あたたかさ
翌日。
クオリアは買い出しメモを眺めながら、玄関で靴を履いていた。
冷蔵庫はほぼ空。
昨日シチューが“味見の名目で三人に3回ずつ食べられた”結果、
今日の食材はほぼゼロ。
外へ買い物に行くのは久しぶりではないが、
なんとなく気が重い。
理由は一つしかない。
――絶対につけてくる。
案の定、玄関の背後から声が重なる。
「兄者、妾も行くのじゃ」
「兄さん、荷物持ち担当として参加する」
「先輩♡ もちろん私も行きます♡ 外デートですね♡」
息ぴったりすぎる。
クオリアは冷静に返す。
「三人とも来る気なんだよな?」
三人は揃って頷いた。
「必要とされたいのじゃ」
「必要でいたい」
「必要としてください♡」
この“必要”という言葉が、
昨日の新大陸のルールと結びついて胸を刺す。
(……必要だ。ちゃんと)
心の中で答え、玄関を開けた。
◆
ショッピングモールへ到着。
休日ということもあり、人が多い。
騒がしい、明るい、平和そのものの日常。
だがクオリアの後ろは、平和ではない。
銀髪の少女は腕にしがみつき、
黒衣の女は密着して歩き、
ストーカーは背中に貼りつきながら甘い声を落とす。
まるで三方向同時に独占権を主張している隊列。
通行人の視線が痛い。
すれ違いの学生に聞こえる。
「見た?あの人、彼女3人連れてない?」
「いや彼女じゃなくて、護衛かもしれん……(震え声)」
「むしろ宗教団体じゃね?」
「わからん……でも怖い……」
間違ってはいない。
スーパーへ入り、クオリアはカゴを手に取る。
工夫した。
・片腕は銀髪少女が掴んでいる
・もう片腕は黒衣の女が離さない
・背中にはストーカーがぴったりつく
よって、カゴは“足で支えて運ぶ”形になった。
買い物とは。
肉と野菜を入れようとすると、
三人の“購入攻防戦”が始まる。
銀髪の少女:
「肉多めなのじゃ!兄者は肉が好きなのじゃ!」
黒衣の女:
「バランス重視。魚と野菜中心」
ストーカー:
「先輩のために“甘い物だけ”で良くないですか?♡」
偏り方が極端。
クオリアは小さく溜息をついたあと、
肉・野菜・魚・デザートをバランスよくカゴに入れた。
三人が一瞬黙り、
次の瞬間、同時に嬉しそうにした。
(……あぁ、本当に俺は“必要”だな)
そう思えた瞬間だけ、胸のざわつきが消える。
◆
支払いを終えて袋を持つ。
当然、誰も離れない。
その状態でモール内を歩いていると、
子どもたちがひそひそと話すのが聞こえた。
「なぁ、あれゲームのパーティみたいじゃない?」
「タンク・ヒーラー・アタッカーみたいな配置だ」
「真ん中の人、ラスボス感ある」
「てか後ろの人、ラスボスの嫁感ある」
「手前の銀髪の子も嫁感ある」
「横の黒い人も嫁感ある」
「嫁3人……???」
子どもたちの観察力、恐ろしい。
外へ出ると、夕日が差し込んでいた。
スーパーの袋を持ったまま、
三人に囲まれるように歩く。
銀髪の少女は腕を絡め、
黒衣の女は荷物を奪おうとし、
ストーカーは背中にぴったり張り付く。
日常のはずなのに、
戦場のような集中力を使わされる。
それでも――不思議と悪くない。
帰り道。
ふと、背筋に冷たい感覚が走った。
影がいない現実なのに、
“必要性”の価値観が追いかけてきているような感覚。
必要とされること。
必要とすること。
それが無くなった瞬間――
影が来るような錯覚。
銀髪の少女が優しい声で言う。
「兄者、大丈夫なのじゃ?顔が硬いのじゃ」
黒衣の女も気づく。
「無理して笑わなくていい。私は見てる」
ストーカーは寄り添いながら囁く。
「先輩……“大丈夫って言わなくても”大丈夫ですからね?」
その言葉が、
アルターラの冷たい恐怖よりずっと温かかった。
「……あぁ、大丈夫だ」
本音で、そう言えた。
その瞬間――
背後の“冷たさ”が一瞬だけ消えた気がした。
新しい作品も書いてるのでぜひ見てください!!
愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に
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