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特殊精鋭部隊リーダーの高校生VRMMOで最強に  作者: 暁 龍弥
3章

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69/82

「もう一歩だけ、隣に近づくための訓練」

B&Eからの帰還から、一日あけた朝。


リビングの空気は、不思議な静けさと熱っぽさを同時に孕んでいた。


ゲーム世界で“王の奪還”を告げた黒い影。

それを振り払った、現実側からのクオリアの干渉。


三人の胸はまだ、ほんのり痛い。

怖さと同じくらい、嬉しさが残っていた。


テーブルの前で揺れる影クオリアは、

ホワイトボードに短く書く。


《訓練を再開する》


その一行に、

三人は同時に顔を上げた。


「兄者……」


「クオリア兄さん……」


「先輩……!」


影は続ける。


《戦うと決めたのは俺だ》

《でも お前たちも一緒に戦うと言った》

《なら 俺はその覚悟を本物にする》


文字の線は、いつもより濃かった。


 


◆ 訓練メニューの提示


ホワイトボードに次々と項目が書き込まれていく。


《アリア:感覚強化の応用》

《セレナ:感情共鳴の制御》

《リオナ:影耐性と“限界ライン”の把握》


そして、最後に一行。


《三人全員:連携》


読み終えた瞬間、

三人の胸に同じ答えが浮かんだ。


(兄者と――

クオリア兄さんと――

先輩と、

本当に“並んで戦うための訓練”だ)


自然と背筋が伸びる。


「やるのじゃ」


「お願い、教えて」


「全部、受け止めます」


影の揺れがわずかに柔らかくなり、

それから、いつものようにテーブルから離れた場所へ回り込む。


訓練場所は、またあの公園だった。


 


◆ アリア:感覚強化の応用


昼下がりの公園。

風が木々を揺らし、葉っぱがさらさらと音を立てる。


広場の真ん中に、アリアが立つ。

目を閉じ、耳と肌の感覚を最大限に研ぎ澄ませる。


影クオリアは地面に薄く伸び、

その周囲をぐるりと囲むように広がった。


ホワイトボードにはこう書かれている。


《今から 俺が影で“歩くふり”をする》


《音も足音もない だが 気配はある》


《どこにいるか 当ててみろ》


アリアは深呼吸をした。


「……気配、なのじゃな」


目を閉じる。

世界から“視界”を切り離す。


聞こえるのは、風の音、鳥の鳴き声、遠くの車の音。

その中に――

わずかに違う“冷たい空気の流れ”が紛れ込んでいる。


胸の奥で、心臓が跳ねた。


(兄者だ)


足元から伝わる感覚。

影が、空気をわずかに圧している。


「……右後ろ、三メートルなのじゃ」


言葉と同時に、

右後ろを振り返る。


そこには、

濃くなった影の一部があった。


セレナが小さく歓声を上げる。


「当たってる」


リオナも目を丸くして言う。


「ほぼ正確じゃないですか!?」


影クオリアはホワイトボードに短く書いた。


《正解》


アリアの表情がぱっと明るくなる。


「兄者の気配なら、

いくらでもわかるのじゃ!」


影が揺れる。

誇らしさと照れくささがにじむ軌道。


しかし次の瞬間、ホワイトボードに新たな文字。


《次は“敵”の気配も混ぜる》


アリアの喉が小さく鳴る。


影の一部が分裂し、

アリアの周囲を取り囲む。


兄の気配。

冷たい敵の気配。

似ているようで、まったく違う。


一つは、

胸の奥を温かくするもの。


もう一つは、

背筋を凍らせるもの。


「……この違いを、

妾は覚えるべきなのじゃな」


自分に言い聞かせるように呟き、

アリアは何度も何度も影を指差した。


「これが兄者で……これは違う。

これは、違う……これは――兄者」


正解するたびに、

影クオリアの輪郭が柔らかく揺れた。


 


◆ セレナ:感情の“ノイズカット”


少し離れたベンチでは、

セレナが一人で目を閉じていた。


隣には影クオリアの小さな分身のような影。

足元には、静かに揺れる大きな影。


セレナの役目は、

“感情共鳴”の精度を高めること。


今のままでは、

感情が混線したときに混乱してしまう。


セレナは、自分の胸に手を当てる。


静かな湖面のような心。

そこへ、意思を持った波が流れ込んでくるイメージ。


「兄さんの不安、焦り、喜び……

昨日までは全部一度に押し寄せてきた」


だからこそ、

危険だった。


共鳴しすぎて、巻き込まれてしまう可能性。


「でも、選べるようにならなきゃ」


影クオリアはホワイトボードに書く。


《今から お前の名前を呼ぶ》


《嬉しさだけ 受け取れ》


セレナの胸が静かに震えた。


音声は届かない。

けれど、

確かに“呼ばれている”感覚だけが心に触れる。


愛しさ。

大切に思う感情。

近くにいてほしい願い。


(……嬉しい)


涙がにじみそうになる。


それと同時に、

影の奥から別の感情も流れてくる。


怖さ。

後悔。

守れなかった過去の痛み。


「……はい、ここで“切る”」


胸に手を当てたまま、

自分で線を引く。


「嬉しい感情だけを残して、

それ以外はいったん脇に置く」


難しいことを

さらりと言った。


実際は、

簡単ではない。


胸がきゅっと絞られるような痛みを、

自分でそっと横に避けながら――

温かい部分だけを両手で包み込む。


「兄さんの、

“そばにいてくれてありがとう”って感情だけ」


静かに吐き出した呼吸は、

ほんの少し震えていた。


影クオリアの文字が、

ベンチの横に浮かぶ。


《成功だ》


《全部受け取ろうとするな》


《嬉しさだけを受け取ってくれたほうが 俺も楽になる》


セレナは目を開け、

少しだけ照れたように微笑んだ。


「……じゃあ、これからも、

嬉しい感情だけたくさんください」


影が大きく揺れた。

たぶん、照れている。


 


◆ リオナ:限界ラインの確認


公園の隅、

日陰になったスペースで

リオナは影クオリアと向かい合っていた。


足元の影が、いつもより濃い。


「限界まで近づいたら、

ちゃんと言いますから!」


それは危険な宣言でもあり、

絶大な信頼の表明でもあった。


影クオリアはホワイトボードに書く。


《今回は 距離を測る》


《どこまで近づいても平気か》

《どこから先が本当に危ないか》


リオナはうなずき、

真剣な目で影を見る。


一歩、

また一歩。


心臓の鼓動は早い。

背筋に冷たい感覚はある。


けれど――

あの日より、ずっと怖くない。


(先輩が俺たちの世界を“選んでくれた”って、

知ってるから)


胸の中で、

何度もその事実を反芻する。


一歩。

また一歩――


伸ばせば触れられる距離。


「…………ここ」


声は少し震えていたが、

足は止まってくれた。


影クオリアの揺れが大きくなる。


ホワイトボードに文字。


《そこから先は 俺も危ない》


《触れたいって思いすぎて 抑えられなくなる》


リオナは笑った。

泣きそうな、でも嬉しそうな笑顔で。


「じゃあ、ここまでにします。

“触れたい”って思ってくれてるってわかったから」


一歩だけ、下がる。


「先輩が暴走しない距離まで」


その言い方は、

まるで一緒に“ブレーキを踏んでいる”ようだった。


影クオリアの文字が揺れる。


《助かる》


《限界を知ってくれているなら 安心できる》


それを見て、リオナは

胸の前で手をぎゅっと握った。


(この距離、

いつか“越えてもいい”って言ってくれる日が来るように)


心の中で、ひとり誓った。


 


◆ 三人の連携


個別訓練が一段落した後――

影クオリアは、ホワイトボードに大きく書いた。


《最後に 連携訓練をする》


三人は広場の真ん中に集められる。


影が、地面一面に広がる。

その中に、

明らかに“冷たい影”が紛れ込んだ。


《俺だと思ってしまう影》

《敵だとわかる影》

《まぎらわしい影》


影クオリアは、

自分の力をあえて“敵役”に使ってみせた。


三人は背中合わせに立ち、

互いの存在を感じながら周囲を見渡す。


風の音。

鳥の声。

草の揺れる音。

影のざわめき。


誰かが小さくつぶやく。


「怖い……?」


別の声が答える。


「怖いよ。

でも、一人じゃない」


最後の声が笑う。


「先輩もいる。

最強の味方つきですから!」


アリアの感覚が、

一つの影を指し示す。


「こっちは兄者、こっちは……敵なのじゃ!」


セレナの胸に流れ込む感情が、

温度で敵を弾き出す。


「こっちの気配は冷たい。

兄さんの“優しい”感じがまったくない」


リオナが影から一歩前に出る。


「じゃあ、これは――消していい影ですね!」


地面を踏み、

その上に飛び乗るイメージで足を叩く。


影は一瞬だけ揺れ、

そしてふっと霧散する。


影クオリアの文字が浮かぶ。


《連携成功》


《三人だから 消せた》


アリアは汗を拭いた。


「一人では無理だったのじゃ……

みんながいたから出来たのじゃ」


セレナは胸に手を当てた。


「感情が混ざっても、

三人で分け合えば怖くない」


リオナは元気よく両手をあげた。


「連携大勝利です!!

これなら先輩の隣に立てそうです!」


影クオリアは、

誇りと不安と愛しさを混ぜたように揺れた。


ホワイトボードには、

たった一行だけ。


《ありがとう》


 


夕日が公園をオレンジ色に染めていく。


三人の影と、

その足元に寄り添う影は

一本の線のように伸びていた。


「兄者の隣に……

少しだけ近づけた気がするのじゃ」


「まだ全然完璧じゃないけど……

一緒に歩いていける」


「もっと強くなります。

先輩と一緒に、未来を見られるように」


影クオリアは、

その言葉すべてに

静かに揺れて応えた。


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