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魔王城R044 魔界観光ツアー 出張精算

 人的被害を一切出す事なく魔界観光ツアーを終わらせた。自己評価では百点満点間違いなし。

 俺は自信に満ちた顔付きで局長室を訪れる。


「……妖精が不法出国して様々な問題を起したと外務省から苦情が届いているが? 魔王の親族がツアー客を襲撃してきたとも報告書には書かれている。これのどこが百点満点だ?」

「局長、逆に考えてください。それだけの事態が起きていながら脱落者を出さずにツアーコースをすべて周り終えたのです」

「警察庁からも審査官とRゲートの癒着ゆちゃくを暗示させる報告書が届いているが?」

「局長、あそこには潜入捜査官などいませんでした。何の役にも立たなかった一般人ならいましたけど」

「テレビ局からもテロリストの撮影した映像を放送できないとクレームが。密かにであるが某国領事館からも圧力がかかった」

「局長、どちらも自業自得じゃないですか」


 局長に隠し事をしても仕方がないので、ツアー中に起きた出来事をすべて出張報告書にまとめて提出している。十六節あるそこそこ長い報告書であり、局長にフィクション小説を読むみたいに楽しんでもらえればと張り切った。

 すべて読み終えた局長は、何故かひたいを指で押さえながらうつむいてしまったのだが。皮製の椅子に深く座り込んで、足を魅惑的に組み直している。


「報告書の最後に添付してあるツアー客へのアンケートを読んでみてください。かなりの高評価です」

「実質、二人しか書いていないではないか」


“――参加型ミステリー劇の登場人物になったみたいで毎日が新鮮でした。地獄巡りのようなツアー内容にも満足。味噌が朝食に付いていないのが残念。五十代、女性”


“――雑な味付けに雑な調理。命まで狙われる散々なツアーであった。が、あのスープにはそれだけの価値があった。六十代、男性”


 ツアー参加者の多くが一般人ではなかったため仕方がない。

 攘夷ゼノフォビアテロリストだったカメラマンは帰国と同時に逮捕された。イケメンと酔っ払いも事情聴取を受けている。

 ジャーナリストがテロリストだった影響は大きく、Rゲート観光ツアーそのものよりも大きく報道されている。異世界の危険性をあおるその他の出来事は隠蔽いんぺいするしかなかったとも言えるが。異世界との本格交流を目指す政府の政略に乗るしかないのが公務員だ。いやー、残念、残念。

「……どちらのゲートと交易したいか、という話は残るがな」

「局長?」

「こちらの話だ。現場のお前達まで巻き込むつもりはない。というか、お願いだから首を突っ込んでくれるなよ」

 キナ臭い話と言えば、ツアーの最後に大問題を起してくれた酔っ払い。

 Rゲートが崩壊しかねない大事件を起した人物を魔王軍幹部たるゼルファや魔王の娘たるアジ・ダハーカが許すはずがなく、国家転覆罪で身柄を拘束しようとしたのである。

 Lゲートに裏切られていたとさとった酔っ払いは抵抗せず、成すがまま火刑にされかけたのだが……結局、闇の信徒に改宗する事で手打ちとなり日本に帰国している。Lゲートの布教への対抗なのだろう。


「それで、局長。攘夷ゼノフォビアテロリストからツアーを守った俺へのご褒美は? いつ食事に行きましょうか?」

「妖精が管理局をすり抜けた事実を、管理局が密かに送り込んでいたという虚偽に変えなければならんのだぞ。そんな暇は向こう一ヶ月ない」

「はは、嘘ですよね?」

「それは私の言葉だ……」


 本気でへこんでいる局長を見ていると約束が違うと言えなくなってしまった。





 休憩室でバリバリと地獄煎餅――魔界銘菓、五百円――を食い破るペネトリット。


「同僚への土産くらい買っておきなさいよね。気が利かないわよね、あいつ」

「それだけ忙しかったんじゃないです?」


 休憩中の浦島直美こうはいも真っ黒い煎餅をもらって食べている。ケチなペネトリットが土産を分け与えるぐらいに気を許されているようだ。

「今回もあいつ死にかけていたのよ。まったく、私がいなければどうなっていた事か」

「あ、この煎餅。案外普通」

「ちょっと、聞いているの!」

 二枚目の煎餅に手を出した浦島を非難するぐらいの信頼関係でしかないようだが。


「ペネトリットちゃんは先輩が心配で、密出国しちゃったんですよね」


 ペネトリットがコントのごとく土産箱へと頭から突っ込み、煎餅が散乱する。

「はぁっ!? どうして私があいつの心配しないといけないのよ!」

「心配していないのなら、どうして嫌いなRゲートに?」

「あいつが私の眷族だからよ。眷族の世話は飼い主の役目、普通でしょ?」

「そうですねー。そういう事にしておきましょうねー」

「キィィー。その気の抜けた返事は分かっていないわね! 妖精が人間族にペットに対する以上の感情が芽生えるとでも思っているのっ」

「そうですねー。先輩もまだペットとしてしかペネトリットちゃんを見ていないから、似た者同士ですねー」

 休憩室で行われる女子トークが煎餅の投げ合いに変化するまで、そう時間はかからない。





 ――魔王城、玉座にて


「このたびのツアー達成、見事だった。ゼルファ、お前を幹部へと昇格して間違いはなかったな」

「はっ、魔王様。勿体もったい無きお言葉です」

「新世界人をまねき入れた分以上の成果があった。が、同時に課題も見えた。今回の危機は入国審査さえ万全に行えていれば防げたはずである。早急に体勢を整えろ。管理局の増築が必要であればミノスを使っても良い」

「承知しました。同じ失敗は二度と繰り返しません」


 雷鳴轟とどろくたび、玉座に何故か置かれている木箱のシルエットが浮かび上がる。ツアー終了により、ようやくペネトリットから解放されて定位置に戻る事に成功したのだろう。

 玉座には魔王軍幹部が全員召集され――玉座に入り切らない者は例外――、傍仕えのリリスはもちろん、ベルゼブブやゼルファ、牛の怪人も列席している。

 更に魔王の娘たるアジ・ダハーカも並んでいる。


「お父様。まだ新世界人を招き入れるつもりですの。次もまた魔界の危機を持ち込まれる危険があるというのに!」

「アジーの言う通りだ。新世界とLゲートがこのまま同盟すれば魔界とて危機におちいる。新世界人の人間族一人に、アジ・ダハーカさえも手玉に取られた」

「あれは卑怯ひきょうな手段で! そもそもお父様がっ」

「悪意の竜たるお前が卑怯とな。ははっ……笑わせるなッ」


 魔王の口調が一段階冷え込む。それだけでアジ・ダハーカの背筋が震えた。


「アジ・ダハーカを卑怯な手段程度で押さえ込める相手がいる新世界を、お前は放置しろというのか!」

「放置できない相手であると分かっています。だから、攻め込み滅ぼすしかないとっ」

「ツアー客一人餌食(えじき)にできなかったお前が、我に意見する権利があると? 甘えるのもいい加減にしろッ」


 好戦的な主張はアジ・ダハーカだけのものではない。むしろ、幹部の半数以上が肯定している主流な考え方である。想像以上に光の勢力と接近している新世界を滅ぼすというのは乱暴でありながら、現実的な対抗策でもあるのだ。

 しかし、新世界は力を見せた。ツアー客は一人も欠ける事なく帰国した。

 アジ・ダハーカが動いてなお失敗したという事実は深刻で、タカ派の魔族を押さえ込むには十分過ぎる。

「アジ・ダハーカ。お前は我の命令を破っただけでなく、破って失敗したという二重の罪がある。我が娘であろうと温情を期待するなよ」

「お、お父様!?」

 普段は温厚な木箱として幹部の中で評判の魔王であるが、国を預かる王として時には冷酷な判断を下す。

 だから魔王は今回、冷酷な判断により実の娘に厳罰を下す。


魔王城いえから出て行け」

「魔王様、それはあまりにも冷酷で――」

 思わずリリスが口を挟もうとしたが、箱が強く閉まる音が響いてしまい押し黙る。


「そして、外交官として新世界へと行け。国交を築くまで帰る事を許さん!」


 魔王の言葉は決定事項であり、アジ・ダハーカはいきなり宣告された一人暮らしに顔を青く染めてうな垂れるしかなかった。

「流石ハ魔王様。身内ニサエ非情ナ」

我侭わがまま放題で服も一人で着替えられないアジー様がお一人で新世界へ。なんと……」

「おお、我等が偉大なる魔王様よ。邪悪さに思わず身震いしてしまいます」

 幹部達は次々と魔王の冷酷さに賛美を送る。


「お父様、御一考を、御一考を!」

「さっさと出ていけ。仕送り額を減らすぞ!」


 アットホームな玉座に、アジーの悲鳴だけが木霊こだます。

これにて魔界(観光ツアー)編は終了です。

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