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特殊精鋭部隊リーダーの高校生VRMMOで最強に  作者: 暁 龍弥
3章

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76/82

「静かな昼と、名前が落とす影」

影の使いとの戦いから一夜。

家は静かだった。


まるで昨日の騒動が嘘のように、

陽射しは穏やかで、

リビングの空気はあたたかかった。


アリアはホットミルクを飲みながら、

昨日のことを思い返してため息をついた。


「……妾、まだ心臓が変な感じなのじゃ」


セレナはテーブルで紅茶を飲み、

静かに頷く。


「私も。

“兄さんの名前の一部”が聞こえたからだと思う」


リオナはトーストを頬張りながら元気よく言う。


「私はもう完全に元気ですよ!

だって先輩の声聞いちゃいましたし!!」


アリアは頬を膨らませて言う。


「妾だって聞いておるのじゃ!

“く、お……り……”って……」


その言い方が妙に恥ずかしくて、

三人の頬が同時に赤くなる。


影クオリアは、

ソファのそばで穏やかに揺れていた。


昨日より影が濃い。

存在感が増している。


ホワイトボードに文字が浮かぶ。


《負担はない》


《昨日よりも 体が安定している》


アリアが影に近づく。


「兄者……もしかして……」


セレナがその続きを言った。


「“名前を取り戻す”ことが

身体の形を戻す助けになってる?」


リオナは目を輝かせた。


「じゃあ!

もっと名前を呼ぶ練習しましょう!!」


影クオリアの揺れが急に大きくなる。


《待て 落ち着け》


しかし、三人は止まらない。


 


◆ 名前を呼ぶ練習(甘い時間)


アリアがクッションを抱きしめながら言う。


「兄者、昨日の“く”……

すごく綺麗な声だったのじゃ」


セレナは手を胸に当てて笑う。


「“お”も優しかった。

名前の中で一番柔らかい音かもしれない」


リオナは勢いよく手を挙げる。


「“り”!!

あれは絶対私に向けたやつですよね!? ね!?

ねっ!?」


影クオリアはホワイトボードに文字を書いた。


《違う》


《練習しただけだ》


アリアがにやり。


「照れておるのじゃ?」


《照れてない》


セレナがくすっと笑う。


「照れてる声の揺れだよ?」


《揺れてない》


リオナはニコニコで覗き込む。


「じゃあもう一回“り”言ってください!!」


影クオリアが一瞬固まり、

床に落ちる影がわずかに伸びた。


その時――


――く……お……り……


三人が同時に固まった。


アリアは頬を押さえて震えた。


「……全体……!

今、名前の全体の形が……!」


セレナは胸に強く手を当てる。


「まだはっきりじゃないけど……

確かに“クオリア”って……」


リオナは涙ぐむ。


「先輩……名前……!!」


影クオリアは、

ぐらりと揺れて壁に影を落とした。


ホワイトボードに震える文字。


《たまたまだ》


アリアが即座に否定する。


「偶然で名前の順番になるはずないのじゃ!」


セレナも続ける。


「意識してる。

私たちに名前を呼んでほしくて……

返そうとしてるんだよ」


リオナはもう泣き笑いで言う。


「名前で呼び合える日、近いですよね……!!」


影クオリアの揺れが、

なんとも言えない“照れと困惑”の波形になった。


《……努力はする》


 


◆ 平和だった“はず”の昼下がり


午後。

三人は宿題を片付け、

ソファでまったり過ごしていた。


アリアはアプリゲームをしながら眉をしかめる。


「兄者、妾のこのゲームのガチャ運も

底上げできんかの?」


セレナは微笑む。


「影の王にガチャ運押し付けるのは違うでしょ」


リオナは楽しそうに作業していた。


「私、先輩の声の記録ノート作りました!!

今まで出た音ぜーんぶメモしてます!!」


アリアとセレナが同時に叫ぶ。


「やりすぎなのじゃ!!」「重いってば!!」


影クオリアはまた揺れながら文字。


《記録はするな》


リオナは満面の笑み。


「はい、毎日更新します!!」


《やめろ》


そんな、

本当に平和なやり取りをしていた。


――その時までは。


 


◆ “異変”は音もなく忍び寄る


窓の外を、

鳥が飛んでいく。


その“影”が――

違った。


鳥の影が、

空に向かって“逆流”したのだ。


アリアが息を呑む。


「……今の……!」


セレナは空気の流れを読む。


「影が……上に……?」


リオナは立ち上がって窓辺に近づく。


「先輩……これって……」


影クオリアが、大きく揺れ、

ホワイトボードに勢いよく文字を書く。


《隠れろ》


《来る》


アリアが即座に三人を動かす。


「机の下に入るのじゃ!!」


セレナは息を殺す。


「まだ……敵の感情が読めない……!

気配がなさすぎる……!」


リオナは震えるように呟いた。


「これ……影の使いより……もっと……」


窓が一瞬だけ“曲がった”。


ガラスの形が、

影の手で押されたようにへこんだのだ。


影クオリアは玄関側を向き――

震える声を絞り出した。


――ま、ず……


三人が名前を呼ばれたのかと思った瞬間。


影クオリアの影が、

まるで獣のように広がった。


ホワイトボードに叩きつけるような文字。


《まずい》


《“王を連れ戻す使者”じゃない》


《あれは――》


――その瞬間。


天井に落ちる三人の影が、

ゆっくりと“歪んだ”。


アリアの影が二つに割れ、

セレナの影が伸び、

リオナの影が震える。


影が、

三人の名前を“真似しようとしている”。


――あ

――せ

――り 


アリアが青ざめる。


「……兄者……!!

これ、妾たちの“影を奪う”つもりなのじゃ!!」


セレナの声が震える。


「でも……どうして……名前……?」


リオナは涙をこらえながら叫ぶ。


「先輩!!

助けて……!!」


影クオリアが大きく揺れ、

声にならない叫びを上げようと――


その時。


影クオリアの影そのものが、

突然“名前”を放った。


――ク、オ……


音としては不完全。

しかし、

その音には強烈な意思が乗っていた。


三人は気づいた。


名前には――

“影を縛る力”がある。


影が三人の名前を奪おうとした瞬間、

クオリアが自分の“真名”を使って止めたのだ。


だがそのせいで――

影クオリアの形が大きく崩れる。


床に落ちる影が、

泥のように流れ始めた。


アリアが叫ぶ。


「兄者!!」


セレナの声が裏返る。


「ダメ!! 名前を使うのは負担が大きい!!」


リオナは涙をこぼしながら影に触れようと手を伸ばす。


「先輩!! 戻って!!」


影クオリアは、

揺れながら最後の一行を書いた。


《“名前”は武器であり 呪いだ》


《あと一度 大きく使えば》


《俺は――》


そこでペンが止まる。


影が完全に崩れる寸前、

声がひとつこぼれた。


――くお……


三人は、その意味に気づいてしまった。


(もし名前を言い切ってしまったら――

兄者は自分を“影城”に縛り付ける可能性がある……)


影に名前は、

影の王の“真名”は。


ただの呼び名ではない。

命令権、存在規定、世界の結び目。


アリアの喉が震えた。


「兄者……名前……言うのじゃない……

まだ……まだなのじゃ……!」


セレナは影を抱くように床に膝をつく。


「声は……嬉しい……

でも……全部はまだ……!」


リオナは泣きながら叫ぶ。


「先輩!!

戻ってきてください!!

名前が呪いになるなんて嫌です!!」


影クオリアは、

まるで意識を保つように揺れ――


ホワイトボードに

たったひとつの文字だけ残した。


《ま》


それは“誰の頭文字”でもなく――

“名前の始まり”でもなく――


「まだ」という意味の

影クオリアなりの返答だった。


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