第七話 お得な三姉妹?
その事実を知ったのは、私が学校から帰って間もなくだった。え? 学生だったのかって? こっちの方が衝撃的事実とか言わないように。いろいろとイメージしてくれてた人もいるかなって思うけど、これでも17歳。
で、衝撃的事実だけど。それは、帰宅して机の上に置いてあるパソコンを、ちょっと興味本位で触ってた時に判明した。
本体一体型なんてそう珍しくもないんだけど、グリーンモニターにカセットよ。触りたくなるってのが人情ってもんでしょ。ぴゅう太の話だとあの世に繋がってるって言ってたけど、回線も繋がってる節もないし……誰だって不思議に思うはず。
でもって、電源を投入。数分後に画面が表示された。ランキング画面と獲得ポイント。昨夜倒した『五郎』が載ってた。
「あったあった……どれどれ」
指を画面の端へ持って行く。
「なんですってっ!」
ありえない、あんなに頑張ったのにこのポイントはありえないわ。何なのよ九ポイントって。あの本じゃ二○ポイントは貰えたはずなのに。
「どうかされましたか?」
「ひっ」
ったく毎度毎度、この美少年は……。
私が振り返るとそこにはぴゅう太が目を細くして微笑んでいた。
「ちょっとぴゅう太」
「はい?」
「何なの? このポイントは」
「いやぁ、見ちゃいましたか……へへへ」
へへへ……じゃないっての。今日はその笑顔には騙されないわよ。あんなにやったのに、下手したら死んじゃうとこだったのよ。なのに、なのにぃ。
「詐欺だわ」
「そんな事ないですよ。ポイントは厳正な審査の上、決められるんですから」
「じゃ、これは何?」
私は画面のポイントを指差して言った。納得いかないに決まってる。
「ああ、これはですね……半分は志保さんが原因なんですよ」
「はい?」私が原因て……「あっ」思わず右手を口に当てた。
「思いあたるでしょ?」
「まさかとは思うけど、もしかして戦った時に壊した……アレが原因って事?」
「ご名答」
「うっ」
私はその場でひざまずいた。認めたくないモノだ、若さ故の過ちと言うモノを……何て彼ならきっとそう言っただろう。
にしても、こんなに減点されるなんて思ってもなかった。修繕費が請求されなかっただけマシって考えた方がいいのかもしれないけど。やっぱ納得いかないわ。
「で、次の相手なんですが……」
「え?」ぴゅう太の声が頭上から聞こえた。私の気持ちは関係ないのね。
私はよろよろと身体を起こすと、またもにこやかに笑う彼の顔があった。一つため息をつき、緑の画面に視線を移した。
映し出されていた画面は、既に私が見た物とは違っていた。リスト形式なのは変わっていなかったが、例の本と同じような感じって言えば分かりやすいかな。
「下位の方は結構消されちゃったみたいだから、これなんかどうですか?」
消されたって、可愛い顔してサラッと言うわね。
「どれよ」ぴゅう太が指差した所に目をやった。「無理」
「え〜っ! またですか?」
「アンタねぇ、またって言うけどこれは無理でしょ」
「そんな事ないですって」
「そんな事あるって。だいたいいきなり三七位は反則でしょ」
「大丈夫ですって、相手は女性ですし」
私が気にしてるのはそこじゃない。
「そうじゃなくて、何なのよ。この三姉妹って」
「いいでしょう〜ポイントも三倍ですよ。お得です」
「お得じゃないって……」言いながら私はベッドへ向かい、腰を下ろし続けた。
「だいたい、下位の一人だって苦戦したのにそれが三倍よ。赤い彗星じゃあるまいし」
「赤い何ですって?」小首を傾げるぴゅう太。
「え〜っ知らないの?」
「ええ」
あんなに有名な人を知らないなんて意外だったわ、私でさえ知ってるのに。ぴゅう太の言動や態度からして、めちゃ知っててもおかしくないと思ってたけど。
私は立ち上がり、左手を腰に、右手は人差し指を立て彼の勇姿を伝えようと口を開こうとした瞬間だった。何かを思い出したようにぴゅう太が放った言葉は。
「ああ、お父さんにもぶたれた事もないって人ですね」
「そいつはライバルだぁ。そうじゃなくて、赤い彗星ってのは」
「いえ、それはいいです」
「え?」すきま風が、私の胸をすり抜けた瞬間だった。
ぴゅう太がキーを叩くとまた画面が変わった。ポイント三倍、お得な三姉妹のデータを見てみる事になったのだ。幽霊が操作出来るパソコンを、私も触れるという不思議さ。ぴゅう太が椅子に座り、私は彼の右後方に立ち画面を覗き込んでいた。
「本当にやるわけ?」
「そのつもりですが」
いや、やるのは私なんですけど。苦笑してみたが、画面を凝視している彼にはきっと見えてはいないだろう。
「やるのはいいけど、今度はちゃんと戦力になるんでしょうね?」
「誰がですか?」ぴゅう太が振り返る。
「あんたよ」
「はい?」
他人事の笑顔に思考がフリーズ……不安過ぎるリアクションだわ。もしかしたら三対一も考えられる。それだけは絶対嫌、というより戦力的に無理でしょ。
「やっぱ降りる」その場を離れようとした私の腕をぴゅう太が掴む。
「大丈夫ですよ」
どっからそんな自信が来るんだよったく。
「兎に角、データはしかり覚えてくださいね」
「はぁ」強制出動かいっ。
またもキーを軽快に叩くぴゅう太。小さな画面の中で次々にデータが移り変わっていった。結局、三姉妹とやる事になってしまった。
「場所は廃校」
ありがちね。
「時間は午前一時から三時」
よく言う丑三つ時ね。
「相手は三人。名前はユイ、ユマ、ユカ」
何か聞いたことあるわね。
「三人は忍者の末裔で……」
「ちょっと待って」
「はい?」
「それ大丈夫なの?」
「何がですか?」
「いえ、一人はマッポの手先とか言わない?」
「違いますけど」
「ならいいわ」
「三人ともです」
「何ですって!」
勝てる気がしない。これなら、イレズミ三姉妹の方がマシって感じだわ。でも、サイコ何とかなんて私には無いし。
「ねぇ、飛び道具とか使えないわけ? 霊ガンとか」
「ん〜志保さんのレベルが足りませんねぇ」
「はぁ?」
レベルって何、何時からロープレになったんだよ。てか、私のレベルって今幾つよ。