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第十話 こうなったら勝ちに行くしかない

 風穴を潜って外に出ると、そこそこ広い場所になってた。

 よりによって何で広いかな。月明かりは一層明るいし……忌々しいったらない。

 私は周囲を見回した。やっぱり広い……グラウンドかって一瞬思ったが違うようで、校門から生徒玄関までの区間を広く取っているようだった。

 少し離れた所に、私が進入した生徒玄関が見えた。足下を見ると、本馬満の影が私の影と重なっていた。幽霊のくせに影があるなんて、ナンセンスだわ。

 外で見ると、改めて彼のデカさが際だっていた。対峙してるだけでも圧倒さそうだってぇのに、これから一戦交えようってんだから……。

「で、勝負の勝敗はどうやってつける?」

 左手を腰に当て余裕の表情を見せつつ、一応聞いてみる。ホントは余裕なんてない。

「完全決着」

 スパッと来たわね。

 そうだとは思ってたけど。ちょっとは考えるとか無いわけ?

「時間制限は?」

「無制限一本勝負」

 いよいよピンチに拍車が掛かったって感じだわ。

 こらこら、親指を立てんじゃないわよ。しかも何よその笑みは……勝つ気満々てわけ? ちょっとむかつくわ。

「マジ?」

「ただし、夜明け前までに決着が付かない時はボーナスポイント無しだ」

「はい?」

 ちょい待て、今さっき無制限とか言ってなかった? しかも、疲れ果てた挙げ句にポイントも貰えないなんで事になったら冗談じゃない。どうしよう、ここで止めるって手もあるけど……すんなり受け入れてくれるかしら。

「棄権してもよろしくて?」

「無効だ」

「ちっ」

 言葉使いを変えてもだめだったか。即答のうえに無効って何よ。

 腕時計をチラリとのぞき見た。勝負するしかないとなれば、このまま考えてても仕方ない。私は覚悟を決めた。

 深呼吸をして、二歩下がった。その動作に本馬満がニヤリと笑う。

「何時でもいいぞ」

 右手人差し指で挑発しくる。

 その余裕、絶対に後悔させてあげる。

 まずは先手必勝。私は正面から突っ込んだ。それが意外だったのか、彼は驚きの表情を浮かべた。

 が、遅いっ。私は直前で左にステップし彼の右側へ。丁度右斜め後方に位置した瞬間、左足を軸に彼の右膝目掛けてローキックを御見舞いした。

「痛っ!!」

 強烈な、ほんと激痛とはこのこの事よってばかりの痛みが走った。その場に崩れ落ちるわけにはいかない。何たって、大きな手のひらが左側から、私目掛けて迫ってるんだから。

 私は左足で地面を蹴って後方へ交わした。頭上を掠めるように手のひらが通り抜けた。その後その風圧が私へ届く……なんて威力、あんなのまともに食らえない。

 少し痛む足を引きずり、私は立ち上がった。そして彼の方へ視線を向けた。

 ちっ、ニヤケてるし……余裕って事?

「どうした、その程度か?」

「まさか、今のはほんの挨拶代わりよ」

「ふふふふ」

 嫌な笑い。ああは言ってみたけど、さて次はどうしよう。膝から崩せば何とかなると思ったけど、そう簡単にはいきそうにないわ。大体にしてリーチが違いすぎる。

 ああ、飛び道具が使えたらなぁ。

 なんて、夢みたいな事考えたって仕方がない。今はこの状況を打破しなくちゃ。

「来ないなら、こっちから行くぞ」

「へ?」

 ちょっと待ってぇ。こっちも都合ってもんがあるわよ。

 と、思いを巡らせる間もなく本馬満が巨漢を前後に二度揺らす。そして私を見下ろすように上体を後ろに反らしたかと思うと、刹那。その反動を使うかの如く前方へ跳ねた。一枚の大きな鉄板が迫り来るような、そんな感覚で私へと一気に距離を縮める。

 早っ!

 ほぼ直立のまま跳んでくるもんだから、迫るのは頭と言うか顔だった。

 どうする?

 思考を巡らせる事コンマ数秒。私はその場にしゃがみ、迫り来る顔を一瞬睨みつつ上方へ飛び上がった。勿論タイミングを見計らって、と言いたい所だったけど、殆ど偶然。間一髪って言った方が正解かもしれない。そんなタイミングで私は彼の頭のてっぺんに手を着いた。丁度跳び箱を跳ぶ感じで。

 綺麗なフォーム。端から見たらきっとそう見えたに違いない。私はそんな事も思いながら、更に高く上に跳んだ。前方へ押し出す様に体重を移動させ、身体を伸ばし捻る。決まった、ムーンサルト。

 着地も決めて、振り返った。同時だったのだろうか、彼もこちらを見ていた。

「まさか飛び越えるとはな」

「思いもよらなかった?」

「そうだな……だが」

「逃げてばかりじゃ勝てない、と?」

「まさしく」

「そうね」

 分かってるわよそんな事。あの巨体であのスピード。反則だわ。最近のゾンビは、全速で走るような時代だって思ってはいたけど、どんなドーピングしてんのよったく。

 時計に目をやった。もたついてはいられない、駄目でも何でも、まずは奴を崩さないと。膝は駄目だった。次はボディか……行くしかないわ。

 彼に向かって私はダッシュした。右拳に霊力を溜めた。

「だあぁぁぁっ!」懐に飛び込む。

 左手が振り下ろされた。更に深く踏み込んでそれを交わす。間髪入れず右手が迫る。一歩引いてそれも交わした。

「食らえっ」

 再び踏み込んで右拳を鳩尾へ叩き込んだ。

「ぐふっ」本馬満の身体がくの字に折れた。

 よし、手応えありっ。続けて左も、と力を込めた。だが、下方から緊張が走った。

「っな、膝!」

 急遽出しかけていた左手を、彼の右膝に目標を変えそこに手を着いた。同時に彼の腹を右足で蹴り、後ろへ跳ねた。したたか地面に背中を打ち、転ぶように交わした、私が上半身を起こすと、奴がまたまた嫌みな笑みを浮かべていた。

「よく交わしたな」

「反射神経は良い方なの」直ぐさま立ち上がり息を整えた。

「今のは中々良かったぞ」

 まさか効いてない? そんなはずない。あの時見せた苦悶の顔は本物だった。それじゃ、回復が驚異的って事? だとしたら単発では無理だ。コンボ攻撃。それも、回復が追いつかない位の攻撃を叩き込まないと勝てない。

 どうする? やっぱここは更なるエネルギー補給が必要ね。

「ぴゅう太~いる?」

「何でしょう志保さん」

 ふっと私の右隣に姿を現す。

「エネルギー補給よ」

「コレですね」

「そう」

 私は新しいポテチを受け取ると、それを開封した。


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