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第十一話 風穴三姉妹、見参!

 開封すると、お気に入りの香りが鼻孔をくすぐった。この色といい、形といい、やっぱりポテチはコンソメよねぇ。私は彼の動きを警戒しつつ、ポテチを目一杯口へと放り込んだ。口の中一杯に広がる何時もの味、力が底から湧き上がってくる。

 チラリと彼を見た。

 相変わらずのデカさが更に際立っている。エネルギー補給したとは言え、本当に勝てるのか……不安が頭の中を駆け巡った。


 ――兎に角、ここをどうにかしないと先は無いってわけだし。


「美味そうだな、それで準備はできたか?」

 本馬満がゆっくりとした口調で言った。その言葉の裏には余裕さえ感じられた。

 何さ、お菓子食べた位で状況は変わらないって思ってるんでしょ。絶対後悔させてあげるから。

 パリッ、私はちょっと大きめの一枚を口に入れると、残りをぴゅう太に渡した。

「湿気らないようにちゃんと管理するのよ」

「分かりました」ぴゅう太は、ふっと姿を現しそしてすぐさま消えた。ただ、袋は消える事が無いので消える意味があるのか疑問に思ったが……。

 でも、知っててやってんなら天才だわ。

「お待たせ」私は軽くウィンクしてみせた。

「じゃ、続きを始めようか」本馬が指を鳴らした。

「望むところよ」

 私も軽くファイティングポーズをとって見せた。にしても、ホントどうしようかしら……。相当強力なコンボ技じゃないと倒す事なんて不可能だわ。

 飛び道具はレベル不足だって言ってたけど、結局レベルも曖昧だし。

 もしかしたら、頑張れば出るかもしれない。

 流石に、指先から出すのは無理かもしれないけど。


 ――あとは気合。


「それじゃ……行くわよっ!」

 私は深呼吸し、一気に間合いを詰め、目前で地面を思い切り蹴って高くジャンプした。

 狙いは首。上半身を捻り、その反動で足を水平に回した。

 後ろ回し蹴りで踵をヒットさせるつもりだった。

 が、やっぱ敵も素早い……見事に防御。

 ちっ、思わず舌打ち。

 体制上、後ろ向きで着地する形なった。瞬間、背後に何か迫るモノを感じた。

 ヤバし。左ローキックが私目掛けて飛んできていたのだ。

 咄嗟に右に転がり間一髪で交わした。

「フフ、よくぞ交わしたな」

 本馬は繰り出した左足をゆっくり戻し、不適に笑った。何よ何よその笑みは、絶対馬鹿にしてるって感じだわ。

 嫌な奴。


 ――上が駄目なら。


「今度は……」私はさっきと同じように間合いを詰めた。そして目前で又も飛ぶ様に見せて、実は。

「かの破壊王が得意だった。水面蹴り!」

 一気に体制を低くしクルリ駒の如く回転した。そして、本馬の足元をすくう様に下から思い切り蹴り上げる。

「何っ!」グラリ巨体が揺れた。と言うより、私目掛けて倒れこんできた。

 チャンス! 私は手を地面に着き、丁度逆立ちするような格好でロケットの様に本馬の顔面目掛けて飛び出した。

「ぐおっ」顎にヒット。本馬の上半身は上方に跳ね上がった。どんな屈強な男でも顎は弱いと聞いたけど……アレ、違ったっけ?

 まぁいいわ、取り敢えずかなり効いてるみたいだし。

 巨体が地面に崩れ落ちた。

 さぁて、ここから一気に畳み掛けるわよ。

 と、勢いに乗ろうとした刹那。

「ぬおぉぉぉっ!」

「え!?」

 地鳴りのような咆哮が私の耳を貫いた。全身がビリビリ響くような感覚にとらわれる。

 何よ、まだまだ動けるって訳?

「今のは効いたぞ」言いながらよろよろと立ち上がってくる。

 何つうタフさよ。

 でも、今ならイケる可能性が出てきた感じ、迷ってる暇は無い。

 行くわよ――完全に立ち上がる前に仕留める。

 私はダッシュし、腹部目掛けてジャンピングニーを食らわせた。着地と同時に右フックを力一杯入れる。そして、それをキャンセルしたつもりで……。

「竜巻旋風脚っ(ホントはただの回し蹴り)」

「ぐぉっ」

 さあ、トドメの一撃! 今の私ならきっと出来る、伊達にDB全巻読んでないんだから。私は三歩下がり、霊力を両手に集めた。

「カ~メ~は~――」

「な、何を――」

「マンね~~んっ堂っ!」

 突き出した両掌から放たれた霊気は、固まりとなって本馬の鳩尾を直撃した。

 巨体はくの字に折れ、再び前のめりにゆっくり倒れ込んできた。廃業した風呂屋の煙突が倒れるが如く……そうだ、帰ったらシャワーじゃなくて、お風呂入りたいわ。

 倒れた本間に恐る恐る私は近寄った。流石に、もう立ち上がってこれないでしょ。

 一歩下がった所で立ち止まり、彼を見下げた。俯せに倒れている彼の首が僅かに持ち上がった。思わず後ずさった……が、しかし。

「ま、まさか飛び道具とは……」

「恐れ入ったかしら?」

「ふっ、見事……だった」

「ありがと」

 そう言うと、彼の巨体は闇に消えていった。

 はぁ、やっとボーナスステージクリアね。私はその場にペタリと座り込んで、空を仰いだ。途切れ途切れに流れる雲が、月を隠そうとしているのが見えた。

「さぁて」一息吐き今度は地面を見つめた。すると、その地面からぴゅう太がぬっと姿を現した。普通なら心臓が飛び出す位に驚く所なんでしょうけど、放心してるのか普通に受け入れている自分がそこにはいた。

「いよいよ三姉妹と対決ですね」

「疲れたから帰るわ」私は立ち上がり、そそくさと歩き出す。その動きに合わせて、ぴゅう太が私の正面をフワフワと浮遊しながら着いてきた。

「え~っ! それ、本気と書いてマジですかっ!」

「これから三人も相手に出来ないわよ」

「そんな事言わずに、何の為にここまで来たんですか」

 心底困った顔をするぴゅう太。あら、ちょっと可愛いかも。

 でもねぇ、やっぱ厳しいわよ。

「ほら、また出直して来るって手もあるじゃない」

「それじゃ、困ります」

「そうは言うけどさぁ……」もう一度空を仰ぎ考えてみた。既にやり切った感が満載なのは拭えない。雲が月を隠し、闇が深くなってきているように感じた。

「でもぅ」

 とか、やり取りしてる時だった。二人の間を風が通り抜けた感覚に襲われた。歩を止め、その抜けた先に視線を移す――丁度真後ろ。

「何時まで待たせるつもりなのかしら」

 巨体の消えた少し先に、三つの人影があった。その誰かが発した言葉だと思うが、何処か感に障る口調。

「まぁまぁ、押さえてお姉ちゃん」

 向かって左側の影が、真ん中の影の肩を叩く仕草が見て取れた。て事は、真ん中がボス? ゲシッ、直ぐさまローキックが左側の影に飛んだ。影が崩れ落ちる……うわぁ痛そう。

「何度言ったら分かるのユイ? ユカお姉様とお呼びと言ってるでしょ」

「ごめんなさい、ユカお姉様」

 ユイにユカ? ……まさかとは思うけど、会わずに帰ろうと考えてた例の三姉妹?

「それよりも、そこの貴女!」

「え? 私?」唐突に呼ばれて、びっくりの私。少しは心の準備もさせてよね。

「貴女以外に誰がいらっしゃるのかしら?」

 にしても、その言葉使いヤメテッ、鳥肌が立ってくる。姿が見えない分余計に腹立たしい。それにあのシルエットからして、きっと私の事を指差してるんだろうけど……よく見えない。

 ま、兎に角今は――。

「じゃ、そゆ事で」私は右手で手を振り、何事も無かった様に再び歩き出した。

「ちょっと待て~ぃ!」

 今度はまた違う声が響いた。

 三人目か――。

「何よぉ」振り返りもせず歩だけ止めた。

「おのれは、ユカお姉様を無視する気かっ!」

 うげっ、怖っ。しかし私は歩を進めた。関わりたくない一心で、それはもう何事も無かったように平静を装って。

「待たんかいっボケッ!」

 何か叫んでる。

 が、無視無視。

「志保さん、呼ばれてますけど」ぴゅう太が私と後ろを交互に見て、おろおろしている。

「黙って着いてくるのよ」

「でも、折角向こうから出てきてくれたんですよ」

「いいからっ」

「待て言うとるやろっ!」

 ――完全無視。

「……お願いだから待ってよぉ」

 いきなり半泣き? それともフェイク? ともかく、負けたわ。

「はぁ」溜息を一つ吐き、私は仕方なく止まって振り返った。

「やっと止まったな」

 何故上から目線――まぁいいわ。

 月を覆っていた雲が切れ始め、徐々に辺りに光が差し始めていた。

「ささ、ユカお姉様。続きを――」

「私達を目の前にして、無視するとはいい度胸ですわね」

「別にそんなつもりは……(あったけど)」

「ふん、ますます不愉快ですわね」

「で、何?」

「な、何って……貴女、何時まで私達三姉妹を待たせるおつもりでしたの? と聞いているのよ」

 ああ、やっぱり本命の三姉妹だったか。出来るなら会いたくなかったわ。ましてや、直々に登場しちゃうなんて。ツイているのか、いないのか……微妙な感じ。

「別に待たせるつもりは無かったわ。ただちょっとしたトラブルが起きちゃってね」

「トラブルですって?」

「そうトラブル」

「兎に角、帰りたければ私達を倒してからにしてほしいですわね」

 出来れば関わりたくないから、こうして帰ろうと思ってたわけなんですけど。

 でも私の苦笑を余所に、三人のテンションが上がってきてるようで――。

「私の名は、風穴ユカ……人呼んで折り紙のユカ!」

 月光の元にその姿を現した彼女は、ポニーテールにちょっと下膨れな顔。

 折り紙って、それで何するつもりなのよ。

「ぴゅう太?」私はその場に体育座りして、ぴゅう太を呼んだ。

「何でしょう?」

「さっきのポテチ残ってるわよね?」

「あります……けど」

 小首を傾げ、丁寧に開け口を塞いでいる袋を見せて言った。

「こっちにくれる?」

「はい?」私はぴゅう太から袋を受け取ると、再び手を入れて不揃いのチップを口へと運んだ。三姉妹の名乗りは続いていた。

「同じく、アタイは風穴ユマ……リリカルのユマ!」

 ロングヘアーで、凛々しい顔立ち。

 でも、ホラ、間違ってるよソレ。手に持ってるのはどう見ても編み棒だし。

「最後に、私はユイ、風穴ユイ……えっと、ハイパーヨーヨーのユイ!」

 ショートカットに可愛い顔。ちょっと天然な感じがするわね。 

 にしても、うわぁ綺麗、光ってる。

 で、みんな揃いのセーラー服に……スカート丈長っ。

「風穴三姉妹、見参っ!」

 ハイハイ、ポーズまで決めてくれちゃって。

「ちょっと貴女!」

「あ、終わった?」丁度袋の中身も無くなる寸前だった。

「何処までもバカにして――でもその余裕、何処まで持つかしらね」

「え?」

 途端に三人が三方に散った。

 ヤバッ、速い! 私は急いで立ち上がった。

 正面にユカ――しかし、左から衝撃が来た。

 手に持ったポテチが吹っ飛んだ。

 視線を移す。

 ユマだ。彼女が私の腕に蹴りを入れていた。

「くっ」油断した。だが、続いて背中に衝撃。

 正面はユカだ、だとすると――ユイ? 息が詰まる。

 前のめりになった所に、ユカの唇の端が僅かに上がる。

「ぐはっ」腹部に強烈なパンチを食らった。

 そして、三人は直ぐさま私から離れた。

 ヒット&アウェイって訳ね。

 腹部を押さえ、三人の姿を探した。

 頭に来るくらい素早いわね。もう元の場所に戻ってるし。

「大丈夫ですか? 志保さん」

 ぴゅう太がスッと現れ、私の側で心配そうな顔を浮かべた。

「駄目そう、流石に忍者の末裔」

「頑張ってください」

 無責任な応援ありがと。

 にしても、三対一はかなり不利だわ。

「どうでして? 私達の連携は?」

 ユカが腰に右手を当て、自慢げに言い放つ。

「卑怯だわっ!」

 痛さを堪え、私はユカに向かって指差し叫んだ。

「何ですって」

「か、か弱い女の子に三人掛かりで来るなんて、卑怯の何者でもないと言ってるのよ」

「なら、一対一で……」

「ユカお姉様っ」

「何ですのユマ」

「奴の口車に乗っちゃ駄目だ」

「!?」

「奴はアタイらをバラバラにして、タイマン勝負に持ち込もうとしてるんだよ」

「何んですって!」

 ちっ、あいつが一番バカそうだと思っていたのに。

「アンタの魂胆は、ビシッとバビッとお見通しだよっ」

「仕方ない――か」

 私は気合いを入れ直し、拳を握った。

 見上げた空は、未だ月が高い所に浮かんでいた。


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