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第三話 週間・死者名鑑ベスト一○○

 ドラゴン退治はしなくても良い訳ね。それは助かるわ……って言ってもまだ引き受けるかどうかは保留よ。まぁ、彼と一緒にいれるならって思うと、気持ちは揺らいではいるけど。

 で、私達は改めて向き直った。ぴゅう太はコホンと咳払いを小さく一つした。少しワザとらしい感じはしたけどね。

「それじゃ、これから本題に入りますね」

「ええ、いいわ」

「まずは、これを見てください」

 と言って彼は私の目の前に、一冊の本をテーブルに置いた。大きさは……そうねぇ、А四用紙位かな。よく分からない模様の表紙に、漢字でこう書かれていた。『週刊・死者名鑑ベスト一○○』と。

「えっと、何ですかコレ?」少し引き気味の私に、ぴゅう太は。

「見ての通りですが」とにっこり笑う。

 ああ、可愛い。じゃなくて、死者名鑑て何! つか、これって週刊? 週刊誌なわけ!? ありえない〜い! あの世も変わったわねぇ。

「そうじゃなくてっ」私は引いた身体を前に戻し、その本をペシペシ左手で叩いた。

「この本が何かって事ですか?」

「そう、その本とあなたの願いと何か関係あるわけ?」

「それが大ありでして……えへへ」

 えへへって、あ〜た。その照れ笑いは反則よ。抱き締めてもいいですか?

「どうしたんですか?」

「へ? と、取り敢えず、話の続きを聞かせて」

 慌てて話を元に戻す。ぴゅう太は「それじゃ、最初から」と言って姿勢を正した。

「僕が閻魔大王に課せられた……」

「ちょ、ちょっと待って」

「何でしょう?」小首を傾げるぴゅう太。

「閻魔さまって実在の人物なわけ?」

「そうですけど、何か?」

 何か? じゃないわよ。そりゃ私だって、閻魔さまの名前くらいは知ってるわ。地獄の最高責任者で、嘘吐きな輩の舌を抜いて……それからぁ、罪人を地獄の各部署へと放り込む。誰も逆らえない絶対者。それが本当にいるなんて……会ってみたい。

「あのぅ、続けていいでしょうか?」

「あ、ごめん。続けて続けて」

「課せられたポイントは一五○ポイント。これは、僕が地獄に堕ちないで済む最低のポイントです」

「ポイント?」

「そうです。今の地獄では、最後のチャンスと言いますか……そんな制度が施行されたのです」

「それがポイントってわけね」

「そうです。これは、現世で彷徨い歩く、成仏しきれてない霊を浄霊又は除霊する事で貯まってゆきます」

「まさかとは思うけど、ポイントカードとかあるわけ?」

「まぁ、似たようなものは」

「あんの!?」

「ええ、これですけど」言って取り出したのは、一枚のカード。それには『地獄の脱線しては駄目だよカード』と書かれていた。地獄って案外ポップなノリなのね。

「はぁ……まぁいいわ。それで? 私に協力して欲しいと?」

「はい」

「で、それは良いとして」

 とは言ったものの、それもこれも良いわけじゃないわよ。まずはポイント制の地獄はさておきって事だかんね。

「この本は何なわけ?」私は置かれたけったいな本を指差した。だいたい何なの? このふざけた名前の本は、あの世の人が泣いてるわよったく。

「そう、良い所に気がつきましたねぇ志保さん」

「そ、そうかなぁ」って、何で私が照れ笑い?

「で、このポイントを得る為の目安になるのが、この本なのです。この本には、原則先週中に亡くなった方の名前や住所、職業、年齢。所謂、個人情報が記載されています」

「そ、そうなの?」地獄じゃぁ個人情報保護っていうのは無いわけね。

「そして、それは難易度によってランク分けされ、それぞにポイントが割り振られています」

「もしかして」

「そうです。上位程難易度が高く、そして高ポイントを得られるってわけです」

 極めて爽やかに笑い、そして自慢げな彼。もう、私が協力する事が前提?

「じゃぁさ、地道に小さいポイントを貯めていけばいいんじゃないの? それなら私の助けもいらないし、何より楽だと思うけど。そりゃ、数はこなさないとならないけどさ」

 取り敢えず、何としても阻止! 我ながら建設的かつ合理的な意見が出たわ、うん。

「それもやり方としてはアリです。でも、それだと時間がかかり過ぎるんですよ」

「いいじゃない、ゆっくりやれば」

「実はそうもいかなくて」

「どうしてさ」

「二週間の期限付きなもので……はははは」

「な、何よそれ〜」流石地獄、そんなに甘くは無かったかぁ。やるな閻魔ちゃん。

「それで、やってくれますよね?」

「はい?」

「幽霊退治」

 綺麗な金髪が揺れ、ぴゅう太が微笑む。はぁ、もう負けそう……ううん、まだまだ怖いのは御免だし、もちょっと詳しく聞いてからにしよう。

「ま、まぁ慌てないでさ。その本を見せてよ」

「良いですよ。ささ、遠慮なさらずに」ぴゅう太がその本を押し出す。

「そ、そう?」

 私は恐る恐る『死者名鑑』なる週刊誌を開いた。

 トップページは特集記事で『華麗な死に様』と題して、人生を謳歌した人物の事が四ページに渡って書かれていた。流石、四ページってのにこだわりを感じるわ。

 その次が肝のランキングページ。ベスト一○○と言うだけあって、ずら〜っと名前が並んでいた。ぴゅう太が言った通り、一人一人にポイントが割り振ってあった。ただ、私が思っていたのとちょっと違っていて、個人のポイントがバラバラだった。当然、一位の人が一○○点だと思っていたのに、そうじゃないんだ。

「ねぇ、このランキングって誰がどうやって決めてるの?」

「えっと……確か、専門の機関があって。日々亡くなる方の死に様を参考に決められてるとかどうとか」

「死に様?」

「そうです。全国で多くの方が亡くなるのに、全ては網羅出来ないでしょ?」

「そ、そうね」言われてみればそうだわ。死者全員なんて入れたら、とんでもない数になっちゃうでしょうし。にしても死に様が参考だなんて、一位の人は一体どんな死に様だったのかしら。

 私は興味が沸き、その気になる一位の人物の欄に視線を向けた。

 が……。

「ちょ、ちょっとぉ」

「どうかしましたか?」

「どうかじゃなくて。ベストテンの人達って、死に様詳細無いわけ? 他はあんのに」

「え? ああ、それは見つけてからのお楽しみって事になってます」

 彼はひょいっとそのページを覗き込み、笑いながら言った。

 お楽しみって、宝くじかってぇの。

「でもさぁ、そもそも現世に留まってるって事は相当この世に未練があるわけでしょ?」

 私は開いたページもそのままに、腕を頭に組んで天井を仰いだ。

「ええ」ぴゅう太は変わらず冷静な返事。

「て、事わよ。皆それぞれ執着心があるって訳じゃん」

「ですね」

「呪われたりしないわけ?」

 天井から視線と共に顔と身体をぴゅう太に向けた。

「さぁ……」肩をすくめ、彼が答える。

 私の背中に悪寒が走った。

「やっぱ無理」

「大丈夫ですって」

 堂々巡りの末に、丸め込まれそうな微笑がそこにはあった。



つづく




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