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視察旅L067 な……なんとコニャークたちが……!?

 コニャーク掃討が進み、残敵を逃さないように注意しながら包囲網を縮めていく。

 数も質も揃ったゼルファ部隊は圧倒的であり、特に苦戦せず、コニャークを一か所に追いめた。夜明けまで時間がかかるものと考えていたが、これなら夜の間に鎮圧できそうだ。


「敵、人工スライムは人質を連れずに陣地中央に集まっています」

「寄生していた人質をわざわざ手放した? これまでと動きが違うな。最後の最後で何かを仕出かすつもりかもしれん。慎重に包囲しろ」


 ゼルファは俺のように楽観しておらず部隊運用は手堅い。

 本人いわく、ゼルファは魔王軍幹部としての力は平均未満との事。実力不足をおぎなうべく、オーク大隊全体をうまく運用して普通の幹部並みの働きをこなそうとしている。組織化されたオーク達の作戦行動は一つの生物に似ており、敵を追い詰めたからといって先走る兵士は一人もいない。

 等間隔に並んだオーク・マジシャンが、魔法の射程を維持しながら一歩ずつ包囲をせまくしていく。

 こうしてゼルファの思惑通り、見晴らしの良い広場に集まるコニャークの山。もし同量のコンニャクがあったとすれば、ラグビー部員が一年間おでんの具として食べ続けても消費し切れない量となっていた。

 ついに王手がかかった。

 これにて、Lゲート視察旅編、完――。


「あれ、俺達の目的って薬草採取だったはずだよな?」

「私の帰省のついでに薬草採るので正解ね。それはそうと、あいつらの魔力が高まっているわ。これは……まずい。合体するつもりだわっ!」

「どこが腕担当で、どこが足担当だ?」


 集合したコニャーク共は互いの境界面を侵食し合い、結合していく。正直、ゲル生物なので曖昧な変化でしかなく、大した意味はないように思われた。

 けれども、それは認識不足。


「あれを早く止めるんだッ!!」

「……誰よ? あの女騎士」

「たぶん、後方送りにしていたエデリカさんだ。何か必死な顔で叫んでいるな」


 分離していた個体の力を結集して、一つとなったコニャークは潜在能力を最大限発揮できる状態となる。いや、本来有する力を十全に発揮できるようになる。


「コニャークの自己増殖スキルは体積が増えれば増える程、効率化されてしまう! あの量では毎秒、トン単位で増えてしまう。それだけではない、増えたコニャークも自己増殖するから指数関数的な勢いで増殖してしまって、つまり、森がコニャークで沈むぞ!」


 詳細についてエデリカ騎士が丁寧に説明してくれたため、その間に全コニャークは合体を果たしてしまった。何しに現れたのだ、この女。

 合体コニャークの体積が一気に倍加。一秒後に更に倍。あふれた一部が濁流となって包囲網を押し流す。


「退避ぃッ! 飲み込まれるぞ、距離を取れ!」


 ゼルファに警告されるまでもなく、俺達は逃げ出していた。真っ先に逃げていたのはペット妖精を含む森妖精一派だったのは流石である。

 増殖し続けるコニャークに際限はないのか。踏み付けて走る地面がベチャリとしたと思えば、そこには大地を満たしていくコニャークが。足を上げるたび、靴底に弾性が生じて走りにくい。田んぼの中をうまく走れないように、くるぶしまで浸ったら動けなくなってしまう。

「Lゲートの人間は馬鹿なのか、想像しただけで危険と分かる機能をどうして実装したんだ!」

「仕方がないだろっ。新世界から得た情報通りに作ったら、そうなってしまったのだから」

「無限増殖するスライムは地球にはないッ」

「審査官殿、言い合っていないで走れ!」

 エデリカ騎士を荷物のようにかついだゼルファが、逃走しながらも後方へと魔法を放ってコニャークを足止めしている。が、その程度ではもう焼け石に水でしかなく、一帯はどこもコニャークだらけだ。

 目に見える一帯すべてがゲル物質に覆われてしまって、地形そのものがスライムとなってしまったかのようである。

 それだけでも状況は危機的であったが、コニャーク増殖の中心地点には新たな変化が生じようとしている。


「――ニャーク! ニャヤヤヤァァァーーック!!」


 世界を終わらせる増殖能力を有する巨人が産声を上げた。

 あり余るコニャークを圧縮して粘性を高め、いびつながら体を形成しながら、巨人が大地に立ち上がろうとしている。

 ただ顔と胴体と四肢をって作っただけで中身はすべて灰色のスライム製だったが、それでも、地上百メートルに達する体は巨大が過ぎる。大きな質量はそれだけで脅威なのだ。ボクシングで細かく階級が分けられている理由を考えて欲しい。


「――こうなったからには、この世界の支配は諦めるニャーク! その代わりに、すべての世界、すべての次元を我々で埋め尽くして、我々が世界そのものとなるニャーク!」


 巨人が世界を滅ぼすというのは、実に分かり易い終末劇だろう。

「ここは人面シカの森だったのよ。もうっ、誰か早く、水分吸ってふくらみ過ぎたのろまな巨人に盗んだ首を返して上げなさいよッ。人間族の手で返して上げたら、きっと許してくれるから!?」

「ペット妖精。アイツはスライムであって生と死をつかさどるダイダラボッチじゃないぞ」

 ペット妖精でなくても絶望してしまい、錯乱さくらんした台詞を吐いてしまいそうだ。魔王軍幹部を有する俺達であっても、もうこの森を脱出して生き延びるのは不可能だ。

「ペット妖精なら飛んで逃げられるかもしれないが」

「こんな羽虫みたいな羽で高度取って長距離移動できる訳がないじゃないっ!? ぎゃあぁ、死ぬ。死んじゃう!」

「騒がしくてみっともないわね、アナタ。自然界で生きる妖精の最後なんてこんなものよ? 溺死ならマシな方だと思いなさい」

「黙れ、森妖精A! お前に私が救えるの!? 私は私である限り、生きていたいのよぉっ」

 コニャークの体に沈み込んで溺死していく未来まで、残り十メートル。


「これだけサイズが違うとなると……。魔王軍幹部であっても新参の俺ではなく、審査官殿が言ったダイダラボッチ様であれば、あるいは状況を打開できたかもしれないが」


 ゼルファ達、オークの魔法使いが発生させる魔法の壁が消失する未来まで、残り一分。

 そのわずかな余生さえ許せないと、巨人が歩いてやってくる。スケールが違い過ぎてのろいと感じてしまうが、実際の移動速度はあまりにも速かった。




 Gyoぉぅぅ――。




 だから、遠くから聞こえてきたとしても、近づいてくるのはあっという間だ。



 Gyooォぉぉぅぅ――。



 森の端のもっと向こう側。草原を越えて、荒れた大地が広がる魔界の奥からだって、重低音の発生源が驚異的な速度でやってくる。


 Gyoooooォォぉぉぉぉぅぅ――。


 チクチクと足裏を痛める木々を避けるためだったのだろう。

 森の端からは幅跳びで、最後の距離を一気に詰めてきた。

 着地の瞬間、直下型地震の勢いで地面が揺れた。足元に亀裂が走って俺は死にかけたのだが、そんな小さな出来事を巨人が気にするはずがない。


「――スライムめぇぇ、スライムめェェェッ!!」

「――なッ。自己増殖した我々と同等の体ニャーク。何者ニャーク!?」


 突如、魔界から現れた巨人は、形だけしているコニャークと違って人間がそのまま巨大化した姿だ。人間というよりは鬼というべき面構えをした巨人であるが、比較的正統派な巨人と言える。


「――スライムぅめぇぇ、スライム、うめェェェッ!!」


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