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深夜。
三人が眠ったあと、クオリアはひとりでVRセットの前に座った。
現実の影は完全には消えていない。
部屋の隅で、薄くゆらめいたまま佇んでいる。
――逃げ続ければ、影は濃くなる。
――向き合わなければ、いつか奪われる。
守られているだけじゃダメだ。
誰かに必要とされているだけじゃなく、
自分でも誰かを“必要とする”強さがなければならない。
その答えを確かめるため、クオリアは静かに目を閉じた。
《ログインします》
視界が切り替わり、
新大陸アルターラの重い空気が身体を包む。
現実とは違う、音も匂いも冷たい世界。
まとわりつくような湿気のある静けさ。
目の前には、あの旅人が立っていた。
昨日と同じ深紅のコート。
だが今日は、表情の奥に何かを隠している気配があった。
「戻ったか。
……ひとりで来たんだな」
無感情でもなく、歓迎でもなく、叱責でもない。
ただ――少しだけ安堵している声だった。
「見ておけ」
旅人は視線を地面へ落とした。
クオリアの足元に広がる影が、
じわりと動いていた。
自分の影が勝手に揺らいでいる。
呼吸を忘れる光景。
旅人が説明する。
「アルターラは“必要とされる者”だけが存在できる。
必要とされないと、影に飲まれる」
昨日聞いたルール。
ただ、その続きがあった。
旅人はゆっくり言葉を足す。
「だがな――
“必要だ” と叫ぶだけでは影は退かない。
必要とされるだけでも影は退かない」
一瞬、心が強く跳ねた。
旅人は続ける。
「“必要とする”と、自分の意思で選べる者だけが、
影に飲まれずに進める」
必要とされる、だけでは弱い。
必要とする、誰かを選ぶ心。
昨日の夜、三人が温かさで影を押し返してくれたのは、
“必要とされている実感”が理由だった。
でもそこから一歩踏み込むには、
自分からも誰かを「必要だ」と選ばなければならない。
旅人は歩き出し、クオリアに向けて手招きする。
「ついて来い。
影の発生源を見せる。
この新大陸の“真のボス”へ続く最初の道だ」
その声は、導くというより試すようだった。
クオリアは影を踏みしめるように、一歩ずつ近づく。
影は揺れるが、飲まれるほどではない。
旅人はその様子を見て小さくつぶやく。
「……いい。
影に触れ、影に怯えても、逃げずに歩けるなら――
おまえはまだ死なない」
褒め言葉ではない。
評価に近い。
しかし、十分だった。
道を進むにつれ、景色はさらに不気味さを増す。
木々の影が地面に染み込み、
建物の廃墟は影の中に沈んで消えかけている。
死者の怨念ではなく、
孤独・嫉妬・忘却・拒絶――
人間の負の感情が形を持っている世界。
旅人は静かに説明する。
「ここでは“忘れられた者”が最も早く影に飲まれる。
誰かを必要とせず、誰にも必要とされない存在は、
秒で死ぬ」
その言葉に、クオリアは胸の奥が痛む。
必要とされることに怯え、
必要とすることに怯え、
“どちらもできなくなった者”の成れの果てが――影。
旅人は振り返らずに歩き続ける。
「行く先に、影の源がある。
アルターラを囲う黒幕。
俺たちβテスターが1人も勝てなかったもの」
クオリアは問う。
「お前は……なぜそれを教える?」
旅人は立ち止まり、静かに答える。
「――俺が必要としたからだ。
そして、おまえも俺を必要とする時が来る」
その言葉は、脅しではなく、未来の予告。
クオリアは理解した。
この世界の攻略は
“影と戦う”のではなく、
誰を必要とするのか
誰に必要とされたいのか
その答えを持って進むこと
それが生存条件であり、勝利条件。
旅人は最後に一言残す。
「次からは、おまえの仲間も連れてこい。
影は“ひとり”を最も狙う」
そこで視界が歪んだ。
強制ログアウトのような引き戻し。
旅人の最後の声だけが耳に残った。
「次の足場は“感情”だ。
……覚えておけ」
光が途切れ、現実へ戻る。
新しい作品も書いてるのでぜひ見てください!!
愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に
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