終われない
影の記憶が途切れたあと、
クオリアは重たい息を吐きながらVR機器を外した。
夜のはずなのに――
窓の外の空は黒すぎた。
ただの夜ではなく、
光を吸い込むような深い黒。
まるで“空そのものが影化”しているようだ。
胸の奥がざわつく。
嫌な予感は、ほとんど確信に近かった。
廊下の電灯が突然ふっと消える。
スイッチの故障ではない。
停電でもない。
光は届いているのに、
影だけが光を飲み込んでいる。
そして――
床に落ちた影が、ゆっくりと“形”を作り始めた。
這うでもなく、滑るでもなく。
ただ立ち上がる。
冷たい息が漏れそうになる瞬間――
ストーカー、銀髪の少女、黒衣の女が駆け込んできた。
三人の表情には怯えはない。
ただ、戦う覚悟だけがあった。
「兄者、もう攻撃が現実にまで来ているのじゃ」
「兄さん、影の王は“待たない”。
あなたが救いに来る前に“奪おう”としてる」
「先輩、影はここにいる全員を狙ってきます。
“先輩の心を壊すため”に」
影は動かない。
だが“待っている”。
狙いは一つ。
戦いではなく――心の揺らぎ。
必要としている相手が傷つけば、
罪悪感がクオリアを殺す。
だから影は、戦う前に奪いに来た。
次の瞬間、スマホが震えた。
クラスメイトからのメッセージ。
【なぁクオリア、今日寝れねぇんだけど…家の影の位置おかしくね?
なんか……天井に影があるんだよ】
背筋が凍った。
影の王は、もう“他者”にまで干渉を始めている。
ただ出現するだけではなく、
じわりじわりと侵食し、広げていく。
小さな持久戦ではなく、
“まとめて奪う”準備に入ったということ。
銀髪の少女が冷静に声を落とす。
「兄者、このままだと影は現実を飲み込むのじゃ」
「あと数日で、世界の“昼”が消える」
黒衣の女が続ける。
「影の王は迷っている兄さんを狩るために、
“世界ごと夜にする”気」
ストーカーが最後に言う。
「影は“孤独な世界”を望んでいます。
それは“先輩がひとりになる世界”です」
現実世界が“影の世界”に置き換わる前に、
決戦に向かわなければならない。
時間は――あと数日。
影はそれをわかっているからこそ、
焦らない。
追わない。
ただ“待つ”。
クオリアが折れる瞬間を。
床の影が再び揺れ、
今度は言葉にならない感情の圧が押し寄せる。
言葉ではないのに意味だけが伝わる。
“来い”
“置いていくなら奪う”
“選べなければ終わる”
“選ぶほど傷つく”
“だから壊してやる”
影の王は敵ではない。
奪う怪物ではない。
救われなかった心が、
“救いを強制しようとしているだけ”。
だから歯止めが利かない。
影が音もなく消えた。
その消え方は“敗北”ではなく――
“待ってやる”という余裕。
三人がクオリアの周囲を守るように立つ。
「兄者の心が折れなければ勝てるのじゃ」
「兄さんの選択が揺らがなければ影は負ける」
「先輩が逃げなければ、影の王は救われる」
クオリアは歯を食いしばった。
時間がないから急ぐのではない。
時間がないから――迷っている暇がない。
影の王を倒すのではなく、
影の王を“ひとりにしないため”に戦う。
その決意が折れたとき、
現実世界は影になる。
選ぶだけでは終われない。
“選び続けなければならない”。
次に向かう場所はひとつ。
影の王の城。
そして最後の戦いは、
勝つか負けるかではなく――
救えるか、救えないまま終わるか。
新しい作品も書いてるのでぜひ見てください!!
愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に
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