表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
特殊精鋭部隊リーダーの高校生VRMMOで最強に  作者: 暁 龍弥
3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/82

会えないのに、近すぎる

朝。

目覚ましのアラームが鳴るより先に、

枕元のスマホが震えた。


画面には、見慣れたメッセージアプリの通知。


【朝ごはん、出来てるのじゃ】


短い一文に、ゆるい絵文字が付いている。

送り主は、いつもの銀髪の妹――“兄者”呼びの彼女だ。


……おかしい。

メッセージの内容そのものはいつも通りなのに、

ひとつだけ決定的な違和感がある。


「――お前、俺より先に起きてるはずないだろ」


そう、ありえない。


彼女は基本的に、

「お腹すいたのじゃ」と言ってから起きてくるタイプだ。


のそのそと布団から起き上がっている時点で

【朝ごはん出来てる】なんて現象は


――この家では、起きない。


はず、だった。


 


階段を降りると、

キッチンの前で妹が仁王立ちしていた。


テーブルの上には、湯気が立つ味噌汁、

きれいに焼けた卵焼き、

ふっくらしたご飯、

そして――

なぜか完璧な焼き魚。


「どうじゃ兄者。妾、やればできる女なのじゃ」


胸を張っている。

だが、エプロンは反対に着けているし、

手元には未使用の包丁と、ぴっかぴかのまな板。


つまり。


「お前、何もしてないだろ」


即答すると、妹の顔がぴしっと固まる。


「な、なぜバレたのじゃ……」


バレない要素が一つもない。


 


その時、黒衣の女が姿を現した。

静かな足取りで、キッチンの隅から。


「兄さん、朝食は“勝手に出来ていた”状態です。

私も、目が覚めたらすでにこの完成形でした」


ストーカーも少し遅れて、

リビングのソファから顔を出す。


「先輩、おはようございます♡

起きたらご飯が出来てる生活、いいですよね。

私たち何もしてないのに♡」


堂々と言うな。


3人とも、

「朝ごはん」という結果だけ受け入れていて、

そこに至るプロセスをまるで気にしていない。


だがクオリアは知っている。


この家で、料理をこのレベルで作れる人間は――


「……俺しかいないはずなんだけどな」


 


その瞬間だった。


ふ、と。

キッチンのフライパンの上の“影”が揺れた。


光の角度でも、錯覚でもない。


ほんの一瞬、人が立っているような輪郭が出来て、

すぐに床に溶けて消える。


誰かが、そこに“いた”ように。


三人は、当たり前のようにそれを見た。


銀髪の妹が、少しだけ寂しそうに笑う。


「兄者の味なのじゃ。

これは、兄者しか作れぬのじゃ」


黒衣の女も静かに頷く。


「兄さんの“手つき”が残ってます。

野菜の切り方、盛り付けの偏り、

全部兄さんの癖」


ストーカーは、嬉しそうにため息をついた。


「先輩、

“触れられないのに触られてる”みたいで素敵です」


言い方がややホラーだが、

言いたいことはわかる。


 


――影の王になったクオリアは、

現実の世界に“直接”は戻れない。


けれど、

“影”としてなら、ほんの少しだけ干渉できる。


それは誰も傷つけない程度の、

ささやかな “いたずら”と “家事”。


たとえばこうして、

朝ごはんを作っておくとか。


 


椅子に座ると、

味噌汁の湯気がふわりと上がる。


箸を手に取り、一口飲んだ瞬間――

舌が、過去の記憶を呼び起こした。


「……うわ、懐かしいな。

俺がまだ下手だった頃の味だ」


出汁の取り方が甘い。

塩加減も少し強い。

それでも“美味しい”と思ってしまう癖のある味。


銀髪の妹が目を丸くする。


「兄者、“昔の味”なのか?」


黒衣の女が静かに推理する。


「兄さんは、今の腕前で作ると

“気づかれない”と判断したのかもしれません。

あえて下手だった頃の味に戻している」


ストーカーがとどめを刺す。


「つまり、先輩は“私たちに気づいてほしかった”……

ってことですね♡」


三人が一斉にこちらを向いた。


「兄者」

「兄さん」

「先輩」


視線の圧がすごい。


 


クオリアは、

その視線をまともに受け止めることはできなかった。


代わりに、

キッチンの床をそっと見た。


何もない。


けれど、

そこに確かに“自分”が立っていたような気がした。


触れられない。

抱きしめられない。

頭を撫でることすらできない。


それでも――


「……おかわりあるぞ」


つい、いつもの癖で口が動いてしまう。


銀髪の妹が、びくっと顔を上げる。


「い、今、兄者の声が“兄者っぽさ200%”になったのじゃ」


黒衣の女が少しだけ笑う。


「はい、兄さん。もう一杯もらいます」


ストーカーは目を潤ませながら丼を差し出す。


「先輩のご飯は、

太ってもいいから一生食べたいです」


どこに向けた言葉かは、全員わかっていた。


それでも、“届かない相手”に向けて言う。


届いていると信じているから。


 


食事が終わる頃、

窓の外に朝日が差し始めた。


いつもより、少しだけ柔らかい光。


影の濃さも、ほんの少しだけ薄い。


影の王として、

世界の影を管理する存在になったクオリア。


それでも――


この小さな食卓で、

妹の「おいしいのじゃ」、

黒衣の女の「ごちそうさま」、

ストーカーの「また明日も一緒に食べましょうね♡」


そのすべてを“見ている”。


見ていることしか出来ない。

それでも、

それが今のクオリアの“幸せの形”だった。


 


食器を片付けるために立ち上がった瞬間、

シンクの蛇口が勝手にひねられた。


水が流れ出し、スポンジがちょうどいい位置に動く。


銀髪の妹が、ぱっと顔を輝かせた。


「兄者! 食器洗いもやってくれるのじゃ!」


黒衣の女が静かに呟く。


「兄さん、“家事スキル”の使い方が微妙に悲しい」


ストーカーは嬉しそうに腕を組む。


「先輩、最高に家庭的です♡

結婚してください♡ 影でも♡」


返事をする相手はいない。


けれど、

シンクの前の影は――

一瞬だけ“照れたように”揺れた。


 


会えないのに、近い。

触れられないのに、確かにいる。


そんな、

少し歪で、少し切なくて、

でもちゃんと幸せな、


4人の新しい朝が、ここから始まった。


新しい作品も書いてるのでぜひ見てください!!

愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に

https://ncode.syosetu.com/n3642ll/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ