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謎手紙L047 三角形の警告

 ドライアドの襲撃の爪跡の修復と清掃は一日と急ピッチで完了し、異世界入国管理局は通常営業を再開する。


「先輩が帰ってきた途端に事件が起きるのか、先輩が帰ってくるタイミングが良かったのか。どちらだと思います?」

「心外だな、後輩。俺がツアー中、管理局が暴走兎の襲撃を受けたと聞いているぞ」

「……兎って美味しいんですよ」


 俺がいない間にも管理局は崩壊しかけていたと聞いている。大発生した兎モンスターがLゲートの関を破り、管理局まで侵攻していた。どうやったかは知らないが、後輩が押し返して事なきを得たようだが。

 じゅるり、と音がしそうに舌を見せる後輩を、ペット妖精が目を細めてながめている。


「だからレベル上がっているのね、アナタ」

「ペネトリットちゃんも燻製がいるなら後であげますよ」

「こいつはまだ反省文を書いていないから、おやつは駄目だぞ」


 仕事は英雄譚ではない。絶大なるワンマンよりも、そこそこの技量の万能選手が複数人揃ってる方が長く続く。歯車は交換できなければならないし、歯車だっていつまでも同じ場所でクルクル回っていられない。

 審査官トップを自負する俺の立場から言って、後輩が無事に育ってくれているようで安心である。

 いや、後輩をめちぎっているとまるで俺が引退か異動でもするみたいが、今のところそんな予定はない。管理局は常に人手が不足している。


「Lゲートに反応だ。そろそろ客が現れるぞ」


 後輩とタッグを組んでのLゲートから現れる人々を審査していく。異世界旅行からの帰国ラッシュだ。

「鍋のふたがお土産で売っていたと?」

「はい、余った異世界のお金で買える手頃なお土産だったので……。防御力が上がるとか何とか」

「鉄製なので虫の心配はありません。持ち帰れますよ」

「いえ、いらないので引き取ってください」

 本日の客は暴れるどころか不正も働かない大人しい人々ばかりなので、これと言った事件は起きずに時間が素早く過ぎていった。さすがの管理局でも二日に一度も営業停止していられない。短くても二週間に一度ぐらいだ。

 ただし、こういったのんびりとした日にも目立たない出来事は起きている。


「郵便です。審査官殿」


 武装していない代わりに大きなカバンを背負った騎兵が現れる。見知った顔の女騎士、ユーコ準騎士である。

 Lゲートの旅行者が自宅や知人宛に書いた手紙や、貴族が日本政府にてた親書などをオーケアノス騎士団が定期的に運んでくる。日本人疑惑のあるユーコ準騎士も時々こうして運んで来ていた。

「日々、手紙の数が増えています。私達の世界と新世界の交流が活発化している証拠です」

「ええ、まったく。管理局で働いていると肌で感じられます」

 黒髪に日本人顔。調べれば直に素性が代わりそうなユーコ準騎士であるが、未だに真実は判明していない。何より、本人が生粋きっすいの異世界人らしい発言をしている事が奇妙である。


「それでは、私はこれで」

「カイオン騎士によろしく言っておいてください」


 手紙を届け終えるとユーコ準騎士は有角の異世界馬に乗って来た道を引き返していく。彼女の事は気になるが、今は彼女が運んだ手紙の審査を優先する。

 はがきや封筒、更には動物皮を巻いたスクロールと種類があるが、まずは封筒からである。

 下から強い光を放つ台座に手紙を置いて、封筒の中身をかし一枚一枚丁寧に確認していく。

 ろうで封じられている手紙は初っ端から開くのではなく、光で透過して妙な物が紛れ込んでいないかを調べておくのが鉄則だ。以前、調べずに開いた封筒から悪魔系モンスターが召喚されて、同期の一人が入院半年の……そういえば、そろそろ退院の時期なのに戻って来ないな、同期。


「魔法陣が描かれたものは無し。髪の毛や爪といった魔法的触媒も隠されていない」


 安全を確認すると、今度は封筒を容赦なく開く。手紙には異世界の重要情報が書かれているかもしれない。審査官には手紙を読み、検閲する権利と義務ある。

 ただし、直接読むのはタブーだ。以前、手紙を肉眼で読んでしまった同期が急に操り人形みたいな気持ち悪い動きをし始めて……そういえば、絶対に戻ってくるって自分に言い聞かせるみたいに言ってリフレッシュ休暇に入った同期、いつまで休んでいるのかな。

 手紙をスキャナーでパソコンに取り込むと、光学文字認識と音声ソフトを駆使して手紙の内容を聞いていく。


“――魔族の手先の新世界人めッ”


 ……ほとんどの手紙はまともなのだが、一部――管理局宛てだと比率激増――に好ましくない内容が書かれている。

「今日は管理局宛の手紙が多いな」


“――地獄に落ちろ!”

“――お前達の所為で作戦が失敗し、枢機卿が追いやられたのだぞ”

“――コニャークの正しい使用方法が分かりません。教えてください”

“――この手紙を読んだ新世界人は、別の新世界人に同じ手紙を――”

“――好きです!”

“――魔族に魅入られし異端は、いつか必ず裁かれる”


 管理局の住所のみが書かれた手紙や、局長の名前が明記されたもの、審査官殿と俺が指定されたものまであったが全部ダイレクトメールだった。日本語を調べて送る努力に見合う文章ではない。

「局長は絶対に読まないって言い放っていたからなぁ。局長の手紙も全部調べるか」

 半分ぐらいの手紙を審査し終えて、次の手紙を手に取る。


「……住所も郵便番号も書かれていない?」


 偽の差出人さえ書かれていない真っ白な封筒だった。露骨に怪しいので慎重に調べてみたのだが、トラップは仕掛けられていない。封筒の中にはメッセージカードが一枚入っており、文章も一行のみである。


“――君に危険がせまっている。△より”


 今更言われるまでもない警告文だった。世界の最前線で仕事している関係上、一定量の危険と隣り合うのは仕方がない。

「△より? 三角と読むのかね」

 警告を特に気にせず、俺は仕事を続けた。




 翌日、プロレスラーみたいな体格の騎士が郵便係りとして現れた。


「よろしくと言伝られたから、今日は俺が手紙を運んだ」

「カイオン騎士、ありがとうございます。あれからユーコ準騎士について進展はありましたか?」

「まだはっきりとしない。ユーコ準騎士の身元引き受けをしているのがグラザベール本国にある教会とまではキケロ司祭の協力で掴めたが、それ以上の目ぼしい情報はない」

「キケロ司祭が協力?」

「ユーコ準騎士が新世界人かもしれないとまでは話していないが、それでも力を貸していただけている。光の信徒の内情は光の信徒でなければ調べようがないから助かっている」


 カイオン騎士から手紙の入ったカバンを受け取りつつ、俺が以前キケロ司祭から受け取った法具、どこにしまったっけと考える。


「光の信徒といえば……最近、秘密結社が誕生して暗躍しているそうだ」

「バレているのなら秘密の結社ではないのでは?」

「どういった奴等なのかは分からないのに、光の信徒を中心とする教会派が強く敵視している事だけが広まっている。新世界には関係のない話だとは思うが、注意しておいてくれ」


 別世界そとからだと、異世界は戦争が一旦いったん落ち着き安定しているように見えたのだが、争いの種は戦争以外にも存在するようだ。Lゲートは複数国家、複数団体の集まりなので審査官でも把握し切れていない事の方が多い。

 新たな秘密結社についてどう注意すれば良いのかカイオン騎士にたずねる。


「奴等のシンボルは三角形らしい。どういった意味があるのかは分からないから答えられん」


 三角形か。

 わざわざカイオン騎士から忠告を受けたので、どこかで三角形を見たら注意するようにしよう。

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