ど変態仮面
《世界覇者イベント:残り46時間》
巨大な城砦ギルドホールは、いつもより静かだった。
戦争前の空気は、声の大きさよりも呼吸のほうが重い。
ホール中央にはクオリア。
視線だけで皆の中心になってしまう男だ。
その周りには各々の思惑を抱えた仲間たちが立っていた。
「最初は近くの国を落として前線を固めるほうがいい」
低く、落ち着いた声が響く。
戦略を語る女の瞳は冷静だが、どこかでクオリアの負担を気にしている。
「違いますよ? 先輩は最初から王都に突っ込むべきなんです。
世界の顔を絶望で染める、先輩らしい華々しい開幕ですよ♡」
明るく笑っているのに、どこか壊れた響きを持つ声。
クオリアに寄り添うように腕に触れて離れない。
「近寄るな。しつこい。にぃにに触るな」
鋭い声が響く。銀髪の少女がストーカーを引き剥がす。
言葉自体は短いけれど、張り詰めた感情が隠しきれていない。
「嫉妬しちゃってかわいいですね〜。
でも先輩は誰のものでもないんです。
先輩は先輩のもの。だから誰にも渡りません」
黒衣の女は額を押さえた。
「頭が痛くなる。戦争より内部のほうが厄介だ」
クオリアはため息をつき、肩を落とした。
戦う前から疲れがのしかかった気がした。
その時だった。アラーム音がホールを切り裂く。
《ギルドホール警報:危険度S++++ 侵入者》
バタバタとNPCが駆け込んでくる。
顔は真っ青、声は震え、半泣き。
「た、大変です……侵入者が……!
強さはもちろん危険なのですが、それよりも……
存在が……性的に危険で……!
視界に入るだけで精神にダメージが……!」
説明が意味不明なのに、嫌な予感だけは伝わる。
次の瞬間、巨大扉が吹き飛んだ。
土煙が晴れると、そこに立つ影。
パンツ一丁。
顔には女性物の下着を目元に巻いた仮面。
堂々とした立ち姿が、逆に恐怖を増幅させていた。
ホール全体が言葉を失う。
「見るな。視界が汚れる」
銀髪の少女が咄嗟にクオリアの視界を遮る。
「先輩は絶対見ちゃダメです。あんなのに心を触れさせたくない♡」
ストーカーはクオリアの腕を抱きしめて、守るように押し付けた。
黒衣の女は低く言った。
「視界の暴力……」
乱入者はマントを翻し、堂々と名乗りを上げた。
「クオリアァァァ!!!
貴様が“誰ひとり見捨てない”という変態的優しさ!!
そんな慈愛に、私は心の底から濡れ震えた!!
だから!!私も仲間にしてくれぇぇぇぇ!!!」
「無理」
「絶対嫌」
「排除する」
三方向から即答。
クオリアが口を開く前に戦争が起きそうな勢いだ。
だが乱入者は笑った。
「拒絶か。なら――力で加入権を奪ってやる!!!
勝った者こそクオリアの仲間になれる!!!」
気づいた時には、強制転移。
戦闘用アリーナへ移動させられていた。
観客席にはギルド全員、八千名以上。
静かなざわめき、息を飲む音があちこちから響く。
戦いを避けることはできない。
クオリアはまっすぐ立った。
戦いが始まると、乱入者は迷いなく間合いを詰めてきた。
羞恥のオーラなど感じたくなかったが、それは空間ごと押し寄せてくる。
一撃一撃が速すぎて視界から消える。
足捌きすら見えない。
一発受ければ精神が折れる予感すらした。
クオリアは距離を取る。
集中して、動きだけを見つめる。
乱入者は楽しそうに笑う。
「やっと本気の目になったなぁぁ!!」
クオリアは返事をしない。
ただ、静かに踏み出す。
次の瞬間、互いの攻撃が激しくぶつかり合う。
技名も、派手な演出もない。
しかし体が軋み、骨が震えるほどの応酬だった。
一見ただの殴り合い。
けれど一撃一撃に感情と意志が詰まっている。
妹は席の柵を握りしめ涙目で叫ぶ。
「にぃに!耐えて!負けないで!」
ストーカーは泣きながら床を叩いていた。
「先輩ぃぃぃ!!!!
負けたら絶対許しませんから!!
勝ってください!!勝ってくださいよぉ!!!」
黒衣の女は冷静に状況を見ていた。
「互角……? あのクオリアが……?」
戦闘はしだいに、拳ではなく意志のぶつかり合いに変わっていった。
逃げない。
折れない。
狙いはただ一つ。
――相手を“倒す”のではなく
――“受け止める”
乱入者の最後の一撃を受け止めた瞬間、クオリアの拳が静かに相手の胸へ触れた。
殴るのではなく、止めるように。
乱入者はそのまま膝をついた。
「…………負けた。
私を拒絶するためじゃなくて……
私を“受け止めるため”に戦ったんだな……
あぁ……惚れた……」
アリーナは静まり返ったままだった。
やがてシステムの光が乱入者を包んだ。
《新メンバーが加入しました:ど変態○○○○》
「仲間になってるじゃないですかぁぁぁぁ!!!」
ストーカーが絶望の悲鳴を上げる。
銀髪の少女は悔しそうに床を踏む。
黒衣の女は深いため息をついた。
戦争前に精神を削られるとは思っていなかったらしい。
そこへ――
《世界戦争イベント開始》
世界全土への宣戦布告が発令される。
ギルドホールに戻ると、歓声が渦を巻いていた。
クオリアは玉座へ歩き、静かに腰を下ろす。
「――世界を取りに行く」
その一言で全員が咆哮した。
妹、ストーカー、黒衣の女、乱入者、
そして八千の仲間たちの声が重なる。
「「「「「おおおおおおおおお!!!!!」」」」」
最強で最狂のギルドが
ついに世界へ歩み出す。
新しい作品も書いてるのでぜひ見てください!!
愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に
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