表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
失明剣士の恋は盲目  作者: violet
世界救済編
45/58

WOLFのリーダー

 珍しく月が映える夜だった。街の明かりはすっかり消えていた。高層ビルの屋上を照らす明かりは、その月の明かりのみだった。その屋上を、一人が駆け抜けていった。そして、後から三人がその一人を追いかけていった。


「あー、糞が! 面倒くせぇな!」


 先頭を走り、追われている男が言った。無精髭が汚ならしくて、よれよれのスーツは臭そうだった。


 男は屋上の端辺りまで来ると、思い切りジャンプした。すると男は落下防止用フェンスを優に越えて、ビルとビルのちょうど間辺りで落下し始めた。そして足先から急に水面の波紋のような現象が発生したかと思えば、男はそれを足場に再度ジャンプし、向こう側のビルに移った。


――こちらディミー、ターゲットを所定の場所まで誘導した。

――良し、作戦開始だ。


 追っての三人はフェンス前まで来ると、構えた。


「ああ? なんで追ってこねぇ……」


 男は丁度屋上の真ん中辺りで立ち止まった。


――今だ。


 合図された瞬間、男がいる高層ビルが一瞬で消えた。まるでスイッチのオンオフで切り替わったかのように一瞬だった。


「はぁあ!? まさかビルそのものがホログラムだったってのか!?」


 落下中の男は辺りを見渡した。文字通り四方八方に高層ビルが並んでいて、追っ手はその屋上に数人ずつ配置されていた。


――撃て!


 射撃の合図。全方向から、超強力な銃弾が猛スピードで迫ってくる。銃弾は、男が張った幾層の水の膜を何度も貫いて、その度に勢いが損なわれる。


 やがて男に発砲された銃弾は、男に届くことなく落下していった。


「水の抵抗力、なめんなよ」


 例えば、水面に向かって発砲した場合。ハンドガンとライフルでは、ハンドガンの方が進む距離が稼げる。理由は銃弾の速度だ。速度が速ければ速い程、水面に衝突した際の水の抵抗力が増える。ライフルの場合、水に衝突した際の水の硬度はコンクリート並みになるという。弾丸がコンクリートに衝突すれば弾丸は摩耗し、威力も劇的に落ちる。


 男は先ほどと同じ要領で足元に水を張って、それを足場に近くのビルへ向かって飛んだ。


「なんだ? 誰かいるのか」


 男は飛び移る予定のビルの窓ガラスに人影を見た。


「ちぃっ!」


 その人影は銃を構えていた。


「よう、佐藤。久しぶりじゃねえか」


 銃を構えている人物が言った。その男はつり目で、金髪だった。


「誰かと思えば、あの時の小僧じゃねえか」


 佐藤が言った。


「余裕だな。てめえの対処方は、10年前に提示されているってのによぉ!」


 金髪の男は言う。


「あん? 対処法だぁ? まさかその構えたハンドガンが、対処法だってのか」


 そして、佐藤は高笑いした。


「ばぁーかぁ! 俺に銃弾が効かねえことくらい、いい加減わかれっつーの!」


 佐藤の言葉に、金髪の男はにやりと笑う。


「馬鹿はてめえだ馬鹿。てめえの弱点は火だよ。あいつが言ってただろうが」


 金髪の男は、不気味に笑った。その眼差しには月が映っていた。


「銃弾を意識しろってな!」


 そして金髪の男は引き金を引いた。ハンドガンらしい軽快な炸裂音が響いて、火の弾丸が発射される。ただの火の弾丸ではない。金髪の男の魔力が集中された、超高熱の弾丸である。しかし、威力もスピードも無い。


 火の弾丸が水の膜に衝突する。その直前で水の膜は熱で蒸発した。弾丸は水の膜に触れていない為、勢いが落ちずに突き進む。


 やがて全ての水の膜を破って、弾丸が佐藤に肉薄した。佐藤は弾丸の勢いが落ちていないことに気付いておらず、半ばルーチンワーク的に魔法陣を展開した。


 ぱりん、とガラスが割れる音を響かせながら魔法陣が壊れた。そして、その弾丸は佐藤の腹部を貫いた。


「がはぁ!」


 そんな悶えた声をあげながら、佐藤はビルの窓ガラスを突き破って、ガラス片と共に金髪の男の足元に転がった。


「な? 馬鹿はてめえだっただろう」


 金髪の男は佐藤を拘束した。


――ターゲットを取り押さえた。各自撤収。草薙は俺と合流。以上。


 金髪の男は短く報告を済ませると、佐藤を容態を見た。佐藤は銃弾が貫通した腹部を両手で押さえ、もだえ苦しんでいた。佐藤が押さえている傷口から血が滴り落ちていた。


「手が塞がって丁度良いな。そのまま自分で止血しておけ。これなら、また脱走はできねえだろう」

「て、てめえ……」

「てめえじゃねえよ」


 金髪の男は言った。


「俺は荒木涼。WOLFのリーダーだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ