視察旅L061 全身鎧の秘密
発射されたガントレットの強襲を胸元に受けたカイオン騎士が、後方へと吹き飛ばされていく。
「うぉおおっ」
「カイオン騎士ッ」
大男が慣性移動で横に飛んでいく姿は面白い……失礼、衝撃的であるが、ユーコ準騎士は前方に集中するべきだった。
謎の全身鎧には、ガントレットがもう片方残っている。地面と水平に伸ばされたもう一つの腕が、ユーコ準騎士を指向している。
「ユーコ準騎士! 前、前!」
「……あれ、腕が二本しかないのなら私達は無事って事?」
ペット妖精。ユーコ準騎士まで攻撃に倒れれば、残った公務員と妖精なんて一捻りだと思うぞ。
発射されたガントレットが手を広げて、ユーコ準騎士の首を掴みに飛んでくる。
「舐めるな、ハァッ!」
ユーコ準騎士は最小限の動きでガントレットを回避すると、剣で叩き上げた。簡単に見えるだけの常人離れした動きである。
上へと飛んでいき、一度、覆い茂る枝葉を突破して消えたガントレット。だが、全身鎧が手首のない腕を伸ばすと、ガントレットは磁力で引かれるがごとく上空から帰還を果たした。使い捨てではないらしい。
「ガントレットと腕、何かで繋がっているな」
森の中は薄暗く見え難いが、ガントレットと腕の間に黒っぽく伸縮性のありそうな綱で連結されている。
実際、その綱を引いたのだろう。
真っ先にやられたと思われたカイオン騎士がガントレットごと綱を引いた事で、全身鎧の体勢が崩れた。
「やれぇッ、ユーコ準騎士!」
「てあああっ!」
腐葉土で不安定な土地とは思えない、というか、整備された陸上トラックだったとしてもありえない速度でユーコ準騎士は距離を詰めていく。
全身鎧の間合いに入り込む小柄な女騎士。
肌が見えない鉄壁の防御をこじ開けるため、鎧と鎧の間、剣の先を首元へと突っ込んだ。
「あれは死んだな」
「可愛い顔して容赦ないわねぇ」
全身鎧は力を失って、片膝を付く。
そのまま前のめりに倒れていく。そう予想させる動作であったが……全身鎧は剣が突き刺さったままユーコ準騎士へと掴みかかっていく。それを避けるユーコ準騎士も異常だが。
「なあ、俺達って薬草採取のために来たのに、どうして異世界のガチバトルを観戦しているのだろうか」
「森に入ったらエンカウント率が上がるものよ。仕方がないわ」
「それで俺はどう納得すれば良いんだ」
カイオン騎士がロングソードを振り上げて参戦。全身鎧へと近接戦を開始した。
二対一で戦い自体は有利であるが、不死身の全身鎧は剣で叩かれても突かれても致命傷を負わない。倒れない相手に勝利はできない。
そろそろ撤退を宣言しなければ。その前段階として後方を振り向いて退路を確認したのだが……嫌なものを目撃してしまった。
「マジか、量産されているぞ」
前方にいるのと変わらない全身鎧が二体、後ろからゆっくりと近づいている。
「いつの間にか、囲まれているわ!?」
ペット妖精が更に二体の全身鎧を発見した。包囲は既に完成してしまっているようで、逃走は既に不可能な状況に陥っている。
全身鎧が薬草の森を守るガーディアンが正体だとすれば理不尽だ。俺達はまだ一本も採取していない。
その正体は何なのか。その答えは遅れて現れる。
「そこの者達。戦闘を停止せよ!! お前達は我々の作戦行動を阻害している」
遅れて現れた女も鎧を着込んでいるものの、兜をしていないので顔ははっきり見えた。
異世界の森の中だというのに、意外にも見知った顔だ。
「我々は特別征伐大隊だ。戦闘を止めよ!」
「特別征伐大隊? そんな部隊、聞いた事のない」
「だから特別なのだ。私はこの部隊を指揮しているエデリカ・アーデ。お前達も騎士のようだが……その紋章、オーケアノスか。どうしてこんな場所にいる?」
女の騎士で見知った顔など一人しかいない。たった一度しか管理局に来訪していない人物であるが、酔い潰れて迷惑をかけられたので深く記憶していた。
「わざわざ管理局までコニャック飲みに現れた女騎士。名前は知らなかったが、間違いない」
「あー、私のお酒を分けてやった女騎士」
あの酒はペット妖精の物ではなかったはずであるが。
女騎士は全身鎧と普通の騎士を複数人引き連れて登場した。カイオン騎士とユーコ準騎士はまだ戦える様子であったが、同じ光の勢力が相手と分かって剣を下ろす。
「そこにいる男は……まさか新世界の審査官か。作戦行動中に、こんな場所で遭遇するとは奇妙な縁があるな。いや、まったく」
人違いです、と言いたかったが、腕こそ持たれていないが全身鎧に左右を塞がれてしまった。
付いて来い、というエデリカ女騎士の言葉に従うしかなさそうだ。
「オーケアノスと新世界の審査官が一緒に行動しているというのは不審だが、我々も新世界に負い目がない訳ではない。深くは追及しまい」
「では、即時解放を。我々には早急に果たさねばならん任務がある」
「却下する。秘密行動中である我々と接触した時点で、お前達を解放できなくなった。悪いが作戦終了まで行動を共にしてもらう」
同じ騎士であっても僻地の騎士団に所属するカイオン騎士と、特別部隊を率いるエデリカ騎士では発言力が異なるらしい。無茶苦茶な理由で俺達を陣地まで連行し逃がしてくれない。
「お前達が戦ったコイツは、騎士派が開発に成功した新兵器だ。次の戦い、仇敵たる魔王軍幹部ゼルファを討ち取るまでは情報拡散を防ぎたいのだ」
いや、勝手に秘密をペラペラ明かすから、俺達を解放できなくなったのではなかろうか。
「……ふっ。どうやら、新世界の審査官に隠しても仕方がないらしい。馴染み深いだろう?」
エデリカ騎士はそう断定するように聞いてきたが、こんなロケットパンチする不死身の全身鎧なんて知りません。
「もう隠しても無駄だぞ。我々は新世界の兵器の秘密を解明した」
街道を避けて、森の中を選んで行軍するエデリカ騎士の部隊の野営陣地。
そこには件の全身鎧が見えているだけでも五十体は並んで立っていた。テントの中にも倍は隠れているかもしれない。下手をすると人間の騎士や兵士と同数か、それ以上配備されている。想像以上の数がいる癖に置物みたいに不動となっているため、陣地に近づいても気配がほとんどしない。
「見よ。これが、解明に成功した人造戦闘型スライム。コニャーク特別大隊だ」
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▼新兵器ナンバーL061、コニャーク?
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“外見は重厚な全身鎧を装備した謎の騎士。
その正体は、新世界の技術のリバースエンジニアリングに成功し、完成した新兵器である――根幹技術を新世界から奪取したエデリカが言うのだから間違いない。
エデリカいわく人造戦闘型スライムらしいので、中身はきっとゲル状のスライムが詰まっている”
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