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失明剣士の恋は盲目  作者: violet
二十一世紀の再来編
35/58

二人の時間

 目覚ましのけたたましい音が鳴り響く。涼は目を開ける。無機質で真っ白な男子寮の天井。その天井に今日の日時と天気、気温、湿度などが表示された。今日の天気は晴れ。年明けにしては気温が高かった。


 涼は洗面所で鏡を見た。あの特徴的な金髪は見る影もなく、彼の髪は真っ黒だった。じっと鏡に映る自分を見つめる。つり目は相変わらずだ。


 涼は気怠そうに歯を磨く。磨き終わったら、テーブル一体型料理機のモニターを立ち上げた。


 おせち料理を選択した。するとテーブルに魔法陣が浮かびあがり、選択した料理が出現した。


「頂きます」


 涼はその料理を平らげると、寝巻きから運動用の服装に着替えた。身体強化がある現代、もはや健康面でしか身体を鍛える意味がない。しかし涼は単衣が毎朝走っていると聞いて以来、同じように彼もランニングから始めたのだった。


「行ってきます」


 誰に言うでもなく、ただ呟くように言って涼は部屋を出た。





 公園までの歩道はレンガのデザインが施されていた。縁石には木が植えてある。この辺りは高い建物は少なくて見晴らしも良い。もう少し遠くに行けば海も見える。涼は走りながら、ただぼんやりとその景色を眺めた。


 公園が見えてきた。その奥の方に女子寮が見える。その女子寮の方から一人の女性が公園に向かって歩いていた。あの女性を涼は知っていた。


 その女性は友里だった。友里も涼に気付いた。友里は嬉しそうに涼のもとへ駆け寄る。涼はそんな友里を見た。


 黒くて長い髪の毛がシュシュで一つにまとめられ、それが左肩に掛けられていた。学園での友里の普段通りの髪型だった。服装はベージュのコートにジーパン。恐らく散歩をしている最中だろう。かたん、かたんと暖かそうなブーツを履いていた。


「明けましておめでとう、涼」

「ああ、おめでとう。今年もよろしく」


 二人は通例の挨拶を交わすと、微笑みあった。


「なんか涼、こうしているとただの真面目な人だね」


 黒髪をだらりと垂らして、早朝ランニングをし、礼儀正しく挨拶をする。涼は意外と真面目な性格だった。


「よせよ」


 涼にしては珍しい、恥ずかしがった顔。


「そんな恥ずかしがらなくても良いのに」


 にやにやと友里は笑った。友里の前では特に珍しいことではなかった。


 二人は近くの公園のベンチに腰掛けた。誰もいなくて、話すにはちょうど良い。


「冷えるな」


 涼が言った。ランニングの為、厚着をしてこなかったから尚更だった。


「うん」


 友里が短く言った。いつもより日差しが強いものの、真冬の寒さは相変わらずだった。


「今日だよね」

「ああ」


 いつも会話はこのように短かった。


「全部、洗いざらい聞いてくる」


 涼は言った。


「うん」


 と友里。ひゅうと風が吹き抜けた。


「うぅ寒い。やっぱこの格好じゃ走ってないと駄目だ」


 涼はそう言って立ち上がった。


「涼!」


 友里が慌てて呼び止める。


「落ち着いたらさ、言いたいことがあるんだ」


 そう言う友里は、とても深刻な表情をしていた。


「今じゃ駄目なのか?」

「今は余計なこと考えたくないでしょう?」


 涼はまあな、と答えた。


「急ぎじゃないなら、それが良い」

「うん、急ぎじゃない」


 友里はそう言って笑った。


「じゃあ行ってくる」

「うん」


 涼は走って公園を去っていった。


「はあ〜」


 友里は大きくため息を吐いて、ベンチにうな垂れた。


「落ち着いたらって、いつ落ち着くのよ」


 友里のぼやきは、白い息となって空に溶けた。


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