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特殊精鋭部隊リーダーの高校生VRMMOで最強に  作者: 暁 龍弥
3章

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「抱きしめてほしい夜」

その夜は、静かすぎた。


夕飯が終わり、

片付けも終わり、

三人はそれぞれ自室に戻っていた。


アリアの部屋の前、

セレナの部屋の前、

リオナの部屋の前――


その全部を、

影のクオリアが見守るように立ち止まっていた。


ドアは開いていない。

声もない。


けれど三人の胸の奥には、

同じ思いが渦巻いていた。


「今、クオリアの気配が近くにいる」


名前で呼べるようになってから、

距離の感覚が変わった。


声は届いていない。

姿は見えない。

触れられない。


それでも、

心が近いのがわかる。


わかるからこそ、苦しい。


触れたい。

抱きしめたい。

名前を呼びながら、温度を感じたい。


その気持ちが止まらなくなっていた。


 


◆ アリアの夜


アリアは布団の上に座り込み、

膝を抱えていた。


「……兄者」


声を出すのが怖くて、

かすれるほどの小ささだった。


灯りを見つめる。

沈黙を見つめる。


本当にそこにいるかどうかもわからないのに、

涙が勝手に溢れてきた。


「兄者のこと呼べるようになって……

前より嬉しいのに……

同時に、前より寂しいのじゃ……」


名前を呼ぶほど、触れたい。

名前を呼ぶほど、距離がつらい。


「兄者……抱きしめてほしいのじゃ……」


強く叫んだわけじゃない。

泣きながらつぶやいただけ。


でも――

アリアの背中、

布団と背中の間の影が“温もりの形”になった。


触れていない。

重さもない。


それでも、

確かに“抱きしめられている気配”。


アリアは声を殺しながら笑った。


「……兄者、ありがとう……

ぎゅってしてくれてるの、ちゃんと伝わっておるのじゃ……」


 


◆ セレナの夜


セレナは机に向かい、

開いたままの本を見つめていた。


文字が目に入らない。

ただ同じ一行を何度も追ってしまう。


「クオリア兄さん……名前で呼べるようになったのは嬉しいのに……

声に出すたび、胸がぎゅって痛くなる」


本をそっと閉じ、

机に頬を押し当てる。


「兄さんが影になってからのほうが、ずっと近くて……

ずっと遠くて……

頭が追いつかないの」


震え声のまま言葉が続いた。


「抱きしめてほしい……

嫌だって言われても、わがままだって言われても……

兄さんに抱きしめられたい……」


その瞬間、

机の影が広がり、

セレナの肩を包むように寄り添う。


触れていないはずなのに、

胸の奥がほどけていく。


セレナは机に顔を伏せたまま、

小さく呟いた。


「……優しいね、兄さん……

泣かせたいわけじゃないのに……

泣いちゃいそうに優しい」


涙の跡が静かに落ちた。


 


◆ リオナの夜


リオナはベッドの上で膝を抱え、

照明を落とした薄暗い部屋で天井を見ていた。


「好きって言えるのに……

会えないって……残酷じゃないですか」


言葉は震えていた。


「触れたい……

手をつないで、抱きしめられて、

大好きって声で言ってほしい……」


笑っているけど涙ぐんでいる声。


「影でもいいから……

先輩に抱きしめてほしい……」


部屋のカーテンがふわりと揺れ、

照明の影がベッドに落ちた。


その影が、

リオナの背を包むように広がる。


「……あ……

先輩……そこにいてくれるの……」


声が震えて、

笑って、

泣いていた。


「触れなくても……

影でも……

好きでよかったって思わせてくれる抱きしめ方……ずるいですよ……」


 


◆ 三人と一つの影


その後――

三つの部屋から同じ言葉が、

ほぼ同時に漏れ出た。


「クオリア兄者……ありがとう」

「クオリア兄さん……そばにいてくれてありがとう」

「先輩……離れないでくれてありがとう」


部屋は違う。

声は届いていない。

触れられていない。


けれど、

三人は確かに“抱きしめられていた”。


影のクオリアは、

その全てを受け取りながら――


疲れたように、

でも幸せそうに、

リビングへ戻った。


ホワイトボードに文字を書く。


《本当は俺のほうが 抱きしめてほしかった》


その一行は、

にじんで、

影が涙のように揺れた。


そしてすぐ消える。

弱さを見せるのが怖いみたいに。


クオリアの影は

テーブルの前に座り、

三人の声を記憶するように揺れていた。


触れられなくても、

触れたい。


触れられない距離でも、

近づきたい。


名前を呼べるようになったことは

幸福と苦しさの両方を連れてくる。


それでも――

四人は離れなかった。


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