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第四話 私の右手が真っ赤に燃える!

 夜中の街は車通りも少なくて、何かちょっと怖い。ましてや、私みたいな美少女なんて下手すりゃ変態に襲われかねないわ。

 何て事を言ったら。ぴゅう太は「大丈夫です」ですって……。それは何? 私なら襲われないって事? それとも、守ってくれるって事かしら? と、続けた。「いえ、志保さん強いですから」……。私を守るって話は何処いった!

 何だかんだで、結局手伝う事になった私。そんでもって、早速出ようと誘われた。深夜に美少年とデート……まぁ、それも良かったんだけど、時間も時間だったから明日にしてとお願いした。第一、徹夜はお肌に悪いもの。


 で、翌日深夜未明。手伝うと決めた以上、キッチリ決める。私達は、街からちょっと離れた国道沿いに立っていた。今はランキング七九位の男性を探している。何故この人が選ばれたかと言えば、あのランキング本。私は、出来るなら下位の奴から順番にって言ったんだけど。下位の死人て浄化しやすいから人気があるんですって。


 ったく、考える事は皆一緒よねぇ。


 ん? どうしてまだ浄化されてない人が分かるのかって? そうよねぇ、私も最初は不思議に思ったんだけど。どうやらこのけったいな本、オンライン機能がついてるらしくて……もう、これだけでも画期的なんだけどさ。だって本よ、本。普通の本なんてこんな機能あるわけないじゃない。でね、浄化されたと同時に、該当する人物の欄が黒く反転する仕組みになってるんだって。あの世の方がIT文明発達中って感じ?


 目の前にある国道は、片側二車線で中央分離帯がある。探している男性は、その分離帯に衝突して死亡した。と、そう記載されていた。私は本を片手に、そのページを開いて辺りを見回していた。

「ねぇ、ぴゅう太」私は左隣に立っていた彼に言葉をかけた。

「何でしょう?」

「この人って、事故死なんだよね?」

「え? 違いますよ」

「うそ!?」

「ちゃんと本に書いてありますよ」

「何処にさ」

「死に様欄です」

 相変わらずの微笑みでぴゅう太は言葉を返す。私は改めてランキング欄を見返した。確かに、個人情報の横に彼が言う死に様欄はあった。それにしても、この本てやっぱ『とんでもない』本だわね。取り敢えず、その欄に視線を落とす。『自殺』……そこにはそう記載されていた。

「自殺?」

「ええ」

「自殺ねぇ……」

 中央分離帯にぶつかって自殺だなんて、よっぽどの事があったんだろうか。私達は並んで郊外に向かって歩いた。傍から見れば私一人だけが歩いているように見えるんだろうなぁ。なんて思いながら。

 手に持った本には、肝心の場所が記載されていない。全てにおいて○○付近とだけ書かれているだけだった。ったく、ここが一番の肝じゃんか。ケチくさいわねぇ。私はこの疑問をぴゅう太にぶつけた。

「ねぇぴゅう太?」

「今度は何ですか?」

「何で詳しく載ってないの? 死んだ場所」

「え? ああ、それは宝探し的要素を盛り込んだって聞きましたよ」

「またいらんことを……」私は呆れるのと同時に溜息をついた。

 程なくして、中央分離帯のセンターポールがくの字に折れている場所を見つけた。路面には引きずった跡に、分離帯の中にあったであろう土がこぼれていた。


 間違いない、事故の跡だ。


「ねぇ、あそこじゃない?」右斜め前方を指差す私。

「え? ええ、案外当たってるかもしれませんね。行ってみましょう」

 パッと明るい表情になったぴゅう太は、スッと浮くと鳥のように飛んで行ってしまった。

「ちょ、ちょっと」私にはそんな芸当出来ないわよ。

 長さにして十数メートルだろうか、分離帯の中にはYの字になった銀色の鉄柱が二本、それぞれ果物がぶら下がるようにオレンジ色のランプが取り付けられていた。

 私達は中央分離帯の傍で事故の痕跡を詳しく調べた。道路のえぐれ具合やポールの折れ方。そして、彼の有無。きっと間違いない、予想は確信へと変わっていった。


 私は折れたポールの傍で意識を集中させた。

 

 ――すると。


「志保さん。あれ」ぴゅう太が静かに言った。

 私は閉じた目を開き、視線を五メートル程先の街灯へと向ける。

 何か黒いものが見えた。そしてそれは、次第に形になっていった。人だ。

「どうやら、彼のようね」

「そのようですね」

 その影は形を成し、一人の小柄な男性の姿になった。顔は細面、痩せ型、髪の毛は短く少し薄い。何より特徴的なのは、チョビ髭を鼻の下に生やしていた。

 スケベそう……。

 これが私の第一印象だった。

 と、同時に思った。

 こいつなら勝てそう。

「ねぇ、あの人がそうなの?」

「だと思います」

「まぁ、取り敢えず挨拶でもしてみる?」

「問答無用でやっちゃってもいいですけど」

 さらっと言うぴゅう太に、私は一瞬戸惑った。そりゃそうでしょう、いきなりってのはさぁ。いくら相手が幽霊でも失礼なんじゃないかなって。でも、ぴゅう太が言うには「現時点の彼等には理性はありません。言わば身体を持たないゾンビなようなもの」だから、話し合いみたいな平和的解決はほぼ不可能なんですって。下手に挨拶して気付かれたら、それこそこっちがピンチに陥って面倒な事になりかねないそうだ。

 そう言う事だから、私達は静かにゆっくりと目標へと近づいていった。それも後ろから回り込むようにね。卑怯? いえいえ、奇襲も立派な戦略!

 目標を二メートルに確認。ここからなら一気に畳み掛けられる距離だわ。幸いにして『彼』はまだ気が付いていない様子だった。立っていた『彼』はコンクリートブロックの上に座って俯いていた。そこだけ切り取って見ると、と〜っても寂しそうなオッサンなんだけどなぁ。

 それを私らは除霊しにいくのよねぇ。しかもぶん殴って……何とも複雑だわ。

「志保さん。準備はいいですか?」ぴゅう太が小声で言う。

「ええ」私はぴゅう太に貰った黒いグローブを右手にはめ頷いた。

 因みにこのグローブ。指の部分は無くって、しかも片方しかない。何でも私の霊力を増幅してくれる機能があるそうだ。

 まぁドーピングみたいなもんかな。

 私は右手に力を込めた。三……二……一!

「Goっ!」一気に距離を詰め右手を引き霊力を溜める。目標も私に気が付くが、もう遅い。

 拳に込めた霊力をぶつける為、今度は前方に突き出す。おっしゃ、仕留めた!  

 と、思ったのも一瞬。『彼』がくるりと身を翻した。鮮やかすぎるくらいに、あっさりと攻撃を交わす。私はその横をするりと通り抜けた。当たるものだと思って繰り出した攻撃だもんだから、バランスも崩した。両手を着き、四つんばいの形になった。

「志保さんっ!」ぴゅう太の叫び声が聞こえた。

 振り返ると『彼』が両腕を振り上げ私に襲い掛かろうと準備中。

 ま、まずい! 私は右足で路面を蹴り、その勢いで進みながら立ち上がり逃げた。

 冗談じゃないわよぉ。

 ドゴ〜ンッ!!

 轟音と同時にコンクリート片が背中に当たる。『彼』が腕を路面に振り下ろしたのだ。

「げっ」逃げながら振り返ると、道路の一車線に大穴が開いていた。

 ごめ〜ん、弱そうだって言ったの、撤回するわ。だから、大人しく殴られてよぉ。

「ぐおぉぉぉぉぉっ!!」叫ぶ『彼』

 あは、やっぱ駄目? だよねぇ……。

 このっ、暴走モードを何とかしなきゃ。私は五〜六メートル程距離を取ると、奴に向き直る。

「志保さんっ!」ぴゅう太が街灯の上で叫ぶ。あんた、何処にいんのよ。

 ふっと、一息吐き……私は奴を威嚇しながら作戦を練った。




つづく

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