「恋の同盟締結?崩壊?」
夕方。
学校から帰ってきた三人――アリア、セレナ、リオナは、
リビングのテーブルに置かれた一枚の紙に目を奪われた。
《兄の幸せを最優先にすること》
その下には3行の掟が記されている。
《兄の席を独占しないこと》
《兄の物を勝手に持ち出さないこと》
《兄の影に過度な接触を試みないこと》
そして最後に、
《兄を困らせず、尊重しながら愛すこと》
「……クオリア兄さん、私たちがケンカしないようにって考えてくれたんだね」
セレナが静かに目を伏せた。
アリアは反対に目を輝かせて叫ぶ。
「兄者……妾たちのことを本当に大切に思ってくれておるのじゃ……!」
リオナは泣きそうに笑みを浮かべた。
「先輩……こんな優しい文章、読んだら余計に好きになるだけなんですけど……」
その時、ホワイトボードのペンが自動的に動き、文字が書かれる。
《仲良くしろ》
あまりにもシンプルで、
あまりにもクオリアらしくて、
三人同時に笑ってしまった。
そこでアリアが勢いよく立ち上がった。
「提案があるのじゃ!
クオリア兄者を幸せにするため、妾たち三人で“恋の同盟”を結ぶのはどうじゃ!」
セレナは少し驚いて、それからゆっくり頷く。
「クオリア兄さんの幸せが第一。
そのために協力できるなら、私は賛成」
リオナも嬉しそうに笑う。
「“先輩の幸せを守る同盟”……名前から優勝です♡」
すぐに三人は協定書作りを始めた。
「条文はこうじゃ! “兄者を一番に尊重する”!」
「“兄さんの嫌がることは絶対にしない”、これを入れましょう」
「“照れさせられる時は積極的に照れさせる”♡ これ大事ですよね♡」
リオナの項目だけ若干危険だが、勢いで採用される。
最終的に、ただひとつの条文が最も大事だと一致した。
《兄を幸せにするためなら、三人は協力する》
三人が署名した瞬間――
ホワイトボードに新しい文字が現れた。
《ありがとう うれしい》
アリアは涙をぬぐった。
「兄者……妾たちが仲良くするだけで嬉しいのじゃな……」
セレナは胸に手を当ててうなずく。
「やっぱりクオリア兄さんは、いつだって“思いやり”が基準なんだよね」
リオナは泣き笑いになりながら息を吐く。
「先輩……幸せにしてもらってるの、私たちのほうなんですけど……」
影は照れたように揺れた。
しかし、ここから話は暗雲に包まれる。
「で? クオリア兄者を幸せにする方法の提案は誰がするのじゃ?」
アリアの問いに、セレナが真顔で答える。
「兄さんの性格分析は私が一番正確だから、私が担当すべき」
リオナがすぐに反論。
「恋愛の機微は私が一番理解してます♡
先輩を幸せにするのは私の役目です♡」
アリアも負けていない。
「兄者はご飯と睡眠が幸せポイントなのじゃ!
つまり生活面を担当する妾が一番兄者の幸せに繋がるのじゃ!」
三人の視線が激突する。
クオリアの影は――あからさまに狼狽し始めた。
椅子が前後に揺れ、
湯呑みが浮いたり下りたり、
影の形が崩れたり丸まったり。
照れ・混乱・喜び・不安が全部混ざってバグっている。
リオナがあわてて影に向き直る。
「だ、大丈夫ですよ先輩! ケンカじゃなくて解釈が違うだけなんです!」
セレナの声も震える。
「クオリア兄さんを困らせたいわけじゃない……幸せにしたいだけなのに……」
アリアも涙目になった。
「兄者……妾たちの好きが大きすぎて暴走したのじゃ……ごめん……」
影は動きを止めた。
そして、静かに文字を書く。
《みんなが仲良くしてくれたら それだけで俺は幸せ》
三人は泣き笑いになった。
アリア:
「兄者ぁ……優しすぎるのじゃ……好きなのじゃ……」
セレナ:
「クオリア兄さん……私たち、ちゃんとあなたを守れる人になりたい」
リオナ:
「先輩……好きです。ずっと大好きでいますからね……」
影はふるふると照れたように揺れた。
三人は互いの手を重ねる。
「クオリアを幸せにするために、三人で協力する」
こうして、
“恋の同盟”は正式に結ばれた。
その直後――
アリア:「兄者に寝る前の紅茶を淹れるのは妾の役目じゃ!」
セレナ:「兄さんの読書灯の調整は私がやります。譲りません」
リオナ:「先輩の照れ誘発イベントは私の担当です♡」
影――完全バグ。
《照れは補助しなくていい!!!!》
三人は爆笑に包まれた。
幸せで、温かくて、騒がしくて、泣けて笑えて、
影は照れて、
四人は今日も家族で恋人で仲間だった。




