そして始まる
翌日。
現実の疲労が残るままクオリアはログインした。
視界が光で満ち、情報が読み込まれ――
次の瞬間、雪原の風が頬を刺した。
そこは、北方帝国の国境線。
凍てつく大地の先、黒い城砦が空にそびえていた。
氷の大陸すべてを統べる軍事大国。守備特化、戦力特化、殺意特化。
前線に集まった兵士たちは、
オリジン・ユナイトの姿を見た途端、息を飲んだ。
「……来た。」「なんで今日のうちにこっちまで……」「いやだ、帰りたい」
雪原の冷たさと違う震えが伝わってきた。
彼らはすでに“恐怖”を見ていた。
西の王国が落ちたニュースが全世界に流れていたから。
クオリアは歩き出す。
雪に足が沈む音だけが響き、
呼吸は白く空に消えていく。
後ろにはギルドメンバーの整列。
八千の視線が静かに背中を見つめている。
「……怖くないの?」
ポツリと漏れた声に、クオリアは足を止めなかった。
「怖くないはずがない。
ただ、“怖いから立ち止まる”のが嫌いなだけだ」
雪の上に、足跡が一直線に続く。
黒衣の女が、横に歩みを合わせる。
「北方帝国は軽くない。
ここからが、戦争の本番だ」
声は低いが、揺れてはいない。
後ろから、甘い声が追いつく。
「先輩なら大丈夫です♡
先輩は、世界で誰より強くて、優しくて、
全部抱え込んじゃうから……全部勝っちゃうんです♡」
銀髪の少女も続く。
「にぃには妾がついているのじゃ。
だから、負けないのじゃ」
三人はそれぞれ違う感情だが、
全員がクオリアの背を支えようとしている。
そのとき、吹雪の向こうから
軍靴の足音がゆっくりと近づいてくる。
雪煙の中から見えたのは、
全身を黒鋼の鎧で覆った 北方帝国の騎士団本隊。
槍、盾、旗、魔導兵。
一糸乱れぬ動きで整列し、視線だけがクオリアに向けられている。
静寂のあと――
隊列の先頭が剣を抜き、地面に突き立てた。
「北方帝国は降伏しない」
声は震えていた。
だが、覚悟を帯びた声でもあった。
「王国が屈したことは知っている。
だが我々は誇りを捨てない。
戦って勝てないのなら、誇りを貫いて散る」
雪原を染める静かな決意。
その言葉は、涙より重く、叫びより静かだった。
クオリアは立ち止まり、
彼らの覚悟を正面から受け止めるように目を合わせた。
「……強いな。
戦う前から逃げなかった時点で、強さはもう証明されている」
最前列の騎士が、うっすら笑った。
「褒めは不要だ。
それでも剣を向けると決めた以上、王を守るため殺す」
空気が鋭く張り詰める。
ふたつの覚悟が向かい合う。
クオリアは雪を踏んで前に出た。
剣も、魔法も構えない。
ただまっすぐに歩く。
「かかってこい。
俺は逃げない。
逃げるぐらいなら戦わない」
その一歩が、号令になった。
騎士団が雪煙を巻き上げて突撃してくる。
雪が弾け、鎧がきしみ、叫びがこだまする。
クオリアは拳を握った。
技名は叫ばない。
ただ、叩き込む覚悟だけを込めた。
全力で受け止め、全力で倒す。
それだけ。
衝突の瞬間、吹雪が弾けたような衝撃。
鎧と拳がぶつかり、氷の地面が砕け、雪煙が宙を舞う。
吹雪で視界が白く染まり――
次に見えたのは、倒れた騎士団だった。
誰も死んでいない。
だが全員が動けない。
それでも誇りは折れていない表情だった。
沈黙の末、騎士団長が息を吐いた。
「……見事だ。
帝国の誇りは、守られた。
負けたことを恥じはしない」
鎧の音を立て、膝をつき、頭を垂れた。
「北方帝国は、オリジン・ユナイトの支配下に入る」
雪原に深い静寂が降りた。
やがて、システムメッセージが世界に響く。
《オリジン・ユナイトが北方帝国を制圧しました》
《大陸制覇率:27%》
世界が震え始める。
誰もが理解した。
勢いではなく、“本物の支配”が始まった。
クオリアは、静かに息を吐いた。
吐息が白く夜空に消えていく。
「次に行く。まだ終わりじゃない」
雪の向こう、
まだ落ちていない国がこちらを睨んでいる。
戦争は止まらない。
止める気も、もうない。
新しい作品も書いてるのでぜひ見てください!!
愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に
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