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第一話 新手のストーカー?

 ふう、やっぱ休日の夜は立ち技最強が最高ね。私はベッドに寄り掛かりながら、小さなテーブルに置いたポータブルDVDプレーヤーで、アンディさまの試合に興じていた。左手には大好物のポテチを持ち、右手で頬張る。

 私は一つのポリシーと言うか、こだわりがあった。それは、ポテチは『袋』という事だ。ポテチには袋と容器に入った物が存在しているが、やはり『イモ』本来の姿を残す袋こそが、あるべき姿なのだと確信していた。

「よっしゃあっ!」

 アンディの踵落としが炸裂し、相手がマットに沈んだ。何度見ても、この技は芸術だと思っている。そして、何度見てもドキドキしてしまう。結果が分かっていてもそうなるのは、やはりアンディの凄さだって感じた。

 視線を画面から逸らし、正面にある壁掛け時計に向けた。時間は深夜二時十二分、そうデジタルは告げていた。電波時計である、狂いはないだろう。草木も眠る丑三つ時? そんな事は構わず、私は右手を袋に入れた。

「あれ?」

 左手を目線まで持ち上げ、袋の中を覗いた。イモの形を成した物はなく、そこには破片と呼ぶに相応しい物しか残っていなかった。私はそれを数回に分けて口の中に放り込み、次の袋に手を伸ばした。

 その時だった。

「そんなに食べると太りますよ」

「余計なお世話よ」

 はい? 条件反射的に反応したけど、この部屋って私だけよね? 気のせい?

「そんな、折角心配してるのに」

 やっぱり気のせいじゃない。確かに私じゃない誰かの声が聞こえた。

 

 ――そう、それは――私の背後。

 

 私は、身体を少し左に捻り、首はもっと限界かって位に捻り、ベッドの方へ向けた。

 と、そこには……「!」

「こんばんは、志保さん」

 にっこりと微笑む『彼』そう、推定十四、五歳の美少年が正座していた。髪は金色、瞳はブラウン。私より綺麗かも……って、何考えてるんだよ、私は。

 瞬間、これは現実か? と思い、一旦向き直り冷静になるよう努めた。が、その美少年はそんな私の意志など尊重せずに、向き直った私の眼前に位置を変えた。

「無視しないで下さいよ」

 無視する気は更々無い。どっちかと言えば、夢であって欲しいと思ってる程だ。

 少年はテーブルの向こう側で、さっきと同じようにちょこんと正座している。私はジッと目を懲らしてみたが、やはり現実に『彼』が見えていた。


 ――心臓が喉から飛び出しそうって感じは、きっと今だ。


 そして、心底驚いた時は、本当に言葉が出ない。悲鳴さえも……。私の口はきっと、フナかコイかって位に、ぱくぱくと口を開閉してるに違いないと思った。

「あのぅ、志保さん?」

 少年は小首を傾げ、私を見つめる。えっと、たぶん彼は幽霊か、またはそれに準ずる何かだ。普通なら、絶叫して助けを求めて、そんでもって……えっと、そう、逃げ出すんだろうけど。その風貌がそれを許さない。次第に落ち着き始めてさえいる。

 何故? それは、彼が美少年だから。ああ、何て単純な私。ああ、美しさは罪だ。

「あの、志保さん?」

 彼が再度私の名を呼んだ。私は咳払いを一つし、

「えっと、アンタ誰?」

「やっと反応してもらえた」

「仕方なくよ。仕方なく」

 私の言葉に、少年は少し苦笑いを浮かべた。そこも、可愛い。

「えっと、僕は見ての通り幽霊なんですが」

「そのようね」

「驚かないんですね」

「十二分に驚いたわよ」

 人生初体験よ、こんな事。幽霊も美少年も――出来れば、生きてる時に会いたかったわ。

「で、早速なんですが」

 ちょっと待て、何だその『早速』という始まり方は、普通自己紹介が先でしょ? それに何でか知らないけど、私の事は知ってる風だし。そして、私はアンタを知らない……もしかして、ストーカーって奴? そうか、私ってば、知らないうちに美少年幽霊にストーキングされてたんだわ。初めてのストーカーが幽霊って――複雑。

 私はその少年を指さし言った。

「だから、アンタ誰よ」

 一瞬、きょとんとした少年は、次に「ああ」という瞳の輝きを放ち、全てを理解した感じで、

「僕はぴゅう太(仮)と言います」

「何よその、八十年代に登場した日本語でベーシックが書けるという、珍ピューターみたいな名前は」

「おや、お若いのによくご存知で」

 そう言うアンタも十分若く見えるけど、それとも見かけは十代でホントはおっさんとか? いやぁ〜っ、それだけは許して。私の夢を壊さないで。

「変な名ね。それに何よその(仮)って」

「え? その、本名は明かせない規則になってまして」

 ぴゅう太は金髪を右手で触りながら、申し訳なさそうに笑った。幽霊でも可愛い。

「で、何しに出てきたわけ?」

「そうそう、それなんですが」

 正座を崩す事無く、ぴゅう太の目が真剣モードに切り替わった。ああ、こんな瞳に見詰められて告白されたら、即、OKって親指立てちゃうんだけどなぁ。

「実は志保さんにお願いと言うか、協力をして欲しくて」

「お願い?」

「そう、僕の為に幽霊退治をしてくれませんか?」

「はぁ?」

 確かに私は格闘技が大好きだし、身体も鍛えてる。そんなんだから、未だに恋人も出来ない――って、そんなのほっといてよ。で、今では敬愛するアンディの踵落としも習得した。霊感もそれなりにあるし、まぁ、だから彼も見えてる訳なんで。

 でも、そんな私に幽霊退治ですって? ああ、ずぇ〜ったい無理。

「あ、退治と言っても正確には浄化というか浄霊なんですが」

「無理」

「え?」

「残念だけど、他あたって」

 これは苦渋の決断と言ってもいいわ。美少年と幽霊退治。幽霊だけならまだ許せたんだけど。

「そんなぁ、志保さんにしか出来ないんですよ」

 ぴゅう太は、フッと中空に浮くと、テーブルを素通りして私の目前で止まり、両手を会わせて懇願する。

 お願い、そんな目で私を見ないで。決意が乱れるわ。

「何も私じゃなくても、出来る人沢山いるでしょ?」

「そりゃ霊力の強い人はそれなりにいるのですが……」

「じゃぁ、そっちでもいいじゃない」

「でも、必要なのは霊力だけじゃないんですよ」

「はい?」

「相手を倒す力も必要なんです」

「力って、まさか物理的な……」

「御名答、流石、志保さん冴えてますね」

 左の人差し指を立て、また笑うぴゅう太。

 えっと、その話を総合すると。私が彼に協力して、身体を張って、持ってる霊力を使い、幽霊退治をする――と。

「やっぱ、無理」

「え〜っ」

「大体、そんな事出来るわけないじゃない」

「出来ますよ」

「出来ない」

「大丈夫ですって」

「絶対に無理」

「じゃあ試しにやってみます?」

「はい?」

 試しにやるって? 何を? 幽霊退治を? 幾ら私好みの美少年だからって、度が過ぎるわよ。

 そんな事を考えてる私を余所に、ぴゅう太はテーブルの上に移動した。やはり正座はそのままに、一見外人に見えてしまう彼が正座してる姿は、少し違和感がある。ま、幽霊だからテーブルは壊れないからいいけど。そして、ぴゅう太は自分の膝の上で両手をかざし始めた。すると、その手はボワッとした白い光に包まれ、何かの形を成してきた。

 猫だ。それもちょっと小さい。子猫?

 ぴゅう太がその子猫の頭を、愛おしそうに撫でると目を伏せた。

「可愛いわね」

「この子は、先月交通事故で轢かれてしまって……」

「あ、ごめん」

「いいえ、いいんです。それより、志保さんの力で、この子を空に帰してもらえませんか?」

「え?」

「言ったじゃないですか。貴女にはその力があるって」

 ニッコリ微笑むぴゅう太。可愛い……じゃなくて。空に帰す? 私が? あはは、ご冗談を、と思いながら彼を見る。

 子猫を抱いたまま、ジッと私を見ていた。

 取り敢えず笑っとく?

「あははは」



つづく


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