続・現実にて
その日の夕食は、
クオリアが料理し、全員でテーブルを囲んでいた。
カレーのいい匂いが広がり、
盛り付けも整えられ、
家族の団欒……のはずなのに。
空気は濃く、重い。
誰も言葉を発していない。
いや、発すると爆発すると分かっているからこそ沈黙。
ようやく、銀髪の少女が口を開いた。
「にぃにの隣は妾なのじゃ。そこ譲るのじゃ」
ストーカーは冷たい笑みを浮かべた。
「先輩の隣は、私の特権ですけど?
現実でもゲームでも。
あと呼吸しながら嫉妬しないでください、音がうるさいです♡」
黒衣の女がスプーンを置き、低く言った。
「ここは食卓だ。殺気を出すな。
それと“音がうるさい”はお前もだ」
そこでようやくクオリアが声を出した。
「誰でもいいだろう、そこは席だ。食事中は喧嘩するな」
だが三人同時に反応する。
「「「誰でもよくない!!!!」」」
テーブルがわずかに震えた。
カレーの皿も震えた。
クオリアの胃も震えた。
銀髪の少女は続ける。
「에…え?にぃにの隣に座れるのは、妹の妾なのじゃ。
これは絶対なのじゃ。譲る理由がないのじゃ」
ストーカーも黙っていない。
「妹とかカテゴリで勝ったと思わないでください♡
先輩を愛して支えられるのは私なんです。
ほら、取り皿も水も全部用意してるんですよ?
献身という面で差が出てます♡」
黒衣の女の声は低いまま、怒りがにじんでいた。
「妹もストーカーも一度黙れ。
あたしが隣に座るほうが兄さんの摂取カロリーは安定する。
さらに空調・気温管理も含めて快適だ」
クオリアは目を閉じた。
――戦争のほうがマシなんじゃないのか、これ。
その時、ストーカーがニッコリ笑って危険な一言を放つ。
「先輩、言ってください♡
“誰の隣がいいか”を♡
選んでくれれば、全部解決です♡」
最悪の提案だった。
銀髪の少女の瞳が細くなる。
「にぃにに選ばせるな。逃げ道がなくなるのじゃ」
黒衣の女もテーブルを指で叩いた。
「そんな選択を兄さんにさせると思うか?」
だがストーカーは一歩も引かない。
「いいじゃないですか♡
本心を聞くチャンス♡
先輩だって1番隣に落ち着ける子がいるはずです♡」
見事に火に油。
修羅場は頂点に達しつつあった。
クオリアは椅子から立ち上がり、
静かに湯飲みを持ってキッチンへ歩き、
電気ケトルに水を入れた。
全員の視線が刺さる。
「どこに行くつもり?」
クオリアは疲れ切った声で答えた。
「……選ばないという選択肢を選ぶために、
一旦、逃げてる」
ケトルのスイッチが押される「ピッ」という音が、
なぜか爆弾の起動音に聞こえるほど緊張が走った。
銀髪の少女が立ち上がる。
「にぃに、逃げても無駄なのじゃ。
結局、誰かを選ばないと収まらないのじゃ」
ストーカーが笑いながら追撃する。
「でも~“1番落ち着く隣”って絶対あるんですよ♡
今言ってくれても、後で言ってくれても♡
逃げ切れませんよ?♡」
黒衣の女も静かに歩み寄る。
「兄さん。
あたしは“正解”を言えとは言わない。
ただ、いつか決めなければいけない日が来る」
クオリアはケトルの蒸気音の中で固まっていた。
時間が止まったように思えるほど静かだった。
沈黙のあと、クオリアは言った。
「……今日の隣はランダムで決める。サイコロを振る」
3人の声が揃った。
「「「解決してない!!!!」」」
修羅場は収まらず、
この日、夕食が終わるまでにクオリアは
テーブルを3回変わり、椅子を2回増やし、
最後は全員の間に座る羽目になった。
結果――
誰も勝っていないのに、
みんな勝った顔をしていた。
そしてクオリアだけ死んだ顔だった。
こんな修羅場が日常だなんて、
戦争よりタフすぎる。
新しい作品も書いてるのでぜひ見てください!!
愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に
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