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第九話 当てが外れる事もある

 ぴゅう太が引き返してきた廊下の奥へ、私はダッシュした。雑魚ならすぐにケリ着けてやろうじゃない。

 エネルギー補給も完璧だし。

 右腕も唸るってもんよ。

 だが、一気に引き返したくなる情景が、眼前に広がった。

 暗闇の中から無数に伸びてくる手、手、て、テ……。

 一体何本あんのよっ! てか、何人いんのっ!

 スピードはそのままに、私は左へステップしながら身体を低くした。

 一本の腕が頭をかすめた。

「ひっ」危ないわねぇ。

 しかし、腕達は容赦なく私目掛けて飛んでくる。

 ったく、満員電車で乗った車両が全員痴漢だったって心境だわ。

「後ろかっ」

 両手を床に着いて、右足を天井に向けコマの様に回した。向かってきた三本の腕が中空で消える。私は勢いで背中を軸に二回転ほど回った。ダンスかっての。

 素早く立ち上がり、未だ腕だけの奴らを交わしながら先へ進む。

 いい加減、身体も出してよね。

 教室にして二つ半進んだ時だった。背中に衝撃が走った。

 押されたというよりは、アメフトでタックルされた感じ。された事無いけど、それほどの衝撃って事。

 私の身体が空を舞ったのも束の間、すぐさま床に叩き付けられた。

「ったぁ」落ちた場所にガラスが無かったのは運がいい。身体を起こし振り返る。

 そこに居たのは大男だった。

 強そう……それが彼の第一印象。

「えっと……初めまして」作り笑いを浮かべ挨拶してみた。

 が、その大男は表情一つ変えずにパンチを繰り出して来た。

 あは、やっぱりぃ。バックステップする私。今までいた場所に穴が開いた。

 大男がゆっくりとしたモーションで上半身を起こしてゆく。

「ちゃぁんす」

 私はすかさず右に飛び、横から足をへし折ろうと蹴りを繰り出した。

 貰った!

 ――だが、手応えがない。

 奴が寸前で私の蹴りを交わしたのだ。しかも、ただ交わしただけでなく前方へ位置を変えていた。つまり、穴の向こう。今まで私が居た所に奴は居た。

 やるじゃん大男。アンタは今から『本馬満』に決定。

「ぴゅう太〜っ居る〜っ?」

「は〜い何でしょうか」

 あいつって奴は……声はすれども姿は見えずってか? しかも声遠いし。

「アンタ、もう少し近くに来たらどうなのよ」

「遠慮させて頂きます〜」

 即答ですか? 幽霊なんだから少しくらい考慮されてもいいんじゃない?

 まぁいいわ。

「この本馬満なんだけどさ」

「誰ですって?」

「ホンママンよっ」

「ああ、ここからでも見える大男の事ですかっ?」

「そう」

「また勝手に名前付けて」

「んな事はどうでもいいのよ」

「はぁ」

「それより、こいつってポイントになるわけ?」

「わかりません」

 またきっぱりと言うわね。

「あの、お嬢さん?」頭上から声がしたが、

「っさいわね。今忙しいの、後にして」払う様に私は言った。

「あのぅ……」再び頭上。

「今すぐ調べてっ!」私はぴゅう太に叫ぶと「はい」とだけ返事が返ってきた。

「で、さっきから何よ」と頭上に目をやった。

 そこには、本馬満が私を見下ろしていた。

「えっと……は、はろぅ、あはは」今度は右手を軽く上げて小首を傾げてみた。

 が、右膝が空気を切り裂いて勢いよく向かってきた。

 やっぱそうなるわけぇ。

 くそっ、今度は間に合わない。右手に左手を添えるように、私はその飛んでくる膝を鳩尾付近で受け止めた。

 とは言え、体格差は明白。両足が軽く浮くと、一メートル程飛ばされた。

 右膝を付き、上半身を起こしながら、

「か弱い女の子に何て事すんよっ」

「か弱い女は、俺の蹴りを受け止めはしないが」

「え?」

 こいつ、言葉が通じる。なら説得出来るかも?

 なら、答えは簡単。

「あの、大人しく成仏してくれない?」

「断る」

 いやぁん〜こっちも即答〜。

「そこを何とか……ね?」目一杯可愛く、両手を合わせてお願いのポーズ。が、

「断る」

「何でよ。あなたも成仏したいでしょ?」

「俺は、俺より強い奴に負けるまで成仏する事は無い」

「あそう、じゃ私には無理ね。そゆ事で今までの話は無かった事に」

 踵を返し、背を向けようとした瞬間肩を掴まれた。

「そうはいかない」

 す、素早い。

「何でかな……かな?」肩の手を振り払い言った。

「ここで会ったのも何かの縁だ。俺と戦え」

 無茶言うなこいつは。第一、ここで私が戦って何の得が有るって言うのよ。

 断固拒否よ、拒否。

「嫌よ」

「俺を倒すとボーナスポイントが付くが」

「うっ」

 ボーナスポイント……何て魅力的な言葉なんでしょう。

 ちまちまとポイントを貯めるより、効果覿面。

 まさにビッグチャンス!

 どうしよう、気持ちが揺らぐわ。

 とは言え……私は本馬満をチラ見した。やっぱデカイ、バカが付くほどに。

 でも、ハンデ戦ならいけるかも?

「ねぇ、物は相談なんだけどさ」

「何だ」

「ハンデくれるなら考えてもいいわ」

「ハンデ?」

「そう、どう考えたってこの体格差は反則でしょ?」

 本馬満の目の前に立ち、背伸びしながら身長差をアピール。

「う〜む、確かに」

 お、いい反応。もう一押し?

「例えば、あなたがK1ルールで私が総合とか」

「ん〜」腕組みをして深く考える本馬満。

 よしよし、これは行けそうな気がする。相手が打撃系なら捕まる心配無いし。何より寝技が無いのがいいわ。

「どう?」

「いいだろう」

 っしゃ。

 廊下は狭いし、天井も低い。体格が大きければ不利な要素は結構ある。ボーナスポイントは頂いたようなもんよ。

 何て思いを巡らせていた所に、

「ではこっちで、正々堂々と勝負だ」

「はい?」

 本馬満は、月明かりが微かに差し込む廊下の壁に向かって右腕を大きく振り上げ、思い切り下ろした。足下が強く揺れると、壁には大きな穴が開いていた。

 まさかとか思うけど……。

「ここは狭い。外で心おきなく勝負をしようではないか」

「ま、まじぃっ〜!」

 当てが外れたわ……どうしよう。


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