魔王城R033 魔界観光ツアー 四日目 事件解明P
警察の潜入捜査官を名乗る一般人に言いがかりを付けられる。ドアの隙間に革靴を突っ込まれてしまい、虚言癖のある一般人を外に押し出せない。
「誰が一般人ですか! 私は警察だ。貴方を逮捕する!」
「ここは異世界だぞ。警察だろうと逮捕権はない!」
一般人が本物の警察か否かのそもそも論はひとまず置いておく。
現行犯でもないし、令状さえない癖に逮捕できるはずがないという道理も横に置いておこう。
どうして警察に目を付けられたのかに一番興味がある。審査官なる厳格な職務についている俺が簡単にボロを出すはずがない。ぜひ、今後のためにも聞いておきたい。
「ツアー中、度重なり発生した事件。無関係に思えた連続凶悪事件にも共通点があると私は気付けた。警察ならではの直観力は異世界でも曇らないものですね」
一日目のカメラマンぎっくり腰事件。
二日目の味噌盗難事件、イケメン外泊事件。
三日目の酔っ払い暴行事件。
……一切の関連性がないと思われるというのに、どんなニューロン構造した脳なら共通点を閃けるのだろうか。
「それは、すべての事件が審査官、貴方の近くで発生しているという事です!」
警察が堂々と指を突きつけてくる。カップ麺を食べた人間の百年以内の死亡率は百パーセントだ、と宣言された気分である。
「異議ありっ! ツアー客に起きた事件なら、ツアー参加者の傍で起きて当然だ!」
「カメラマンの部屋は貴方の隣部屋です。味噌の盗難現場は向かいの部屋。そして、無断外泊の場となった淫魔街に貴方が出向いていたという証言を得ています」
「三日目の事件については?」
「ごほん。どうですか。異世界の魔法や呪術に目を捕らわれず事実をありのまま推理すれば、事件ある所に貴方がいると分かるのですよ」
思いっきり三日目を無視されてしまった。随分とバイアスのかかった事実である。
「私は最初から審査官を疑わしいと考えていたのです。特殊な職場環境のストレスは貴方に異世界排斥、攘夷思想を植え付け育ててしまった。……これが事件の全体像です。さあ、今すぐ自供すれば罪は軽くなりませんが罰は軽くなりますよ?」
警察は二時間ドラマの〆に入ったかのような優しい口調になっている。が、崖に追い詰められる前から自供する犯人はいない。そもそも俺は犯人ではなく、この身は潔白だ。
冤罪事件の被害者となりかけている現状をどうにか解決しなければならない。
冤罪ふっかけてきた警察は頼りにならない。己の身は己で救わねば。
「皆様。お集まりくださり、ありがとうございます」
関係者全員が集まれる部屋となると食堂が最適だ。ツアー客に外務省職員、従業員のゴブリン、責任者たるオークのゼルファが白いテーブルクロスに覆われた長い机に並んで着席する。
「全員集めて一体どうしたの?」
「犯人はそこの審査官ではなかったのか」
味噌マダムや料理人はもちろん、これまでの事件の関係者たるカメラマン、イケメン、酔っ払いも顔を揃えてもらっている。
全員の目線の集中を受けて、俺は集まってもらった趣旨を説明する。
「ツアーを震撼させた数々の猟奇的事件。その真犯人が分かったのです」
「本当か。審査官殿っ?」
「ついに自供する気になったのですね」
ゼルファの期待する目と一般人(警察)の的外れな期待の目に頷いてみせる。
「これまで発生した事件にはすべて裏がありました。三日の間に発生した精々が傷害事件には隠された事実があったのです」
「い、一体誰が犯人なのですかっ」
レポーターにマイクを向けられたので、少し溜めてからインタビューに答える。
「真犯人はこの中にいます!」
驚きを隠せないツアー客達は椅子を引いて体ごと向きを変えて、隣の人間を怪しむ。
だが、顔に真犯人と文字が書いている訳ではないので怪しむのが限界だ。着席しているツアー客以外に第三者が食堂に隠れているのではないかと周囲をキョロキョロ見渡している者がいるが、そういう大きなリアクションを取る者こそが不審がられ、不審な人物に注目していた人物が更に別の誰かに疑われている。
俺を犯人だと信じて疑わない一般人(潜入捜査官)が批判してくる。
「疑心暗鬼を誘発して言い逃れする気ですか!」
「違います。自分以外の真犯人がいると全員に知ってもらうために集まってもらったのです。これから事件の真相を順番に説明していきますよ。まずは三日目の事件について」
「三日目? 普通は時系列に沿って説明するものでは??」
「三日目が一番犯人の動機を理解し易いからです」
真犯人を名指しした時に凶器とならないように、食堂の装飾品はあらかじめ別の部屋へと移動してもらっている。
スタンド式の燭台も、壁掛けの魔剣も、中の人不在で動く鎧もない寂しい食堂。残っているのは棚の上に残された木箱ぐらいである。
「三日目の事件はただの傷害事件ではありません。Rゲートと日本の接近を阻止するために起されたテロ事件だったのです!」
部屋に入ろうとした酔っ払いが中に潜んでいた犯人に頭を殴られた三日目の事件。この事件は計画的なものではない、突発的なものである。
事件の引き金となった出来事は、三日目の夕食、料理人がRゲートの料理を美味と評価した事だ。
白髪交じりの和装の男性、料理人に向かって話しかける。
「真犯人が本当に襲いたかったのは料理人、貴方です」
「……料理人とは私の事か?」
「ええ、貴方です。貴方が三日目の夜に我侭を言ってシェフに作らせたスープを、貴方は高く評価しましたね。これまでの言動と百八十度変わる発言に対して真犯人は酷く慌てたのです」
日本の料理界の重鎮であり、コネで異世界ツアーに参加できるだけの政治的影響力を持つ料理人。そんな人物がRゲートの食材を褒めてしまったのだ。日本に帰国した料理人が、Rゲートの食材を輸入したいと言い出す未来は簡単に想像できる。
Rゲートとの交易開始。
日本とRゲートの親睦を快く思わない者達からすると悪夢でしかない。だから、料理人が帰国する前に排除しておきたいと考えてしまったのだろう。
「ただし突発的な行動のため、犯行はかなり杜撰でした。料理人ではなく酔っ払いさんを間違って襲うぐらいに焦っていたのでしょう」
「……酔っ払いとは自分の事か?」
「ええ、貴方は料理人の部屋に入ろうとしたから、間違いで襲われたのです」
本当は襲われるはずだった料理人。間違いで襲撃されてしまった酔っ払い。二人とも思いもしなかった新事実に驚きを隠せていない。
「これでも私は名の売れた有名人なのだが」
「まだ今日は酒を一滴も飲んでいないのに、酔っ払い……」
事件の真犯人は異世界の繋がりを忌避するテロリストだった。
だが、そのテロリストが人間とは限らない。
「待ってください! 部屋はオートロックで本人以外は入れません。例外はそこにいるゼルファさんを含めた魔界の人数名のみのはず。つまり、真犯人たるテロリストは魔界の人間と貴方は言いたいのですか!」
女性レポーターが最初に気付く。
料理人以外で料理人の部屋に入れるのは魔王幹部クラスの魔族のみ。現在、魔王城にいる人物で該当するのはここに出席しているゼルファと、魔王城の上層階にいるリリス、そして魔王の娘のアジー。この三名だ――どうして魔王が除外されているのかは不明である。
三名のいずれかが真犯人だったとしても事件は急展開だ。
Rゲートにテロリストがいるという事実は重い。
けれども、その心配は必要ない。三名全員にアリバイがあるからである。
「あのスープを飲んだ後、私とゼルファ殿は食堂にいたと証言しよう」
夕食後もスープを飲んだ料理人は放心して食堂に残り続けていた。だから、真犯人に襲われずに済んだのである。そして、スープに幹部としての進退をかけていたゼルファも食堂に居残っていた。二人は感想戦を語らう事もなく、静かに対面し続けたのである。
「リリス様とアジー様にはアリバイがある。詳しくは話せぬがあの時間、アジー様の釈放のためにリリス様が出向いていたようだ」
アジーが何をしたのか教えてくれなかったが、三日目夜にリリスとアジーがいたのは淫魔街である。二人も犯行は不可能である。
「魔族は魔法を使えるはずだ」
「魔法を使えるのなら、わざわざ鈍器で酔っ払いさんを襲ったのは不自然ですよね」
腰を痛そうにしているカメラマンの反論を封殺する。何でも魔法で解決しようとするのは頭が悪い。
「夕食前に部屋のドアを開けておき、別の魔族を忍び込ませていたのでは?」
「犯行のきっかけとなったスープは予定されていたコースになかったものです。事前準備は不可能です」
イケメンの想定も少し考えれば矛盾していると気付ける。
「……では、一体誰が真犯人??」
簡単に思い付く範囲で俺の推理に穴がない。となれば、魔族が真犯人でなければ一体誰が密室に入れたのか。
「真犯人は事件を辿る事でおのずと分かります。続けて二日目の事件について説明しましょう」
真犯人の正体を暴くためにも、続けて、イケメンが淫魔街のゴミ捨て場に捨てられていた事件を語る。




