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特殊精鋭部隊リーダーの高校生VRMMOで最強に  作者: 暁 龍弥
3章

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「好きだからこそ怖くなる」

その日も、いつもと同じように一日は始まった。


朝ごはんを食べて、

顔を洗って、

学校へ向かう準備をして――


けれど、

どこか心の奥のほうだけが、

ざわざわと落ち着かなかった。


 


アリアは鏡の前で髪を結びながら、

自分の表情をじっと見つめていた。


「……兄者、今日も見ておるんじゃろ?」


声に出してみる。

名前を呼べば、距離が縮まる。


「クオリア兄者」


そう呼ぶと、

足元の影が一瞬だけ揺れた。


ちゃんと、届いている。

ちゃんと、そばにいる。


それなのに――

胸の奥が、きゅっと締めつけられた。


(もし、この呼び方ができなくなる日が来たら……)


もし、この名前が

影の王としてのクオリアの存在を

壊してしまうなら。


もし、自分たちが

“負担”になってしまっていたら。


考えたくない想像が、

勝手に浮かんでくる。


アリアは小さく頭を振った。


「考えすぎなのじゃ……

兄者が“そばにいる”って言ってくれたのに……

信じられなくなったらダメなのじゃ……」


呟きながらも、

どこか不安は残ったままだった。


 


セレナは登校準備をしながら、

窓から差し込む光をぼんやりと見つめていた。


「クオリア兄さん……」


自然に名前が出た。


それだけで、

心が少し温かくなる。


でも同時に。


「……兄さんが、もし限界まで無理してたら、

私たち、気づけるのかな」


セレナは自分の手のひらを見下ろした。


掴めない。

何も。


兄の服の袖も、

手も、

温度も。


全部、“影”の向こう側になってしまった。


今、

それでも“そばにいる”と感じられているのは――

クオリアがこちらに寄り添ってくれているからだ。


(でも、その優しさに甘えすぎたら――

いつか、兄さんが壊れてしまうんじゃないか)


胸の奥に、うっすらとした怖さが広がる。


「兄さんが“怖い”って思う前に……

私たちが止まってあげないといけないのに」


そう思うと、

名前を呼ぶ声が、少しだけ震えた。


 


リオナはベッドの上に寝転び、

スマホの画面を見ながら大きくため息をついた。


「好きって言えば言うほど……

会いたくなるの、仕様バグすぎません?」


通知欄には、

クラスメイトの他愛ないチャット、

日常のどうでもいいスタンプ。


でも――


「先輩からの通知は、一生来ないんですよね」


自分で言って、

胸がちくりとした。


影になったクオリアは、

スマホを触らない。

LINEも、通話も、SNSも――

全部、手の届かない場所に置いてきた。


「好きって気持ちは、

どんどん“リアル”に増えてるのに……

先輩の存在だけ、ゲームの向こう側みたいで……」


ぎゅっと胸元のペンダントを握る。


「この距離のまま、

本当に“幸せになっていいのかな”……」


ぽつりとこぼれた不安は、

思っていたよりも重かった。


 


◆ 学校の廊下にて


昼休み。

廊下の窓から外を眺めていると、

なんでもない日常が広がっていた。


ふざけあうクラスメイトたち。

少し離れた場所で歩くカップル。

部活の準備をする姿。


アリアは、

それを見ながらぽつりと呟いた。


「いいのう……普通の“好き”って、ああいう感じなのじゃな」


並んで立つセレナも、

視線だけを窓の外に向けたまま答える。


「手をつないで、

一緒に歩いて、

喧嘩して、

仲直りして……」


リオナも同じ方向を見つめる。


「『好き』って言ったら、

『好き』って返してもらって――

当たり前のように触れられる距離」


三人の胸の中に、

同じ種類の痛みが残った。


「クオリア兄者とは……そうはいかんのじゃ」


アリアは無理に笑って見せる。


「妾たちの“好き”は、

なんか……難しいのじゃ」


セレナは、

握った手に力を込めた。


「でも……だからって諦める選択肢は、

最初からないんだよね」


リオナは頷く。


「諦めるぐらいなら、

怖くても“好き”でいるほうがマシです」


そう言い切れるほどに。

もう、簡単には戻れない場所まで

来てしまっていた。


 


◆ 影の側の「怖さ」


その頃、家。


人のいないリビングで、

影だけが揺れていた。


三人がいないときのクオリアは、

いつもより少しだけ“自分の本心”に近い。


ホワイトボードに、

ひとりで文字を書いては消していく。


《このままでいいのか》

《近づいてはいけない》

《でも離れたくない》


書いて、

消して、

また書く。


ふらふらと揺れながら、

自問自答を繰り返す。


(名前を呼ばれて、嬉しい)


それは紛れもない本音。


(そばに来てほしい。

声を聞きたい。

笑い声を感じたい)


それも本音。


でも。


《触れたいと思ってしまう自分が、一番怖い》


その一行を書いてしまった瞬間、

影がびくりと揺れた。


(触れたいと思ったら、その先を求めてしまう)


抱きしめたい。

頭を撫でたい。

手を繋ぎたい。


それを望めば望むほど――

自分が“影の王”であることを

忘れてしまいそうになる。


(忘れたら、きっと……)


守るべきバランスが壊れる。

世界も、三人との関係も、

全部。


影は、

じっとその場で動けなくなった。


 


◆ 夜、三人の本音


その日の夜。

リビングには、いつものように三人が集まった。


でも今日は――

誰もすぐには口を開かなかった。


空気が、

わずかに重い。


先に口を開いたのは、アリアだった。


「……兄者」


名前を呼んだだけなのに、

喉がきゅっとつまる。


クオリアの影が、

いつものように揺れた。


「兄者のこと、好きじゃ。

誰よりも好きじゃ。

だけどな……」


アリアは拳を握りしめた。


「怖いのじゃ。

このまま好きでい続けたら、

兄者を“影じゃなくて人に戻したい”って望んでしまいそうで」


セレナも、

同じようにゆっくりと口を開く。


「私も。

クオリア兄さんがそばにいてくれるだけで幸せだけど……

いつか、“一緒にどこかへ行きたい”って望んじゃいそうで」


リオナは涙を溜めながら笑う。


「もし、先輩が“戻りたくない”って言ったら……

それを尊重したほうがいいって、頭では思うのに……

心は“戻ってきて”って言い続ける気がして……

怖いです」


誰も、

「大丈夫」

とは言わなかった。


だって、本当は――

大丈夫じゃないから。


 


クオリアの影は、

三人の前で静かに揺れた。


ホワイトボードに、

ゆっくりと文字が現れる。


《俺も 怖い》


たったそれだけの言葉に、

三人は息を詰まらせた。


続けて、

文字が増えていく。


《離れたくないから》

《もっと近づきたくなるから》

《もっと触れたいって思うから》


影が震えた。


《距離を守れなくなったら きっと全部壊す》


その一行は、

クオリア自身の恐怖そのものだった。


アリアの目から涙がこぼれた。


「兄者……そんなの……兄者だけが怖がることじゃないのじゃ」


セレナも静かに涙をにじませる。


「怖いのは、一緒だよ。

私たちも、同じ場所で怖がってる」


リオナは泣き笑いになりながら声を上げる。


「だからこそ……一緒に怖がりませんか……?

先輩だけに“我慢させる”のは違うと思う……!」


三人は近づきすぎることなく、

でも、離れもしなかった。


テーブルを挟んで、

影のクオリアと向かい合う。


「クオリア兄者」

「クオリア兄さん」

「先輩」


三つの呼び方で、

同じ名前が呼ばれる。


クオリアの影は、

大きく揺れて――

それから、ふっと落ち着いた。


ホワイトボードに

最後の一行だけが、

ゆっくりと書かれる。


《一緒に 怖がってくれるなら 俺は少しだけ前に進める》


三人は、それを見て微笑んだ。


「なら、怖いままでいいのじゃ」

「不安のまま、隣に座ろう」

「一歩ずつ、一緒に進めばいいですよね」


完璧じゃなくていい。

答えが出なくてもいい。


怖さを隠さずに、

それでも手を伸ばすなら――

それはもう、“逃げてない”ってことだから。


影のクオリアは、

三人の影にそっと寄り添いながら揺れた。


好きだからこそ、怖くなる。


その怖さごと抱きしめていくことが、

この恋の“進み方”になるのかもしれなかった。


 

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