休息
北方帝国を制圧したあと、クオリアはログアウトした。
視界が暗転し、ヘッドセットを外す。
冷たい雪原の感覚がまだ腕に残っているようで、
しばらく息を整えた。
椅子にもたれながら天井を見上げる。
「……疲れた」
戦争での疲労とは違う、深い倦怠感。
勝利しても、心が軽くなるわけではない。
キッチンへ歩き、コップに水を注いで飲んだ瞬間。
ガチャッ
玄関の扉が勢いよく開く音がした。
「兄者ぁぁぁ!!妾は限界なのじゃぁ!!」
銀髪の少女がダッシュで抱きついてきた。
「にぃに不足なのじゃ……ログアウトしてくれるの遅いのじゃ……」
ゲームでは冷静だったのに、現実では甘え全開で泣きそうになっている。
クオリアが返事をする前に、また扉が開く。
「兄さん!カロリー管理のため間食を少しずつ摂ったほうがいいと思って、
栄養補助食を10種類買ってきた」
黒衣の女が大きな袋をドサッと置く。
その袋の中身は半分以上チョコバー。
カロリー管理とは。
続けざまに、さらに扉が開いた。
「先輩♡♡♡♡♡
やっと会えましたぁぁぁぁぁぁ!!!
先輩不足で死ぬかと思いました♡
先輩成分の摂取、今すぐ必要です♡♡♡」
ストーカーが入ってくる。
あまりにも自然に抱きつこうとするので、クオリアは回避した。
キッチンに三人がそろい、
空気が一瞬で修羅場温度に変わる。
硬直した空気の中、
銀髪の少女だけがクオリアの腕にしがみついている。
沈黙が続いたあと、
黒衣の女が低い声で言った。
「……まず兄さんに休ませよう。
そのうえで、順番を決めるべき」
ストーカーが微笑む。だが、目は笑っていない。
「順番なんて要らないですよ?
先輩は“私とだけ”休めばいいんです♡」
銀髪の少女の表情が一瞬で牙を剥いた。
「にぃには妾とだけ休むのじゃ。妾の疲れが癒えるのじゃ!」
黒衣の女が溜息をつきながら紙を取り出す。
「スケジュール作った。
兄さんの休息を誰が担当するか時間割で表にしたほうが――」
クオリアは両手で机を叩いた。
「頼む、今日は休ませてくれ。
戦争より休息が必要だ」
声は切実だった。
三人は沈黙して、目を合わせる。
その静寂のあと――
三人同時に口を開いた。
「「「一緒に休めばいい!!!!」」」
結論の方向性は一致したが内容は最悪だ。
その直後、リビングがカオスに変わる。
「兄者の膝枕は妾じゃ!」
「兄さんのマッサージ担当は私!」
「先輩の腕枕は私♡♡♡」
三方向から同時に掴まれ、引っ張られる。
腕、肩、腰。
ポジション争奪戦が白熱しすぎて怪我の危険すらある。
クオリアは叫んだ。
「ちょっと待て!
今日は“誰にも触れられずに休む日”にする!!」
一瞬の静寂。
三人の視線がそろって動いた。
最終的に、こうなった。
・クオリア → ソファ
・三人 → それぞれ距離をとっての“監視体制”
「にぃにの呼吸を聞いて落ち着くのじゃ」
「兄さんの筋肉の動き観察してるから」
「先輩のまばたきの回数を記録してます♡」
休息とは。
クオリアは天井を見つめながら小さく呟いた。
「戦争より家のほうがハードモードなのはどうしてなんだろうな……」
三人は完璧に揃った声で――
「「「好きだからに決まっている」」」
クオリアの精神力のほうが国家より強いのかもしれない。
新しい作品も書いてるのでぜひ見てください!!
愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に
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