今度こそ見つからない。慌てたシューセンは周りの地面を掘り起こすも結果は同じであった。
「掘り当てたいモノはコチラでしたか…?」
穴を掘っていたシューセンの後ろから声をかけたのは修道女に似た格好をした女性だった。突然後ろから現れた女性に多少驚いたが、それ以上にシューセンが反応したのは彼女が持っていた木製の箱だった。
「それは…!!何者だッ、…ココは私の庭だぞ!」
「すぐにでも売りたい…その言葉は貴方が口にした筈ですよ、シューセン・ドッカネスキーさん?」
女性の後ろに生えている樹の木陰から見覚えのある姿が見えた。その人物は夕方に出会った青年。夕方の時の服装と違い、今はワイシャツの上にベストを着ていた。
「お前はあの時の…何故、俺の名前を?」
「しいて言うなら職業柄です。人の名前と過去を探るのは慣れたもんですよ」
「警察か…?」
シューセンの質問に対して首を横に振って応じる青年。
「おっと、私としたことが自己紹介し損ねておりましたね。私の名前はアルバート・フリートウッド、以前まで名探偵と呼ばれていた者です…」
「探偵のアルバートォ? …プッ、フっハハハ…」
アルバートと名乗る青年の名前を聞いたシューセンは、一度噴き出した後に声を上げて笑った。
「そりゃあ「名」探偵なんて自称したら…だれだってそういう嘲笑しますよ?」
「辛辣だねぇメディ…僕のパートナーだろ?」
「僕の飼い主の間違いではなくて?」
「間抜けな冗談だったから、笑ったに決まってるだろッ!?」
そう言ってシューセンは箱を包んでいたとされるクシャクシャになった新聞の一枚を広げると倫敦のビッグベンの写真を大きく載せられた記事が一つある。記事の見出しはこう書かれている。
『煙霞の名探偵アルバート惨殺事件から二年、事件の真相未だつかめず!!』
「名探偵と名高いアルバート・フリートウッドは…七年前に倫敦のビッグベンで殺害された!!それとも世界中の新聞の一面記事が嘘をついているってのか!?」
「いや、それも事実です。しかし…たかが新聞の一面ですよね?」
「なんだと…?」
メディは手に持っている箱をそのままアルバートに手渡す。手元にある箱を数秒見つめると蓋を施錠している南京錠型のダイヤルを回していく…カチカチとダイヤル音の鳴る中、シューセンは尋常ならぬ汗が額から顎へ滴り落ちてゆく。
「真実は時として複雑…複雑だからこそ凝り固まった概念や視点を持たざるべし。 探偵のポリシーです…そして全ての側面を照らし合わせば、事件の中に隠された真実が見えてくるのです……!!!」
……カチャコッ!
先程から鳴っていたダイヤル音とは違う音が聞こえた。
「なっ!?」
蓋を開けたアルバートは、箱の中から一つのネックレスを取り出した。そのネックレスは煌びやかに輝いていたが、他の物と違う点を強いて挙げるのであれば内側に複数の小針が仕組まれていること。そして…ネックレスの内側には赤茶色の錆ついた染みができていた。
「まあ…随分とエキセントリックなデザインのネックレスですね…」
「血液が付着しているし、一緒に入っていたグローブも犯行時のまま」
「ついでに先程貴方が掘り出した人骨も回収致しました。サイズと服装からして間違いないでしょう…」
メディがシューセンに一枚の写真を見せるように前に出した。その写真には、シューセンと彼の婚約相手の女性アイリスが買い物をしている様子が写っていた。その時のアイリスの着ていた服装とアクセサリーは間違いなく人骨と一緒にビニールシートに包まれていたものと一致するものだった。
「え~っとですね、つまり何が言いたいんですか?」
シューセンは背を向けて二人から少しずつ距離を置いてゆく。
「王道な展開ではありますが…単刀直入に言います。結婚相手であるアイシス様を殺害した犯人は……」
アルバートの人差し指の先がシューセンへと向かおうとしたその時だった。何かが空気を裂いたような音が木々の中で響く。
シューセンが手にしていたものは拳銃…そこから放たれた凶弾はアルバートの頭部を打ち抜いた。
「そっから先は天国でホザいてな…自称名探偵さんよぉ!!?」
銃弾に貫かれたアルバートの体はその場へと倒れ、シューセンはアルバートの手元にあったネックレスを拾おうとした。するとアルバートと隣り合っていたメディアが先にそのネックレスと容れていた箱を拾われる、シューセンはチッと舌打ちをして銃を一時下ろした。
「…やっと魔が差しましたね」
「俺から平穏を奪おうとするんだったら…俺はお前らの命を奪ってやる!!」
拳銃の銃口を今度はメディアの胸部に向ける。向けられたメディアは先ほどまで無表情だが、若干シューセンを睨みつけているようであった。
「アイリスさんは貴方にとって最愛の女性だった筈です、何故こんなことを?」
「アイツは俺を愛してくれるただ一人の女性だと思った。…なのに奴は、よりにもよって競合社の奴とッ…俺を陥れて散財させるような奴らも、俺を裏切る尻軽女も…くたばって当然なんだァ! もちろんお前らのような蝿共もなぁ!!」
再び銃の銃口をメディアに向ける。銃を持っている右手の甲には双葉にも似たマークが刻印されており、メディアはそれをチラッと覗く。二人の距離は7~8m程で、メディアは武器を手にしていない…どう考えても不利な状況であることは明白だった。
「さっさとそのネックレスを寄こしな、ボックスもだ!」
「…これを差し出せば、命は助けてくれるんですか?」
「俺は今、この銃の引き金に触れている。…バカでも分かるとは思うが、俺の気分次第ってことだ!! さあ分かったらとっとと」
多少の反応の差はあると思うが、この場合は従って渡すか反抗して戦うかの二者択一である…とはいえ命が保障できるとは言えないが…しかし…その後のメディアの行為はその二択にあるものでなく、靴を脱ぎ始めた。
「な、何だよ…突然靴下なんか脱ぎ始めやがって」
「この人が犠牲になって助けてもらった命です。私は絶対にここで死ぬわけにはいかない…ならば何をしてでも生きなければなりません」
裸足になったメディアはそっとスカートを少しずつ上げてゆく。シューセンはそんな彼女の様子を見て唾を飲んで体を舐めるように見始めて、彼女の方へ歩み始めた。
「フヒヒ…クールに見えながら命乞いに必死の様だなぁ。いいだろう…お前がその気なら、少しだけ愉しま……へ?」
彼女との距離が縮まったその時、シューセンは口の中に違和感を感じる。それは前歯に触れており、やけに鉄の味がする。いつの間にかその異物はシューセンの口に咥えられるようになっていた。
「お味は如何ですか?」
口に咥えられていたのは彼女の脚にあらかじめ仕組まれていた猟銃そのものであった。猟銃は縄や装置で脚につけられており、引き金はワイヤーによって引かれていた。彼女はいつの間にかシューセンの顔を蹴るかのように脚を上げている。
「こ、このアマ……グヮっ!!」
「甘かった?…それはおかしいですわね、もっと奥で味わってみて下さいなッ♪」
抵抗しようと銃を構えようとするも、そうさせまいとメディアは上げていた足で蹴る様にして、シューセンの姿勢を崩す。シューセンが後ろに倒れる隙にもう片方の足で銃を持っている手を踏みつけ、空いていた手でもう片方の腕を組み伏せた。
「嘘……だろ?」
拳銃を握った手を動かそうとするが、メディアの脚で完全にロックされていた。何よりメディアの踏みつける脚力が段々と強くなり、ついには持っていた引き金にかけていた指に力が入らなくなってしまった。組み伏せられたもう片方の腕も何とか解こうとしたのにも関わらず、一般女性とは思えない程力が強いのか全く身動きが取れないようになっていた。
「ねぇ、お好みの方を選んで? 口でしゃぶるか、竿を「剥く」か…」
メディアはスカートの中に手を入れ取り出したのは、素足の巻かれたホルダーに入っていたサバイバルナイフ。彼女の持つナイフの刃先がシューセンのズボンを撫でるように弄っている、特に男性にとっては重要な「一ヶ所」の周りを重点的に…
「ひぃいいい……!!!」
メディアの事務的な口調と無表情、そして男性を軽々とねじ伏せてしまう怪力…先程まで自分が有利な状況であった筈のシューセンもそんな無機質なメディアに恐怖心を抱き始めていた。
「淑女ならば…相手を制圧する時も上品かつスマートにお願いしますよ、メディア」
その声を耳にしたシューセンは思考を一端止まってしまった。…何故ならば、その声の主である先程自分の手で銃殺したはずのアルバート・フリートウッドは何事もなくその場から立ち上がっていた。頭にあった二ヵ所の弾痕さえも消えている。
「あら…こっちの方が燃えるんじゃなくて? …ほら、自分の女が他の男に跨ってますよ。 一部の男の人はこういうのに興奮するって」
「僕の設定に変な性癖書き加えようとしないでくれるかい…読者がパニックになるだろう?」
馬乗りになりながら腰を軽く振るメディアと、やれやれな態度をとるアルバート…シューセンは二人のやり取りの中で動揺を隠せなかった。
(う…嘘っ……だろ? 額ド真ん中に撃ち込んだんだぞ…なのに、なんで…??!!)
今まで起きたことやこれからどうすれば良いのかを考えているうちに、覆い被さっていたメディアはシューセンの上から退いていた。倒れていたシューセンに、笑顔ながらに手を差し伸べるアルバート。
「あっ銃撃については全く問題ないのでご心障なさらなくて結構ですよ、この銃弾は自白と承りましたからね…」
「ふっ…ふざけんな、くたばれ!!」
組み伏せられた時に手元から落ちていた拳銃で頭めがけて二発撃った。撃たれたアルバートの視線は上に向けられた…しかし―――
「…貴方は二点、思い違いをしております」
アルバートは撃ち込まれた顔をゆっくりと下に向けると、シューセンは青ざめた…幻覚をみているかのようだった。
「一つ目はシンプル。私はもう既に死んでます…よって殺されることはありえません」
―――結論から言えば、確かにアルバートの顔に銃弾は命中していた。その証拠に彼の顔には二ヵ所の弾痕があった…何千枚もの紙くずの塊と化した顔の右半分から。
「そして二つ目は『悲しい過去は乗り越える』という言葉です…夕べ、口にしていましたよね?」
顔の一部だった紙くずはペリペリと?がれていくが、お構いなしにアルバートはシューセンに近づこうとする。立ちあがったシューセンは、彼に遠ざかる様にして後ろへ一歩一歩と下がってゆく。
「しかし貴方の抱える過去は『乗り越える』のではなく…『清算』するのです!!
魔に染まった、その魂を以て!!!」
やがて一本の樹が背中に当たり、後退できない状況となったシューセン。
「懺悔する覚悟はございますか、シューセン・ドッカネスキーさん?」
アルバートはおもむろにシューセンに手を伸ばした。シューセンがそんな彼の手を払おうとした時、手の皮が顔と同じように剥がれ落ちていき…中に隠れていた人骨が露わになっていく。
「悔い改めなさい、骨身の髄まで……」
名探偵と自称する『動く人骨』は、シューセンの右手の甲に苗のような印の刺青に触れた。次の瞬間、苗が実体となってアルバートに引き抜かれた。根は苗本体と比べ物にならない程に長く血管のように幾多にも分かれていた。
「~~~~~ッッッ!!!」
「苗」を引き抜かれた時の激痛によってその場で声にならない叫びをあげながら意識を失ってしまったが、引き抜かれた直後にシューセン・ドッカネスキーの身体は異常な程に変化し始めた。平均的に見て彼の容姿から推定される年齢は良くても50~60代だったのに…今倒れている彼の姿は枯木のように痩せ細り、毛髪が完全な純白色に染まった全くの別人になり果てていた…。
~~~
夜が明け日が昇ろうとしている午前四時半頃、バーツェル教会前で一匹の白い鳩が藤色の空へと飛び立った。教会前には人影、というより人骨の形をした影…アルバートもそこにいた。アルバートは鳩を見送る様に早朝の空をしばらく仰ぐと、ようやく教会の中へと入っていく。そこには長椅子に座るメディアの姿があった。
「今回摘み取った『苗』はどうでしたか?」
アルバートは持っていた一通の手紙の封を開けると、中にある手紙を取り出して全文を流し読みをする。
「ああ…どうやら今回も―――
―――私を殺した奴が使っていたモノとは違う系統のようだ…」
その手紙の内容は簡潔に一文で構成されていた。書かれていた一文はこうだった。
『苗は受け取った、今後とも変わらずの成果に期待する』
「そうですか、残念です。が…いつかは自分の手で解くのですよね?」
「当然だ、それを解き明かす為に僕はこうして蘇った。勿論君をこれ以上泣かせない為にも…ね」
メディアの隣に座ったアルバートは、彼女の手を優しく両手で包み込む。
「もし仮に失敗したとしても、他の男性とうまくいっちゃうかも…?」
「そうなるならそれでも構わないさ、僕に魅力がないってことだからね。…でも、だったらその時が来る最後の瞬間まで僕が君を守りぬくよ…この脳細胞をフルに使って」
「ふふっ…じゃあ骨と脳細胞だけの貴方の身は誰が守るの、ドクロ探偵さん?」
「その心配はないさ…さっきみたいに僕は再生できる、それに―――」
「君と共にいるのなら、これ以上なく心強いよ…メディア」
「ええ当然よ…探偵の妻ですもの」
二人はしばらくの間手を握り合いながらお互いを見つめる。紳士なドクロ探偵と命をかけて彼を愛し支える妻…未だ陽の光はあがっておらず、教会の中は?燭によって仄かに明るく温かい灯が灯っていた。
「それじゃあ次の天命もあることだし、帰りますか。 ってメディア…さん?」
アルバートは前の長椅子の後ろについたフックにかけた帽子を再び被り外へ出ようとしたが、左手をメディアに強く握られてしまい、後ろに引っ張られた。アルバートは何事かと思い後ろにいるメディアに顔を向けると、頭同士がぶつかりそうなほどに顔を近づけていた。
「ここで『祝福の儀』をしましょ」
基本的にどんな表情をしているか分からないアルバートであったが、メディアの言葉に少し驚いているように見えた。
「えっ…いや、でも時間はまだあるし、教会でするのは流石に」
メディアが行いたいという『祝福の儀』の意味を知っているのか、アルバートであった少し恥ずかしがっている様子だった。しかしメディアはネクタイをそっと掴み、彼が離れないようにした。
「こ・こ・で・シ・た・い・の、私は…今すぐに」
曲げない彼女の意志を組むしかないと感じるアルバートは降参すると言わんばかりに両手を軽くあげた。
「やれやれ…いつもクールな君もこういう時は情熱的なんだね」
「こんなシチュエーションは滅多にないわ、それとも家の中でしか興奮しないタイプかしら」
「君のお願いを断る男がいると思う?」
蝋燭の火が揺らめく中、教会の祭壇でアルバートはメディアの前で跪いて祈るように両手を合わせていた。
「彼の者天命を果たし、異端なる者の咎を明かす…ここに英知と勇敢さを讃えアルバート・フリートウッドに祝福を与えん。…感謝あれ」
教会内を照らしていた灯火が全て消え、周囲は薄暗くなった。しかし教会正面のステンドグラスから陽の光が入り始め、やがて日光はドクロ探偵の額に軽く口づけをするメディアの姿を輝かしく照らしたのだった。それはまるで死者を慈しみ恩恵を与えんとする女神のような光景であった。
「おはようメディ…今日も寝れなかったよ」
「おはようございます、貴方…明日も寝かせないわ」
ドクロ探偵は…未だ眠らない。愛する者と共に、動かぬ屍となるその時が来るまで…
『ドクロ探偵は未だ眠らない』
[X件目/謎を求めるドクロ探偵の「何時か」]END
どうも、作者のTHE黒と申します。
今回短編小説第二弾である探偵モノの作品を投稿させて頂きました。本当にお待たせして申し訳ございません。少し年明けシーズンになって色々と立て込んでしまい、プロットを書く暇もなく2月まで延期してしまいました…本当にすいませんでした(笑)!! 前回の「恋文速達係」の後書きの方で説明不足だったとは思いますが、前回から投稿している短編小説作品は漫画雑誌でいう所の「読切版」だと思ってくれて構いません。今後新しい長編小説を投稿する時の参考として皆さんの意見や感想を一言だけでも良いので、Twitterの方でもアドバイス・コメントをお待ちしています。さぁ切り替えて次投稿する予定作品のジャンルはサバイバルアクション…それも「魔女」と絡めたストーリーを投稿したいと思いますのでよろしくお願いします。それではまた近いうちに…