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特殊精鋭部隊リーダーの高校生VRMMOで最強に  作者: 暁 龍弥
3章

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66/82

「隣に立つための、はじめての訓練」

能力の兆候が現れた翌日。


朝のリビングは、

妙な緊張感と、妙なワクワクに包まれていた。


テーブルの前には、いつものように影のクオリア。

向かい合うように、アリアとセレナとリオナが並んで座る。


沈黙を破ったのは、

一番落ち着きがなさそうで、一番嬉しそうな声だった。


「……訓練、するのじゃろ?」


その言葉に、

二人も大きくうなずく。


「このまま放っておいたら、

能力が暴走するかもしれないもんね」


「せっかく力があるのに、

使い方わからなかったらもったいないですしね!」


影クオリアは、

静かにホワイトボードへ文字を書く。


《本気でやるなら 止めない》


一拍おいて、文字が増える。


《ただし 条件がある》


三人の背筋が伸びた。


「……条件?」


「なんでも言って。

兄さんのほうが経験豊富なんだから」


「先輩に言われたことならだいたい全部飲み込みます!!」


影クオリアは、

ゆっくりと条件を書いていく。


《無茶をしない》

《自分の限界を無視しない》

《一人で抱え込まない》

《俺に黙って危ないことをしない》


アリアは苦笑する。


「最後に全部集約されておる気がするのじゃ……」


セレナはふっと笑う。


「“内緒で突っ走らないでほしい”ってことだね」


リオナは少し恥ずかしそうに笑った。


「それ、私に対する警告多めじゃないですか……?」


ホワイトボードに、

さらに一行。


《そして 俺の隣で生きるために使うこと》


《誰かを傷つけるためにじゃなく 守るために》


しばらく誰も喋らなかった。

三人は、ただその文字を見つめた。


「……守るため、なのじゃな」


「うん。それなら、私も怖くない」


「先輩の隣に立つための力なら、全部嬉しいです」


影クオリアは小さく揺れ、

その答えを受け入れた。


 


◆ 第一段階:自分の変化を知る


訓練の場は、

近所の小さな公園になった。


人が少なく、

木々が程よく風を遮ってくれる場所。


遊具とベンチ、

小さな広場。


何度も遊びに来た場所なのに――

今日は、少し違う。


「兄者の視点で見ると……

ただの公園も“戦場の地形”になるのじゃな」


アリアが、

小さく笑いながら周囲を見渡す。


セレナは

砂の上に膝をつき、指で線を描く。


「ここが開けていて、

あそこは死角で、

ベンチの裏は隠れやすい」


リオナは腕を組み、

やけに真面目な表情で頷いた。


「最初にフィールド理解、大事ですね。

ゲームでもマップ把握が勝敗を分けますから!」


足元で、

影クオリアが三人の影に寄り添うように揺れていた。


声はない。

けれど、見守っている気配ははっきり感じる。


「じゃあ、まずは妾から行くのじゃ!」


アリアが一歩前に出た。


「妾の能力は“感覚強化”じゃろ?

反応速度とか、音の聞き分けとか、そういうやつなのじゃ」


セレナはベンチの端に座り、

ノートを広げた。


「観察と記録は任せて」


リオナは砂場から小さな石を集めてきた。


「では、アリアの兄者への愛(=反応速度)を検証してみましょう!」


「何その例え方なのじゃ」


文句を言いつつも、

表情は楽しそうだった。


セレナが提案したのは

単純で、しかし効果的な方法だった。


「この石を、ランダムなタイミング・方向で投げる。

アリアは、それを全部キャッチできるか試してみよう」


「なるほどなのじゃ!」


「ただし、

“石を見てから動く”んじゃなくて、

空気や気配で予測して動くこと」


セレナの説明に、

アリアは真剣な表情になる。


リオナがニヤリと笑った。


「それでは――第一投、いきます!」


 


最初の数投は、

普通の反射神経でどうにか間に合うレベル。


アリアは構え直しながら息を整える。


「ふぅ……まだ普通に“見てから”なのじゃ……」


しかし投げる角度、タイミングが不規則になるにつれ、

アリアの動きが変わった。


風の流れが変わる。

小さな砂の跳ねる音。

空気の動き――


それまで「聞いていなかったもの」に、

耳と体が自然と反応し始めた。


「……今の、見えてなかったのじゃ」


掴んだ石を見つめながら、

アリアはぽつりと呟いた。


セレナはノートに走り書きする。


「五投目以降、

目で追うんじゃなくて“来る前提で構えてた”」


リオナは感嘆の声を上げる。


「ほぼノールックキャッチでしたよ!?」


アリアは息を大きく吸って吐く。


「兄者が戦っておった時……

こういう“当たり前”をやっておったのかと思うと……

妾なんてまだまだじゃな」


足元で、影クオリアがそっと揺れた。


誇らしげにも、

少し切なげにも見える揺れ方だった。


 


◆ 第二段階:感情を読む


次に立ち上がったのはセレナだった。


「じゃあ次は、私かな」


「セレナの能力は“感情共鳴”なのじゃろ?

兄者の感情がわかるって、すごいのじゃ……」


「まだ、全部は読めないよ。

でも、方向だけならきっとわかるはず」


リオナが興味津々で近づく。


「何やります?

占いみたいに“今の先輩の気持ちは〜”ってやるんです?」


「それもやるけど、

まずは――自分たちの感情から」


セレナはアリアとリオナの手を

それぞれ片手ずつ握った。


「二人の鼓動、体温、

握ってる力、全部感じる」


「ドキドキの音がうるさいのじゃ……」


「私のは恋する乙女の鼓動ですからね?

標準装備です!」


セレナは小さく笑う。


目を閉じ、

二人の“気配”を深く吸い込む。


楽しい。

嬉しい。

少し怖い。

でも前を向きたい。


「……あぁ、これ、全部“兄さんがそばにいる時”の感情だ」


呟きながら、

セレナはそっと影の方向を向いた。


「クオリア兄さん」


名前を呼ぶ。


胸の奥に、

ほのかに冷たい痛みが走った。


寂しい。

不安。

それでも離れたくない。

守りたい。

もっと近づきたい。


「……兄さん、今ね」


セレナは目を開けずに言う。


「嬉しいけど、怖いって思ってる」


「妾たちが怪我をする未来を

想像してしまっているのじゃろ?」


「それでも、そばにいたいって思ってくれてる」


影クオリアは――

ぐらりと揺れた。


ホワイトボードに、

ただ一言。


《正解》


その文字を見て、

三人とも笑った。


「兄者の心の中、

丸分かりなのじゃな……」


「これからもっと正確にわかるようになるよ」


「先輩が一人で抱え込もうとしたら、

すぐ感情バレますね!」


「やめてくれ」と言いたげな揺れをしながらも、

影クオリアはその能力を否定しなかった。


 


◆ 第三段階:影への耐性


最後はリオナの番。


「じゃあ、私もやりますよ!」


彼女の能力は、

影への耐性。


理屈だけ聞けば一番シンプルだが、

一番危険でもあった。


「本当にやるのかの?」


「リオナ、無理しないでね」


「もちろん全力でいきますよ!!

ここでビビったら私じゃないですから!」


危なっかしい宣言だったが、

その目は冗談ではなかった。


影クオリアが、

少し躊躇したあとホワイトボードに書く。


《本当にやるなら 出力を固定する》


《恐怖感だけ与えて それ以上は絶対に踏み込まない》


リオナは大きく息を吸い、

影の前に立つ。


距離、約一メートル。


「前までは、この距離で限界だったんですよね」


足を一歩、前へ。


心臓が跳ねる。

背筋に冷たい何かが走る。


でも――


足は止まらない。


さらに一歩。


「……大丈夫。

怖いけど、足がすくまない」


アリアが固唾を呑んで見守る。


「リオナ、無理するなよ……?」


セレナはいつでも引き戻せるように、

彼女の背中の近くまでそっと寄る。


リオナは、

震える声で笑った。


「前は、ここまでで膝が笑ってたんですよね……

先輩が“影”なんだって、体が理解しすぎてたから」


もう一歩。


今度は、

伸ばせば届きそうな距離まで来た。


影はそこにいる。

世界の理から外れた存在。


本能は叫ぶ。

“近づくな”と。


それでも、

胸は別のことを叫んでいた。


“この人のそばにいたい”。


「……怖いです」


正直な声だった。


「でも、“先輩から離れるほうがもっと怖い”って

胸が言ってるんですよ」


影クオリアは、

強く揺れた。


ホワイトボードに浮かぶ文字は、

震えていた。


《もういい 戻れ》


命令というより、

願いに近かった。


リオナは素直に一歩下がり、

すぐさま後ろを振り返る。


アリアとセレナが

そこにいてくれるのを確認して、

ようやく息を吐いた。


「……大丈夫。

まだ余裕あります」


「強がりすぎるなよ……」


「本当に無理だったら、

私がすぐわかるから」


三人の間に、

少しだけ笑いが戻った。


影クオリアは、

最後に一つだけ文字を残す。


《ありがとう》


《もう少しで 本当に触れてしまいそうだった》


それは――

怖い、だけど

嬉しいと感じてしまいそうな、

危うい一行だった。


 


◆ 訓練の終わり、そして


夕暮れが近づく頃。

公園のベンチに三人が並んで座り、

足元にはクオリアの影が寄り添っていた。


「……疲れたのじゃ」


「でも、ちょっとだけ

自分の変化がわかった気がする」


「私たち、ちゃんと強くなってますよね」


影は小さく揺れ、

ゆっくりとホワイトボードへ文字を書く。


《十分すぎるくらい 成長してる》


《だけど まだ始まりにすぎない》


三人の胸が、

同時に高鳴った。


「兄者の隣に立つには、

まだまだなのじゃな」


「でも……一歩目を踏み出せた」


「怖くても、嬉しい一歩ですね」


影クオリアは、

三人の影を見つめるように揺れた。


いつか本当に触れられる日が来るのか。

その時、自分が何を選ぶのか。


まだわからない。


けれど――

同じ方向に歩き出した四つの影は、

確かに今日、少しだけ前に進んだ。


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