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生放送R081 不穏な全国放送デビュー

 能登島におけるローカル番組に出演し終えて、ブルーシートとダンボールの構造体……もとい、Rゲート大使館へと戻ってきたアジー。

 実家を追い出されてそれなりに日数が経過して仕事に慣れてきたのだろう。

 大使館に戻ってきたばかりだというのに休む事なく、アジーは出張中に届いていた手紙を読みふけっている。


「――はぁ。何を勘違いされたのか分からないけれども、闇の信徒まで使って、悪意の竜たる私にこのような手紙を差し向けた意図は何かしら?」


 高級な羊皮紙を読むアジーが溜息を吐く。

 文面は異世界言語のため解読できないが、末尾に書かれた宛先には△の記号が書かれてある。

「神の爪先派、△《トライゴン》。古過ぎて廃れた神話にまだ固執している人間族がいたとは、驚きですわ」

 アジ・ダハーカの転生であるアジーには△《トライゴン》の神話について知識がある。

 いわく、最初の日、創造神は真っ黒い海の底から泥の塊を掬い上げて両手で丸めて世界を作った。

 次の日、大地を作っただけでは寂しいので、指で泥をねて生命を作り上げた。

 更に翌日からは、生命の一切が同じままだと変化がないので、指先を使って生物を二つに分けていった。それは男と女。それは神と人間。それは子供と大人。


「それは卵の黄身と白身。……そうやって分離し続けた結果、とうとう神の爪先でも分離できない程に生命は小さく脆弱で、果てしなく無価値な物へと成り下がった。創造神も困ったものです。調子に乗らず、神性を作った時点で止めておけば面倒な世界に……そうでもないわね」


 あまり分離されていない神性には力が集中し過ぎているため、ちょっと個人がぶち切れただけで大戦争が勃発して世界が滅亡してしまう。実際、アジーの前世の死因も神性同士の終末戦争である。創造神が熱心に分離したのも分かるというものだ。

 なお、△《トライゴン》の神話が廃れた理由は、同じ生命から光と闇に分かれたという事実を否定したいという現代人の矮小なる尊厳を実力行使した結果である。やはり、創造神は生命を小さくし過ぎたのではなかろうか。


「創造神が放置した泥から自然発生したのが魔族、という事にしたいのが光の勢力の大多数。神の爪先派なんて異端組織がまだ存続していたなんて驚きですけど、この私に接触したがるとは」


 アジーは羊皮紙を千切……少女の腕力的に千切れなかったので、ハサミで両断してゴミ箱に捨てた。

 きっと文面が気に入らなかったのだ。


「人界と魔界の和平だなんて……人間族の三分の一、虐殺しちゃいましょうか?」





「――え、何だって?」

「審査官さんが健康診断でオールAだったというのは知っていますよ。聴力検査も問題なかったですよね」


 審査官と言われると最近、妙な罪悪感を覚えなくもない俺であるが、本日はきちんと本業をしていた。

 ただ、せっかく働いている俺の所にある男が現れたのである。

「魔界観光ツアーで初登場して、その後にオールバックにグラサンでイメージチェンジして再登場したと思ったら以降ほとんど現れていない酒井さん。何か用事でしょうか?」

「詳細説明ありがとうございます。実は、審査官さんにお頼みしたい事がありまして」

 酒井が大使館から歩いて二十歩でやってきたのは、俺に頼み事があるかららしい。直感しなくても分かる面倒事。まずはマネージャーを通して欲しい。

 そこいらを飛んでいたペネトリットを呼び寄せて、俺と酒井の間に守備表示で設置する。


「ここに埋蔵金の埋まった石川県のお土産、味噌まんじゅうの詰め合わせが」

「わーい」


 一瞬で買収されたマネージャーがお土産の箱を持って飛び去った。

 仕方がないので酒井の話を聞く。


「実はですね。アジー様が生放送に呼ばれまして」

「良かったですね。次は与那国島ですか?」

「いえ、それが都心にあるほぼすべてのキー局で同時生放送となります」


 これまで地方からしかオファーが来ず、Rゲートの宣伝になっているのか分からない宣伝活動に従事していたアジー一行。ネットでもほとんど話題となっていなかったので、やはり宣伝効果が皆無だったアジー一行。

 いきなり同時生放送だなんて快挙が過ぎる。

「朝四時とかではありませんよ。昼の十二時丁度です」

「明らかに外部圧力がかかっていたはずなのに。どうしていきなり生放送の許可が」

「私もそれが気がかりでして。ですので、打てる手はすべて打っておきたいと思い、こうして審査官さんにお声をかけたのです」

 既に局長には話を通しているらしく、後は俺がうなずくだけで生放送のヘルプスタッフとして参加させられてしまう。

 確かに一大事なのは分かる。酒井の行動は正しい。

「いや、審査官の技能がテレビの生放送のどこに活かせると?」

「凶器や爆発物を検知してくれるだけでも」

「俺を検査装置か何かと勘違いしていませんか」

 魔界をれ物のごとく扱っている政府上層部の態度が急に軟化したなどと楽観してはいられない。生放送はマスコミが主導かもしれないが、許可を出したのは政府である。


「無理を承知でお願いします。Rゲートをおとしめる罠を発見していただけるだけで大丈夫ですから」

「言った。罠があるって言ったぞ。この酒井!」


 マスコミ自体もRゲートに良い印象があるかと言うといなだろう。政府、マスコミ、市民の三権分立などは法律に明記されていない。思惑が一致すればメディアとて陰謀に加担する。

 新聞がきっかけとなって戦争が起きた歴史だって存在するのだ。


「魔界観光ツアーに参加したカメラマンがテロリストだった時点で、テレビ局も信用できないのです。もう審査官さんだけが頼りで」

「あのツアーの真犯人だった人が言わないでください!」

「私が所属していた光の勢力がちょっかい出すには絶好の機会なのです。お願いしますから助けてください」


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