一時的な平穏
夕食を作り終え、
三人と一緒にテーブルを囲む。
メニューはシチュー。
鍋いっぱいに作ったはずなのに――
すでに鍋の底が見えている。
時間をさかのぼればわかる。
クオリアが皿を並べる間に、三人が
「味見」
「確認」
「最終チェック」
の名目で三回ずつ食べていた。
結果、半分消えた。
「兄者!うまいのじゃ!」
「兄さん、味が安定してきた。管理成功」
「先輩♡ この味、先輩の味♡」
賑やかで、うるさくて、楽しいはずの夕食。
だが、ふとした瞬間――
クオリアの心に “冷たいすきま風” が吹いた。
(……俺は、ちゃんと必要とされているんだよな?)
本来ならこんなこと考える必要はない。
愛されているのも大事にされているのも、日常を見れば分かる。
なのに、アルターラの価値観が、思考の奥にへばりついて離れない。
必要性で命が決まる世界。
不要だと判断された者が“消える”世界。
それを知ってしまったせいだ。
銀髪の少女がクオリアの袖を引っ張る。
「兄者、今日の後片付けは妾がやるのじゃ!
……その代わり、撫でて欲しいのじゃ」
黒衣の女が対抗するようにすぐ声を重ねる。
「兄さん、栄養管理のためにデザート作った。
後片付けは私がする。
……その代わり、抱きしめてほしい」
ストーカーが満面の笑みを浮かべる。
「先輩♡ 私は後片付けとかいらないので、
“添い寝3時間券” をください♡」
一瞬で修羅場の気配が立ち込めた。
クオリアは頭を抱えて言う。
「……俺が後片付けする。
その代わり、お前たちはリビングで待っててくれ」
三人はそれぞれ “勝者の表情” で振り返った。
(兄者に甘えてほしいのじゃ)
(兄さんが頼ってくれるなら本望)
(先輩に必要とされるとか優勝♡)
会話していないのに、
三人の嬉しさが伝わってきた。
皿を洗い終わり、
キッチンから戻ると――
リビングの空気が地獄だった。
・膝枕の席が一つ
・腕枕の席が一つ
・肩寄せソファ席が一つ
配置が完全に戦術級。
三人とも自分の席にクオリアを“誘導”する構えをしている。
本当に面倒を避けたくて
クオリアはあえて“中央の床”に座り込んだ。
「ここにする。
今日はみんなの近くにいるだけで十分だ」
想定外すぎたのか、三人とも硬直。
次に――全員が一気に寄ってくる。
銀髪の少女は腕にしがみつき、
黒衣の女は背中に寄り添い、
ストーカーは太ももに寄りかかり満足げにため息を吐いた。
あったかい。
重たい。
うるさい。
幸せ。
それでも、ほんの少し胸の奥がざわつく。
(俺が必要としていなければ、どうなるんだ?)
そう考えた瞬間――
背後の “空気” が一瞬だけ震えた気がした。
影がいないはずの現実で。
その気配は一瞬で消えた。
気のせいかもしれない。
ただの疲れかもしれない。
だがクオリアは悟る。
アルターラのルールは、
ゲームの中だけじゃなく“心の中”にも残ってしまった。
必要とされること。
必要とすること。
それが存在価値となる世界。
その価値観が、現実にまで滲み込んでくる――。
その不安を悟られないように、
クオリアは三人の頭を静かに撫でた。
ぎゅっと寄り添う三人の体温が、
しばし影の気配を押し戻してくれる。
ただ、クオリアは思い知る。
“必要であり続ける日常” は、
戦争よりも疲れる。
新しい作品も書いてるのでぜひ見てください!!
愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に
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