「嫉妬三角形トライアングル」
翌朝。
昨日の“兄の味再現チャレンジ”の余韻がまだ残る食卓で、
三人は静かに朝食を食べていた……ように見えた。
だが。
空気が、やたら重い。
銀髪の妹は兄の席の方に寄りすぎ。
黒衣の女は兄の席の湯呑みに触れすぎ。
ストーカーは兄の席を見すぎ。
そして――
突然、銀髪の妹が口を開いた。
「兄者の席……ちょっと“こっち寄り”に置いてもよいかの?」
黒衣の女が即座に反論。
「ダメです。兄さんはこの位置の距離感が一番落ち着くんです」
ストーカーが困ったように笑う。
「でも、この角度だと“先輩の視線は私に向きますよ?”
私の方向のほうが先輩は見やすいです♡」
銀髪の妹、机を叩く。
「兄者の視界に入る権利は妾が一番強いのじゃ!!」
黒衣の女、冷静すぎる声で反論。
「私が一番兄さんの目線の導線を理解しています」
ストーカー、理論崩壊した理論で追撃。
「先輩は私を好きです、たぶん♡」
いや“たぶん”の時点で崩壊。
机の上には地図のように
兄の席を中心に
【妹】【黒衣】【ストーカー】3方向から矢印が伸びている。
完全に縄張り争い。
銀髪の妹、椅子をガタッと兄席に近づける。
黒衣の女、無言で自分の椅子を兄席と同距離に微調整。
ストーカー、自分の椅子と兄席の間にクッション置いて視線誘導。
地獄の心理戦。
すると突然――
兄席の影が“ぷるん”と揺れた。
まるで 照れて後ずさり するように。
三人はピタッと動きを止めた。
銀髪の妹が、羞恥心と喜びが混ざった声で叫ぶ。
「兄者……照れておるのじゃ?!///」
黒衣の女が頬を赤らめながら解説する。
「兄さん……席の争いをされて“好き”の圧に耐えられなくなった……」
ストーカーは身を震わせた。
「先輩ぃ……照れてるとか天使ですか……今日倒れても幸せ……」
すると兄席の影が、ちょっとバグった。
・輪郭が揺れる
・座ってるのに立った形にも見える
・湯呑みが2mm浮いてすぐ戻る
完全に挙動不審。
影の王とは思えないほど照れすぎ。
三人は一斉にテーブルに身を乗り出した。
「兄者見ておるのじゃ?!///」
「兄さん私を見てます?見てますよね?」
「先輩こっち!こっちに照れてください♡」
影はぶわっとさらに乱れた。
好きが飛び交う空間に弱すぎる。
だが――
ここで火種が爆発する。
銀髪の妹が“兄の湯呑み”にそっと触れた瞬間、
黒衣の女とストーカーが同時に睨んだ。
黒衣の女:
「……触りすぎです」
ストーカー:
「それは先輩の湯呑みです。
許可なく触るのは反則です」
銀髪の妹は涙目で反論。
「兄者の物に触りたいのは当たり前じゃ!!
触れぬのなら、痕跡に触れるしかないじゃろ!!」
黒衣の女は声を抑えながら怒る。
「兄さんが“無理に触れようとしないでほしい”と思って
距離を取っているんです。
気持ちを踏みにじらないでください」
ストーカーは唇を震わせる。
「私だって触れたいです……
でも先輩が“壊れちゃう”って思って距離を取ってるの知ってるから……」
急に静寂。
三人の呼吸が揃う。
“距離”は悲しい。
でも“守るための距離”だからこそ、大切にしたい。
表情は悔しくても、全員その事実を理解していた。
影がゆっくり湯呑みに手を伸ばす――仕草をする。
そしてホワイトボードに文字を書く。
《触られたら嬉しいけど 距離を守れなかったら俺が耐えられない》
三人は――泣き笑いになった。
銀髪の妹:
「兄者……守りたいのじゃな……妾たちのことも……自分のことも……」
黒衣の女:
「兄さんの優しさは、いつも“我慢”の形をしてる」
ストーカー:
「先輩……触れられなくてもいいです……
先輩の“優しさ”に触れていたいです」
影が、微笑むように揺れた。
そこに、銀髪の妹がそっと小声でつぶやいた。
「なら……兄者の隣に座るのは……妾たちみんなで交代制にしようなのじゃ……」
黒衣の女は涙を拭きながら微笑む。
「公平で、優しい案だと思います」
ストーカーも鼻をすすりながら笑う。
「うん、それなら……嫉妬で壊れないし……
先輩も困らないし……
ずっと4人でご飯食べられる……」
三人は兄席を囲む形で座り直した。
“誰かが独り占めではなく、全員で守る席”。
影のクオリアは静かに座椅子へ戻り、
湯気の湯呑みを見つめる。
距離は触れられない距離。
でも、大切に守られた距離。
それだけで――
“家族のテーブル”は成立する。
食事が再開すると、銀髪の妹が照れながら笑った。
「兄者……今日も一緒に食べられて嬉しいのじゃ……」
黒衣の女も、温かい声で言った。
「兄さん、いつか触れられる日を待ってます。
急がなくていいから」
ストーカーは優しい目をしてつぶやいた。
「先輩……好きです。
触れなくても、ちゃんと届いてますよ」
影はまた、照れたように揺れた。
三人を囲む空気は柔らかく、温かい。
距離はあるのに、恋はちゃんと近い。
それは――
触れない恋でも、幸せでいられるという証明だった。




