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番外編EX2 灼熱大陸

つい、〇熱大陸ネタを書いてみたくなってしまい・・・。


 ――今夜の灼熱大陸。

 地球ではない世界、異世界との接続は我々に新しい出逢いと問題を同時にもたらした。

 異世界からやってくる人や物を適切に審査し、我々の生活を守る審査官なる人々がいる。

 都心から離れた山奥にある異世界入国管理局。ここに、熱き思いを持って働く一人の女性がいた――。





「ねぇ、録画した全沢直樹を観ないの? 本当に倍返しているのかチェックシートでチェックしないといけないの」

「明日にしろ。今日は後輩の晴れ舞台がテレビで全国放送されるんだぞ」

「知っている人に観られると思うと、かなり恥ずかしいですね」





 その女性は、かなり特殊な場所で働いている。

 何を隠そう。彼女、浦島直美の勤め先は日本と異世界の狭間はざまにある。


【どうして、異世界入国管理局で働こうと思ったのですか?】

「普通に地元の市役所に就職したと思ったら、いつの間にか配属先が変わっていたんです。何でも応援配属らしくて。……最近になって分かったんですけど、私の応援先は事務のはずだったのに、私の前任の審査官の脳みそが吸われて再起不――」


 まだ二十二歳の浦島にとって、戸惑いは多い。

 何せ、彼女が任されている審査官と呼ばれる職種は、異世界人、御伽噺おとぎなばしに出てきそうな魔法使いや妖精や魔物と対話する必要があるからだ。



 我々、取材スタッフが取材を開始した当日にも、可愛らしい異世界人が出迎えてくれた。

 蝶々の羽を有する、小さな人間。妖精だ――。


「テレビ局スタッフッ、命知らずな真似はやめろ! 妖精に近づくんじゃない!!」

「放送事故ならともかく、放送自体を中止させるな。警備部、対妖精鎮圧弾を使え!」


 ――妖精は臆病な性格をしていると物語で書かれている事もあるが、現実では、人間の方が臆病らしい。ランチャーを構えた屈強な男達が催涙弾のようなものを発射して、妖精をすべて追い払ってしまった。


「ケフォ、ケフォ。胡椒だわ。塩も混じっている。私達をヒロインにするつもりなのね!?」

「ちょっと、警備部の奴等。エルフの生写真を売ってあげないわよッ」

「テレビスタッフを洗脳する計画は中止よ! 皆、退却―っ」


 陣頭指揮を取っていたのは、異世界管理局の局長を務める宝月ほうげつ滝子だ。

 警視庁のキャリア組だったという異色の経歴を持つ異世界入国管理局のトップに、浦島の事を聞いてみた。


【浦島の評価は?】

「浦島は素晴らしい審査官だ」


【具体的にはどのあたりが?】

「当時は上からの圧力もあって必要な人材がそろわず、人的余裕のあった事務局に配属予定だった浦島を審査官に任命した。正直、一週間だけでも生き延びてくれたらという時間稼ぎであり繋ぎ役だったが、奴の危険に自ら接近しながらもギリギリで避けるセンスが審査官に適していたらしい。今では、いつ再起不能になるか分からないエースの代理が務まる程に成長してくれた」


 局長の評価はかなり高いようだ。捨て駒が生き延びて成金となったイメージなのだろう。





『姉さんの顔が映ったよ。お母さんが明日は豪華な食事にするから家に寄ったら、って言っているけど、どうする? お父さんが鬼気迫った表情で仕事が忙しいはずだ、とも言っているけど?』

「有子の就職の話もある。家に一度帰ると伝えておいてくれ」





 朝、六時半。

 社員寮の自室から現れた浦島は、ラフな格好で取材スタッフの前に現れた。


【社員寮に住んで長いのでしょうか?】

「通勤に不便な山奥にあるので、基本的に管理局の人間は皆、住んでいますよ」


【今朝は発砲音が響いた気がしましたが?】

「え、またです? 今朝はそんなにうるさくなかったから、熟睡していました」


【ちなみに、今はすっぴんです?】

「さすがにテレビがあるので、少しは」


 娯楽のない山奥での生活にも慣れたものらしい。

 老夫婦がいとなむ食堂で朝食を食べた後、浦島は一度自室に戻る。

 次に現れた時、浦島は青が特徴的なスーツに着替えていた。若々しくも凛々しい審査官の出で立ちだ。

 幻想的な雰囲気が漂う異世界ゲートを望む出入国ホールが、審査官の最前線。

 浦島はさっそく、出国者の審査を開始する。



「はい、次の方。こちらにどう――」

「さっさと通せ、人間族。それがお前の仕事だろう。もたもたするな」

「――あははー、長い耳のお客様。通行許可書は残念ながら本物ですが、幸運にもお客様には前科がありますねー。念入りに検査しましょう。警備部の皆さーん」

「な、に?」


 長い耳の美しい異世界人に対しても、決しておくする事はない。どこからか呼び寄せた屈強なる警備部が、異世界人を連れて奥へと消えていく。


「ちょっと待てェっ。こいつ等は私の攻撃が効いているのに倒れないんだぞ!? おい、離せ。そこの審査官、コイツ等だけはやめてくれ! レコーディングはもう嫌だっ!?」

「先輩と同じように体が半分になったら、相談に乗ってあげます。では、次の方、どうぞ」


 取材中にも不法出国をたくらむ者が現れるとは、想像以上に過酷な仕事らしい。


【危険を感じる事はありますか?】

「何事も距離感が大事なので。ようするに間合いです」


 学生の頃は格闘大会で準優勝した成績を持つという。その経験が、審査官の仕事でも活きているのだと。

 浦島の格闘好きは、休日の行動にも影響している。

 休日には山を下りて羽を伸ばすが、遊びに向かう先はカラオケやおしゃれな喫茶店ではない。プロレス会場だ。





「……ねぇ、隣で見切れている野郎、アンタじゃない?」

「後輩とプロレス観戦に出かけたのは先々週だったな」

「私というものがありながら、他の女と遊びに出かけるのは何事だッ」

「休日にデートの約束をしておきながら、デート中に使う宝石でRゲート大使館建設へのデモとテロを仕掛けた挙句、逮捕されたお前が悪い」

「前日に、アンタが宝石を偽物とすり替えていたから、計画が失敗したんじゃない!」

「まぁまぁ、ペネトリットちゃんも先輩も、まだ番組中ですよ」





 ある日、浦島がいつものように審査をしていた。


「サイトシーイング?」

「ノー、コンバット」

「……なるほど。警報を鳴らしますね」


 世界も種族も異なる人々を相手に、いつも通りの審査を続ける。


「亡命させてくれぇ」

「通行許可書がないので諦めてください」

「そんな無体な!」

「情にうったえるつもりなら、手荷物の底に隠した金塊は捨てておくべきでしたね」


 テキパキと仕事をこなしていた浦島だが、ふと、その手を止めた。

 浦島が審査している相手は、身なりのよい異世界人の旅行客だ。異世界人と言っても外見は我々地球人と変わらない。外国のグラマラスな女性である。

 胸の谷間を強調するタイプのドレスはTPOに反しているが、大きさは素晴らしい。

 怪しい点など一つもないように思えるが、はたして。


「通行許可書は本物。でも……森妖精Zちゃん。どう?」

「クンクン、臭うです。何かいかがわしいたくらみを計画しているに違いないです」


 麻薬探知犬……もとい、魔法探知妖精が反応を示す。ブースの前に立つ女性の周囲を飛び回っている。


「きっと、香水の匂いですわ。おほーほー」

「日本に滞在中は、どこを観光されるおつもりです?」

「さあ、どこでも」

「何日間の滞在予定で?」

「目的を果たせばすぐに帰りますわ。おほーほー」

「……怪しさ満点ですね。詳細に審査します。まずは手荷物から確認しますので検査機においてください」


 異世界の女性の受け答えにも疑問を覚えた浦島は、X線検査装置を使って女性の手荷物を審査し始めた。ディスプレイに注目するため、女性本人からは目を離さざるをえない。


「――新世界の女、隙ありッ。お前で百人目だ!」


 次の瞬間だった。

 異世界の女性はブースの中にいる浦島へと手を伸ばしたではないか。青いシャツの胸倉を掴み上げようとしている。そんな指の動きである。


「おっと、危ない」


 素晴らしい反応を見せたのは浦島だ。ブース内に備わっている警棒――何かの枝の安っぽい加工品――で女性の手をガードすると、横へと腕をはじく。


「――まったく。むさ苦しい人間族全員に直筆サインを書いてようやく解放されたぞ。あの審査官の女。次に会った時には容赦しな――」


 腕をはじいた方向には、そばを通り抜けようとしていたエルフがいたが偶然なのだろう。


「人間族が、私の体に触れてく……るな、あゥ?! ヌォォォッ!」

「ちょっ、そんな肉付きの悪いエルフに触れても、胸囲を吸収できないわよ!?」


 異世界の女性の手が接触した途端、エルフの女性は奇声を上げて失神してしまう。胸のあたりが細くなってしまったように思えるが、誤差の範囲だろう。

 異世界の女性が何らかの違法な魔法に手を染めている事実を確認した浦島は、女性を倒して拘束する。関節を決めて腕の自由を奪う徹底ぶりだ。


「は、離しなさいっ。こっちでは違法になっていないじゃないっ」

「貴女の真の来日目的は?」

「『肉吸い美容具』を使って、より完璧な体を得るためよ!」


==========

 ▼呪術品ナンバーEX2、肉吸い美容具

==========

“魔物の一種、肉吸いの力を封じ込めた呪術品。

 体の肉を奪うという恐るべき能力を持った魔物を呪術によって封じ込めて、その力を利用できるようにした一品。

 体のどことは言わないが、ある部位を改善したいという顧客ニーズにこたえ、Lゲートの魔法使いが金策のためにこしらえた珍品である。


 相手の体に触れる事で、該当部位の肉を奪える。

 Lゲートで同意なく相手の胸や尻の肉を奪う事件が続出した事で、同意が必須となったのが二年前。

 同意ありでも、金銭目的で過剰に肉を提供する事件が横行。胸がえぐれた者が続出した事で、全面的な使用禁止となったのが一年前”

==========


 残念ながら、この異世界の女性のように、日本の法規制の対象外である魔法や呪法を使用、持ち込む異世界人は増している。

 今回は入国を未然に防ぎ、被害者も発生しなかった――「エルフが倒れているぞ!」「警備部の保健室に連れて行くんだ。手厚く看病だ」――が、だからこそ、審査官の役割が重要であると知れる。


【貴女にとって審査官とは?】

「やりがいのある仕事ですよ。世界と自分が繋がっているという感覚を地肌で感じられます。……基本的に世界は圧死試験をしかけてきますが」


 彼女のような審査官がいる限り、我々の世界の平和は保たれ続けるのだろう。




 さて、次回の灼熱大陸。

 ごく普通の主婦が作り上げた味噌が、今話題に。なんと、あの異世界料理の鉄人が絶賛――。




「……え、これで終わり? ゾンビの大群が押し寄せてきたり、食人カマキリの卵が持ち込まれたりして取れ高あったのに??」

「放送コードに引っかかったのだろうな。この辺りが全国放送の限界か」

「あ、お母さんからLIFEが入っている。押収した『肉吸い美容具』があるのなら、使ってみれば? 余計なお世話っ!」


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― 新着の感想 ―
[一言] 後輩さん、何も知らされず管理局に送られたんですね あんな危険な職場に無断で応援に行かせるとは彼女の元上司は酷い人ですね ですが今の上司は後方支援要員を最前線に送り込むくらい善良な人なのですね…
[一言] パトレイバー とはまた懐かしすぎるネタを。(笑) 確かにジョークでは済まされない職場ではあるが。
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