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特殊精鋭部隊リーダーの高校生VRMMOで最強に  作者: 暁 龍弥
3章

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「影から始まる、触れるための変化」

雨が降り始めた夜。

屋根に打ちつける雨音が、いつもより大きく聞こえる。


リビングの灯りは温かいのに、

窓の外は冷たい色をしていた。


三人はそれぞれ好きな場所に座り、

影のクオリアはテーブルの前で揺れていた。


静かな夜。

けれど胸の奥は落ち着かない。


不安でもなく、

恐怖でもなく、

予感――に近いもの。


先に言葉を落としたのは、

アリアだった。


「今日は……兄者、少し様子が違う気がするのじゃ」


続いてセレナ。


「クオリア兄さん、影の形……いつもより濃い」


最後にリオナ。


「先輩、なんか……今日、手が届きそうなくらい“近い”です」


三人の直感は、確かだった。


影クオリアはいつものように揺れているのに、

その輪郭だけが――

今夜だけは妙に“深く”感じられた。


すると、ホワイトボードに文字が浮かぶ。


《驚かないで聞いてほしい》


三人の喉が同時に鳴った。


《たぶん 俺の体が 少しずつ戻り始めてる》


空気が震えた。


静かだった部屋が、

一瞬だけ息を呑んだ音で満たされる。


アリアが先に反応した。


「兄者……!それは……!」


セレナは震える指を押さえながら問う。


「戻るって……影じゃなくて、“触れられる身体”に……?」


リオナは息を吸うのも忘れたまま見つめる。


「先輩……本当に……戻ってきてるんですか……?」


影クオリアは揺れ、

ホワイトボードにゆっくり書く。


《まだわからない》

《でも 体の感覚が少しだけある》


三人の心臓が跳ねた。

期待が一気に高まる。

触れたい、抱きしめたい――そんな感情が胸を締めつける。


けれど同時に、

影の字は揺れた。


《怖いんだ》


その一行は、

あまりにも正直で、苦しくて、弱かった。


《もし戻らなかったら期待を裏切ることになる》

《希望を持たせたくないのに 希望を持ってほしい自分もいる》


三人は気づいた。


クオリアは何よりも、

“三人を傷つけること”を恐れている。


アリアはゆっくり、

迷いなく言葉を返した。


「兄者、希望を持たせてくれていいのじゃ。

間違っていても、叶わなくても、

それでも妾は嬉しいのじゃ」


セレナも頷く。


「結果がどうであれ……

“戻りたい”って思ってくれているなら、

それだけで幸せ」


リオナは涙を浮かべ、笑って言う。


「失望なんかしません。

先輩が努力してくれる未来があるなら、

結果がどうでも全部好きです」


三人の声が重なった瞬間――

影クオリアの輪郭が揺らぎ、

まるで熱を帯びたように濃くなった。


まさか、と思った。


影の一部――

右手の形をした部分だけが、

わずかに“浮き上がった”。


地面から離れたわけではない。

影が影のまま“立体に近づいた”。


三人の息が止まる。


アリアが震える声で呟く。


「兄者……手が……」


セレナは胸を押さえながら見つめる。


「触れられそうな……そんな形になってる……」


リオナは泣き笑いしながら小さく声を漏らした。


「先輩の……手だ……」


影の手は、

震えながら三人に伸びかけ――

途中で止まった。


届きそうで、

届かない。


けれどそれは、

これまでで一番“触れたい”感情が形になった瞬間だった。


ホワイトボードに文字が浮かぶ。


《触れたいと思ってしまったら 引き返せなくなる》


アリアは首を振る。


「引き返す必要なんてないのじゃ」


セレナは優しく断言する。


「戻れなくなったら……そのときは一緒に進もう」


リオナは涙をこぼしながら笑った。


「触れられるようになったら、

一番最初に抱きしめさせてください。

そうじゃなきゃ嫌です」


影の手が、

かすかに揺れた。


触れたくて、

でも触れられなくて――

その距離の中で震えている。


《ありがとう》

《それでも まだ怖い》

《でも 触れたい》


矛盾した文字が重なる。


アリアは立ち上がり、

テーブルの向こうで影を見つめた。


「兄者、ゆっくりでいいのじゃ。

怖いままで進めばいい。

妾たちはどこにも行かぬから」


セレナが隣に座り、

同じように影を見つめる。


「戻ってきても、戻れなくても……

その過程を一緒に生きたい」


リオナも隣に並び、

涙を抑えず笑顔のまま言った。


「触れられる日が来ても来なくても、

全部愛します。

全部一緒に抱きしめます」


影の手は、

震えたまま――

ほんの一瞬だけ

三人の影と重なった。


触れたのか触れていないのか、

わからないほどの一瞬。


けれど三人は確信した。


(クオリアは戻ろうとしている)


道は長い。

確かな保証もまだない。


でも希望は――

今、確かにここにあった。


影のクオリアは、

ホワイトボードに最後の一行だけを、

ゆっくりと書いた。


《いつか 本当に触れられる日が来たら その時は俺から抱きしめたい》


三人は、声を震わせて笑った。


触れられないのに、

幸せで泣いてしまう夜だった。


 

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