影の鏡宮
《ログインします》
視界が闇に沈む。
次の瞬間、目の前に広がったのは巨大な宮殿――
だが建物の壁も床も、すべてが 鏡。
反射するのは姿だけではない。
心の揺れ、迷い、迷信、恐怖までも鏡に映り込む。
クオリアはギアス族の身体のまま宮殿に立っているはずなのに、
鏡には“クオリア(人間の姿)”が映っていた。
ゲームのアバターではない。
剥き出しの 本来の自分 がそこにいた。
息が詰まる。
鏡宮は嘘を映さない。
足を踏み入れた瞬間、影の声が響く。
声ではない。
心の奥でささやくように。
“必要とされていなければ価値がない”
胸が締まり、肺がゆっくり凍るように冷たくなる。
しかし、足を止めると敗北だ。
迷いが濃くなると鏡は影に変わり、飲み込まれる。
一歩、踏み出す。
鏡が揺れ――
映像が変わった。
そこに映っていたのは、
三人が楽しそうに笑い合う光景。
……クオリアはいない。
三人がケーキを食べながら談笑し、
クオリアの席は“空席”のまま。
鏡の文字が、勝手に浮かんでゆっくりとにじむ。
《いなくても成り立つ》
胃の奥が冷たく痛む。
その感情を引き金に、鏡の中の光景が変わる。
三人が誰か別の人物を囲んで笑っている。
その“中心”はクオリアではない。
《代わりはいる》
胸に棘が刺さる。
鏡は「現実」を映しているのではない。
クオリアの“恐れている未来”を言葉と映像で突きつけてくる。
拒絶したくても、感情は一度揺らぐと影に喰われる。
鏡から黒い手が伸び、足首を掴む。
「……っ!」
一瞬で冷たさが全身を走り、膝が落ちそうになる。
影の囁きが迫る。
“必要じゃないなら、いなくてもいい”
その言葉の破壊力は刃より鋭い。
だが――
ふと、心のどこかで思い出した。
三人と過ごした時間。
守られた日ではなく、守りたいと思った瞬間。
必要とされた日ではなく、必要とした日。
影が囁いた内容が真実だとしても、
それでも残る感情がある。
「……違う。
いなくちゃいけないからじゃない。
俺が、いたいと思ったからいるんだ」
言葉を口にした瞬間、鏡が弾け飛ぶ。
黒い手が砕け、影が霧になる。
鏡宮は“答え”を得た時のみ試練が進む構造だった。
足元の床が光り、次の部屋への扉が開く。
二つ目の部屋。
鏡が映したのは――
クラスメイトが影に飲まれる未来。
体育倉庫の影に引きずられ、
助けを呼ぶ声が誰にも届かず、
やがて存在が“消えていく”。
鏡の文字。
《救えなかった》
胸が痛む。
鏡はしつこく畳み掛ける。
《お前を助けるために他者が犠牲になる》
《必要とされすぎると、誰かが奪われる》
背中に冷たい汗が流れる。
影の狙いはわかっている。
“クオリアを追い詰めるために、罪悪感を使う”
膝が震えたその瞬間、鏡がさらに追い打ち。
《仲間を守るなら、お前は孤独でいろ》
胸の奥底を踏みつけるような言葉。
その理屈は“正しい”ように聞こえるからこそ危険。
孤独を選べば誰も傷つかない。
だから孤独になれ――
影は、それを“善意の顔で”押し付けてくる。
だが――
「……違う」
声は震えていたが、真っ直ぐだった。
「守りたいから、離れるんじゃない。
守りたいから、そばにいるんだ」
鏡が砕ける。
床に激しいひびが走り、影が弾け飛ぶ。
試練は終わりではない。
三つ目の部屋が開く。
ここは鏡が一つだけ。
他の部屋と違って、静かすぎる。
鏡に映ったものを見た瞬間――
心臓が止まりそうになった。
映っているのは クオリア自身。
鏡写しではない、“もう一人のクオリア”。
影ではなく、
闇ではなく、
偽物でもない。
もう一人の自分がゆっくりと口を開いた。
「必要とされることに怯えて、
必要とすることにも怯えて、
結局どちらも選べない俺が――本物だろ?」
鏡宮最後の敵は “影” ではない。
自分自身の心が作り出した“本音”だった。
言い返せない。
反論すれば嘘になる。
もう一人のクオリアが続ける。
「誰にも奪われたくなくて、
誰にも見捨てられたくなくて、
“孤独にも依存にも逃げたい”
それが俺だろ?」
感情が刺さるたび、足元の影が濃くなる。
だが、逃げなければ終わらない。
クオリアは拳を握り、ゆっくり一歩踏み出す。
「たしかに俺は弱い。
怖いし、迷うし、揺れるし、逃げたい」
“もう一人のクオリア”は微動だにしない。
「でも――
怖くても、
弱くても、
揺れても、
逃げても――
それでも“選ぶ”。
逃げたままじゃ終わらせない」
その言葉の瞬間、
もう一人のクオリアは静かに笑った。
優しく、どこか誇らしげに。
「……なら、行け」
鏡が砕け散る。
最後の扉が開き、黄金の光が満ちる。
影の王へ至る道が、ついに現れた。
新しい作品も書いてるのでぜひ見てください!!
愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に
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