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不祥事L090 均衡を保つ

 世界なんていう広がっているのか縮んでいるのか、平坦なのか球状なのかも分からない物と物が繋がっている分からない現象、異世界ゲート。科学的にも魔法的にも理論のブレイクスルーが複数回必要となるため、いくら考察しても分からないのは当然である。

 そんな異世界ゲートに対し、一定の結論を導き出したカスティアは功労者と言ってよいだろう。


「教義に照らし合わせただけの、都合の良い解釈でしかない。神の爪先派のバイアスが効いているだけだ」

「我々の世界に対して、悪意あるものならば創造神が放置なされるはずがありません。異世界ゲートが創造神の奇跡でなくとも、排除されていないのであれば同じ事です」

「結局、創造神か。はっ、では、新世界との接続に創造神が関与しているとして、私達に何を望んでいるというの」


 現実問題、創造神しか容疑者がいないのだが。

 分からない事は全部、魔法か創造神の所為にできる異世界がうらやましくもある。テレビ見ながらチップス食べているといつの間にか袋の中身が消失していたり、年金が消失していたり、アトランティス大陸が消失していたりする理由も全部説明してもらえないものだろうか。


「創造神が新世界を接続した理由。それは……光と闇が和睦わぼくするための、会談の場所としてです」


 カスティアの頭の中も説明願えないだろうか。ホワイダットの和訳は、どうしてそうなった、だったっけ。


「争い合う我々が冷静に、対等に、話し合い可能な場所として、既存のしがらみが一切通用しない新世界をご用意されたのです」

「今日のためだけに、世界を繋げたと?」

「極論を言えばそうなります。あまりにも大がかりですが、神の爪先派としてはむしろ納得がいくのです。創造神は巨大な力を行使する事でしか、小さな我々をいさめられないのです」


 ライブ観たいからライブ会場建築するみたいな話である。異世界人からは放任主義と思われている創造神であるが、実はかなりの親馬鹿なのではなかろうか。

 この場においては常識人なアジーがひたいゆがめてしまっているが、事実はどうあれ、和平会談が始まっている。否定を言葉にできずに不服顔だ。

「はぁぁ、現実的な確執はどのように解決していくつもり?」

「この会談は大いなる一歩ですが、所詮は一歩目。我々は小さき者。万年続いた戦いの解決には万年の時間をかけていく。急ぐ必要は一切ないのですよ。新世界が隣にある限り、我々はこうして顔を見合わせる事ができるのですから」

 アジーとばかり話しこんでいたカスティアが、俺達に視線を合わせてきた。


「そして、新世界の皆様には和平が実現するまでの間、現状通り、第三勢力であっていただきたい。我々のどちらとも一定の距離を開きながら、けれども、離れる事なく」


 カスティアのたくらみは、天下三分の計にあるようだ。三勢力で均衡状態を造り上げている間に、和平交渉を継続、実現していく計画らしい。

 三国志においては強大な力を有する魏に対抗するための策であり、歴史的には失敗した計略である。が、現在の地球、異世界の二勢力はどこも力が突出しているとは言い難い。成功する可能性はあるのだろう。

 隣いる局長の顔を見ると、俺の見解とは異なるらしく、苦渋だった。


「……残念ながら、政府とLゲートは強い繋がりを見せている。民間レベルは先の全国放送によりRゲートが優勢だが、それだけでは国家戦略に変更はない」


 局長が口にした内容は、異世界人に聞かせるべきものではなかった。異世界入国管理局という政府機関に属する者としてはかなりの失態なのだが、事はより重大だ。

 Lゲートと日本が手を組めば、Rゲートは一人負けを避けるべく即時攻勢を仕かけるしかなくなる。局長の発言はアジーを悪い表情でニヤつかせるだけではなく、世界間戦争のトリガーになりかねない危険なものだ。


「あら、新世界はそういうおつもり。ならば戦争ね」

「Rゲートの方々が管理局の職員を脅しても無駄です。所詮は公務員でしかない我々は、いつこの職場から異動させられるのか分かったものではない。……内々の情報となるが、来年度には現在の職員は全員更迭されるという通達がきている」

「えっ、決まったって俺は聞いていないですよ、局長!?」

「言っていなかったからな」


 年末の忙しい時期をあえて狙ったのか、政府のお達しが局長へと届いたのも数日前の事らしい。

 現在の職場を守るために局長が動いているのは知っていたが、結局、政府の意思には逆らえなかったようだ。

 公務員なので数年に一度の部署移動は覚悟していたが、まさか、異世界入国管理局を健康のまま一年で去る事になるとは思わなかった。

 入れ替わりで配属される管理局の人間は政府の犬に違いない。無事に職務をまっとうできるかは別にして、Lゲートばかりに肩入れして関係性を深めていくだろう。そうなれば、和平交渉も打ち切りだ。


「――こちらのリストにお目通しを」


 ふと、カスティアが羊皮紙を取り出した。

 羊皮紙は護衛を勤める全身鎧大(カイオン騎士)により運ばれて、局長の手に届く。

 局長は封蝋を取ると、ノータイムで俺へと手渡してくる。

「私は異世界言語が読めない。お前が読め」

「俺も少し覚えているかどうかです」

「ご安心を。書かれている言語は新世界のものですから」

 異世界の手紙に良い思い出はないので目で直接読みたくはなかったが、局長に読ませる訳にもいかないので俺が朗読する。


「斎藤隆……たかしではなくトールです? 十六歳? 佐藤火星妹……アルテミスって読みます? 十七歳。田中光宙と異武威の兄弟は――って全部名前が書かれていますよ、これ」


 羊皮紙には、難解で光沢のある名前が日本語で書かれていた。

 キラっとしている所為で読みにくく、しかも名前ごとに筆跡が異なるため更に読みづらい。

 どういった意味のあるリストなのか思い付かない俺に対して、局長は何かを直感したのか羊皮紙を奪い取って舐めるように読み始めた。


「これは……っ、中高生集団失踪事件の行方不明者達の名前だ!」


 無管理時代に発生して以来、未だに解決していない異世界関与が疑われる事件。それが中高生集団失踪事件である。

 現在の社会や親達に嫌気がさした若者達がSNS上での呼びかけで集まり、異世界ゲートを通ってしまったと考えられている。若者達が家どころか世界からも逃避しようとしていた理由は家庭事情がからむため非公開となっている。失踪者の多くに難解な名前が付けられていた事との関連性も不明だ。

 大事件であるが、異世界に関わる仕事にたずさわっていても、行方不明者の名前を全員記憶しておくのは無理がある。

 だが、失踪者の中に妹がいる局長は、全員の名前を憶えていたようだ。


「間違いない。全員、失踪者の名前だっ」

「その通りです。補足すると、すべて直筆です」

「ッ! カスティア殿が保護しているとッ」

「まだ治療中のため、リストに載せられていない若者も含めて」


 カスティアは平然としているが、だからこそ狂人的だ。

 三勢力の均衡を保つべく、Lゲートの暗側面をカスティアは証拠として集めて、暴露している。自分達が所属する光の勢力を不利にしてでも、三勢力の立ち位置を一定に保つつもりだ。


「このリストを提供いたします」

「リストが本物であれば、Lゲートにとっては致命的なスキャンダルになる。政府の思惑も崩れる。が、良いのですか」

「ぜひに。更にリストの他に、第一帰還者をお連れしていますよ」


 この言葉が合図だったのだろう。

「カイオン騎士、何をっ」

「ここがお前の故郷だ、ユーコ準騎士」

 全身鎧大(カイオン騎士)が動いて、隣に立つ全身鎧小の兜を取り上げた。


「えっ、その顔は――、有子ッ!?」


 ユーコ準騎士の素顔が見えた瞬間、局長が大声と共に立ち上がる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 中高生の家出の原因ってDQNネームなんじゃ・・・
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